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OCEAN LIFE 図鑑 海の生物

OCEAN LIFE 図鑑 海の生物

スミソニアン協会・ロンドン自然史博物館/監修 遠藤秀紀・長谷川和範/日本語版監修

ISBN:978-4-487-81433-6
定価6,380円(本体5,800円+税10%)
発売年月日:2021年07月05日
ページ数:416
判型:B4変型判・上製

解説:
多様性に満ちた動物・植物たちを、圧倒的なビジュアルで紹介。手に取るように海がわかる、新しい海洋生物の図鑑が誕生!

・哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類から、棘皮動物、甲殻類、軟体動物、刺胞動物、被子植物、藻類、バクテリアまで、海の生物を斬新な視点で網羅。
・海岸、サンゴ礁、沿岸海、外洋、極域海洋など、海の地域別の構成で生物種を解説。生息地の環境とともに生態系、生物相についての理解も深まる。
・世界最大の博物館群であるスミソニアン協会と、世界の自然史研究をリードするロンドン自然史博物館によるダブル監修。
・海と生物を描いた数多くの美麗な博物画、古今東西の絵画作品を収録。海の芸術的な価値も広く紹介する。

《ぱらぱらめくると、数え切れない海の生き物が、分厚い頁に所狭しと躍っている。ほとんどの読者にとって見たこともない生物が、随所に溢れんばかりに描き込まれている。一方で、クジラだタコだイソギンチャクだと海藻だと誰もが知る生き物の紙面には、繰る者を隠された謎へ導く扉がしっかりと開かれているではないか。》
――遠藤秀紀(日本語版監修者、本書序文より)

『OCEAN LIFE 図鑑 海の生物』紹介動画

はじめに

 私たち人間は、分かっていそうで分からないことに対して本能的に魅せられてしまう。手の届かない物事に思いを巡らせることには、ロマンと憧れが同居するばかりか、本来そうする必要性があるようにさえ見える。宇宙の彼方、地球以外の惑星、異星人……。しかし、よくいわれるように、実はこうした事象よりもよく分かっていないかもしれないのが、地球の海洋にすむ生き物のことだ。というのも、海の80%は──誰にも近づけないといういたって単純な理由ゆえに──いまだ地図や海図に描かれておらず、観察も探査も行われていないからだ。
 私たち人間は空気呼吸をする陸生の哺乳類である。もちろん、泳ぎの得意な人はいるだろう。素潜りをしたり、日進月歩する潜水用具やロボットを駆使して海洋の神秘を探ったりしている人もいなくはない。そうでない大多数の人々は、ただ波を見つめるだけだが、その見つめている波の下に、もう1つの世界が広がっている。
 科学とテクノロジーのおかげで、その世界に関する知見は加速度的に増えつつある。そして本書が示すとおり、そこはおよそ理解が及ばないほどに美しくファンタスティックな世界なのだ。極小のものから極大のものまで、浅瀬にすむものから深海にすむものまで、獰猛なものから憶病なものまで、海にはさまざまな生物がいて、この惑星を私たちと分かち合っている。ただし、彼らのすむ世界は私たちがすむ世界とはまったく異なっている。これが興奮せずにいられるだろうか?
 本書を手に取る読者は、彼ら「湿った」隣人たちと顔を合わせ、海洋で進化を遂げた驚くべき生命の途方もない多様性を垣間見ることになるだろう。海はややもすると遠い世界に思えるかもしれない。だが、海と私たちの関係の文化的諸相を顧みれば、人を惹ひきつけてやまない、危険な、それでいて危険をおかすだけの価値があるこの領域と、私たち人間はずっと密接な関わりを保ってきたことに気づくはずだ。
 ただ、今は両者の立場が逆転している。私たち人間の方がむしろ大きな脅威となり、もはや海は海水の一滴たりとも安泰ではなくなってしまった。白化するサンゴ礁。深海の底に散乱するプラスチックごみ。プラスチックごみはウミガメやクジラの胃袋を膨らませ、アホウドリの雛ひなを窒息させている。
 海水の酸性化や環境汚染、そして魚の乱獲と、海洋全体の生態系を脅かす要因には事欠かない。だからこそ、今私たちはわだつみの驚異に浸ることで、海を愛し守る術を学ばなければならない。さあ、海中に身を投じ、未知なる世界を泳いでまわろう。そして、母なる海のために立ち上がろうではないか。

クリス・パッカム
(博物学者、テレビ番組司会者、作家、写真家)

序文──日本語版刊行にあたって

 人類は眼前足元にある巨大な自然について無知なままである。暮らしに物の豊富さを求めて星じゅうに廃棄物を撒き散らし、合理主義が全人類をコンピューターの囚われの身に貶めようかという技術至上の今日であっても、この地球の表面の七割以上 を占める巨大な世界―海―について、人間が持ち合わせている知識はあまりにも乏しい。水平線をはるかに望もうが船で大海原に出立しようが、視野を美しく埋め尽くす海洋を語る場面で、人は大した科学的論理を披露することができないのである。
 海に満ちる謎にスポットを当ててくれる書物はないものか。海へ若者が向ける興味に刺激的に応えてくれる本はないものか。海を手に取るように理解することを助けてくれる頁はないものか。海から人間が得る幸福を読み手と分かち合ってくれるエンサイクロペディアはないものか。その願いは空しく、いくらでもデジタル情報が手に入る世の中に生きているにもかかわらず、飾り立てられた情報テクノロジーそれ自体は、人々との豊かな知のやり取りを実現してはくれない。海はつねに遠いのである。
 隔靴掻痒、否、地団太を踏むとは、このことか。
 そんな思いのあたしの前に、『OCEANOLOGY』が現れた。ぱらぱらめくると、数え切れない海の生き物が、分厚い頁に所狭しと躍っている。ほとんどの読者にとって見たこともない生物が、随所に溢れんばかりに描き込まれている。一方で、クジラだタコだイソギンチャクだ海藻だと誰もが知る生き物の紙面には、繰る者を隠された謎へ導く扉がしっかりと開かれているではないか。
 ほくそ笑んだあたしだ。この図鑑の編者たちは、海をよく知るとともに、海への無知をあたしと同じように歯痒くまた悔しい思いで見つめている人たちに違いない。
 日本語版制作は、国立科学博物館の長谷川和範博士との二人三脚で始まった。
 「あれっ?」
 精読するにつれ二人揃って抱いた印象は、本書の原題『OCEANOLOGY』への心地よい違和感だった。タイトルの語感から想起される海は、惑星科学や地質学が解き明かす無機質の概念だ。ところが、さにあらず。実際の本書が熱弁を揮う好奇心は、 海洋に暮らす生き物たちの鮮やかな姿でもって巻末まで貫かれている。となれば、監修役は腹を括るのみ。そう、これから作る本で読者と分かち合うのは、「海が育む生命」だ。『OCEAN LIFE 図鑑 海の生物』が、海の生命と読者を結ぶ、末永い交流の場となることを願おう。
 東京書籍株式会社の編集者たちには日本語版の刊行意義を説かれ、半ば強引に仕事に巻き込まれたものと認識するが、実は感謝の気持ちで極まっている。「よい訳書とは何か」をともに悩み合うことが出来たと思う。学者は一人で人生を生きている顔をするものだが、その実は編集者に育てられている。心からお礼を申し上げたい。そして翻訳実務に携わってくださった多くの皆さんには、多大な労苦を強いてしまった。翻訳というもっとも創造的な日本語づくりの仕事の場で、学者ゆえに余計な口を出したことを心苦しく思う。皆にお伝えしたい、ありがとう。

日本語版監修者 遠藤秀紀
(えんどう・ひでき 東京大学総合研究博物館教授)

著者情報

スミソニアン協会(スミソニアンキョウカイ)
1846年設立のスミソニアン協会は、19の博物館とギャラリー、国立動物公園を有する世界最大級の博物館群および研究機関複合体である。所蔵されている文化工芸品、美術品、標本の総数は推定1億3700万点にのぼり、その大半の1億2600万点以上が国立自然史博物館に収められている。世界有数の研究拠点であるスミソニアン協会は、学校教育、公的活動に広く貢献し、芸術・科学・歴史の分野で奨学金制度も設けている。

コンテンツ

・海の世界
海洋とは何か?、海洋の成り立ち、海洋の気候、海洋の深さ
・岩石海岸
飛沫帯で生きる、海床に固着する、海岸侵食、潮が届かない場所で生きる、干潮を生き延びる、[芸術の中の海洋]大陸の端から端まで、岩を削る、しがみつく、プランクトンをこし取る、貝殻の中にすむ、波、陸の魚魚の体形、潮だまりの縄張り、潜水する外温動物、[芸術の中の海洋]色彩の海、絶壁での営巣、[注目の種]シロカツオドリ、岩場を跳ねる
・砂質海岸
飛砂の中で育つ/[芸術の中の海洋]/本物のような海/浜辺の営巣/砂浜と砂丘/[芸術の中の海洋]洋上のドラマ/[注目の種]アメリカワニ/漂着物をあさる/津波
・河口と干潟
堆積層での生活/潮汐/海底の毒針/隠れた危険/電気を感じ取る/繁殖のための回遊/泥に突き刺して探す/[芸術の中の海洋]オランダの黄金時代/くちばしを振って探す/足で釣る
・マングローブ林と塩湿地植生
塩湿地植生での成長/コロニー化される根/支柱の上で成長/逆さまの生活/生きた化石/塩水/鋏を振るカニ/水上での“狩り”/[芸術の中の海洋]海の印象/塩濃度変化への耐性
・サンゴ礁
シンプルな体/岩礁をつくる/一斉産卵/硬い骨格/群体で生きる/さまざまなサンゴの仲間/太陽からパワーをもらう/獲物を刺す/サンゴ礁/毒とともに花開く/扇を広げる/[注目の種]シャコガイ/武器を集める/色を変える/[芸術の中の海洋]博物学と芸術/宿主を掃除/変装の名人/海底に餌を求める/海の中の青/膨らむ体/[芸術の中の海洋]
アボリジニが伝える海の物語/相互防衛/性転換するもの/サンゴ礁は餌の宝庫/刃をもつ魚/サンゴ礁の魚たち/謎めいた魚たち/特殊化する鰭/[芸術の中の海洋]古代の海/サンゴ礁をこすり取る魚たち
・沿岸海
光の吸収/[注目の種]ジャイアントケルプ/海底の草原/光を生み出す/世代交代/[芸術の中の海洋]アジアの海神/管の中にすむ/刺さる剛毛/殻を開閉して泳ぐ/浮力を調節する/ハリケーンと台風/ジェット推進/ウミウシの仲間/重い体/懸濁物食者/[芸術の中の海洋]大波/腕で歩く/管足/ヒトデの仲間/棘に覆われた皮膚/[注目の種]アカシュモクザメ/水中を飛翔する/鰾/身を潜める/海水準の変動/全身で感じる/群れで回遊/[注目の種]オオグンカンドリ/急降下からの飛び込み/[注目の種]ラッコ/海で草を食べる/[注目の種]ザトウクジラ/湧昇と沈降/[注目の種]タイセイヨウマダライルカ
・外洋
分業/植物プランクトン/浮遊を維持する/暗闇での生命維持/新たな海洋底/深海の巨大種/分岐する腕/クラゲとヒドロ虫/ろ過摂食するサメ/海流/[注目の種]ホホジロザメ/ゆっくり動く巨体/[芸術の中の海洋]海の地図/暗闇の中の光/スピードのための設計/[注目の種]ワタリアホウドリ/大量の採餌/海洋底の消滅/[注目の種]シャチ
・極域海洋
[注目の種]ミジンウキマイマイ/海氷極域の群れ/凍らない魚/動物プランクトン/[注目の種]オウサマペンギン/熱を逃さない層/[注目の種]ミナミゾウアザラシ/敏感なひげ/棚氷と氷山/被毛のさまざまな機能/[注目の種]イッカク