MICRO LIFE 図鑑 美しきミクロの世界
ISBN:978-4-487-81576-0
定価6,380円(本体5,800円+税10%)
発売年月日:2022年07月12日
ページ数:416
判型:
「小さきもの」たちのもう一つの世界へ!
生き物の極小ディテールを拡大して紹介する図鑑が誕生!
【本書の特徴】
・動物、植物、菌類など、小さな生物から大きな動物の細部までを、驚異的な顕微鏡技術を駆使して超拡大写真で解説する図鑑。
・「栄養分の接種」「体を維持する動力」「感知と反応」「動き」「支持と防御」「生殖」「成長と変化」「生息地と生活様式」の機能と生態によるテーマ別の章構成。
・美しくダイナミックに表現することで生命活動全体と部分の連係が手に取るようにいきいきと伝わる。
『MICRO LIFE 図鑑 美しきミクロの世界』紹介動画
はじめに
ゾウは大きい。恐竜はさらに大きい。シロナガスクジラは史上最大の動物だ。しかし、体のサイズは本当に重要なのだろうか? 世界を動かしているのはこうした巨体の持ち主なのだろうか? 体が大きいことは本当にそこまで立派なことなのだろうか? そして、大きくなければ美しくないのだろうか?
端的にいって、答えは「ノー」だ。これから私たちは、この惑星にすむ微生物の世界を探索する素敵な旅に出発する。ゆらめく虹色の繊毛、珪藻類の被殻の見事な対称性、ハエの複眼がもつ「オプアート」のようなたたずまい……。旅が進むとともに、私たちの「大きな」目からは隠されていた、想像を絶するような奥深い美しさがベールを脱いでいくだろう。
もっとも、顕微鏡で見る世界の美しさは表面的なものではない。そこには私たち人間を含む生命そのものの起源がある。その複雑な歴史と、生命同士が結ぶ現在進行形の相互関係が、今なおこの惑星全体の生態系の基礎構造を形づくっている。本書では数々の「小さきもの」たちを取り上げ、驚異的な顕微鏡技術を駆使してその姿を映し出し、それぞれについて短い解説を付す。私たちがこうした「小さきもの」たちの目に見えない群れに囲まれて生を営みながら、それらの基本的重要性について認識や理解をしていないということは、驚きというほかない。別世界を垣間見ることを阻んでいるのが単にサイズの問題だというなら、いっそ私たちが小さくなればいい。小さくなって、われらが隣人たちに会いにいこうではないか。彼らは至るところに存在する。私たちの身のまわり、私たちの皮膚の上、私たちの体内……。中には悪さをするものもいるが、多くは善良な彼ら、そう、ウイルスや細菌その他の微生物のことだ。ミクロの世界で出会えるのは微生物だけではない。自分の臓器の内側をのぞき、細胞の内部に目を凝らそう。昆虫の知覚の仕組みを見、花粉や種子や胞子がどのような働きをしているかを知ろう。クマムシやダニと顔を突き合わせ、トビムシの、いかにも興味津々といった風情の黒い小さな目をのぞき込んでみよう。
この美しい本は私たちの世界に存在するもう1つの世界への扉である。私たちの体は大きすぎて、その世界を直接知ることはできない。しかし人類の叡智をもってすれば、その実相を明らかにすることは可能なのだ。
クリス・パッカム
(博物学者、キャスター、著述家、写真家、自然保護活動家)
酸素を運ぶ(赤血球)
玉虫色
序文ー日本語版刊行にあたって
「これは書店に並べるしかない」
原著の表紙を繰った瞬間に、そう確信した。紙面の無数の図に広がるのは、整頓された機能美。しかし、それはどれもみな紛れもなく、生命が表現している形だ。
本書は、裸眼を虫眼鏡に、虫眼鏡を光学顕微鏡に、光学顕微鏡を電子顕微鏡にと、小さいものをより大きく見ていく術の塊である。それぞれの倍率で、それぞれの視野で、それぞれの技法で、出来過ぎた形が生命の奥義を見る者に訴えかける。何も術をもたずに対象を傍観しているときの印象と異なり、サイズを自在に伸び縮みさせ、アングルを巧みに旋回させ、特性や凹凸を綺麗に飾る図の数々は、面白いほどに脳に焼き付く。一度見た形が網膜に定着して、またその頁を開きたくなるのだ。
思えばこれは、日本の生物学者がどちらかといえば苦手にしてきた営みかもしれない。博物学の伝統が欠けているためだろうか、この極東の島国では、生き物を探るというと、要素還元した物理現象や再現性一筋の定量事象に帰着させようとする。当然その思考プロセスは真っ先に姿無き遺伝子の論題に収束していくことになる。虫眼鏡を手にする以前に、遠心機とPCR(遺伝子増幅)で生き物を形無くグジャグジャに粉砕しながら、しばらくの間、“生物学”を作ってしまってきたのだ。
海の向こうから来たこの本からは、博物学の香りが漂う。その香りは、同時に、生命の形を見ることで、美に到達しようとする飽くなき悦びと形と、機能の調和への執拗な探究心を、私たちの前に丁寧に運んできているのではないだろうか。
シリーズの他の書と相変わらず、図と言葉が奏でる劇的でちょっと大げさな表現の数々は、突き詰めれば、博物学の好奇心で自然に探りを入れる西欧流の楽しみ方だろう。経済的先進国の仲間入りをしながら、科学技術なる悩ましい四字熟語に今日も翻弄される一億の日本人が、次の時代にこそ自然を探る心を気軽に楽しめるちょっとしたきっかけを、本書の頁が生み出すような気がしてきた。
『ZOOLOGY 図鑑 動物の世界』『OCEAN LIFE 図鑑 海の生物』と来て、
「三冊目、決定」
と、ほくそ笑んだ私だ。
かくなるMICRO LIFEは、私と東京書籍とが創り出す三冊目の試みである。すぐさま国立科学博物館の細矢剛さんを捕まえて、ともに仕事に取りかかった。三度目の正直ともなれば、同社の編集氏からは、世辞も遠慮もない叱咤激励を頂きながらの本づくりが続いた。日本語原案を考えた多くの翻訳家さんには、せっかく提示してくれたアイデアを一蹴することで責務を果たす監修という乱暴な役どころを、容赦いただかなければならなかった。皆に、心からのお礼を申し上げたい。
作業の片手間、原著を手に、たまたま開いたページを凝視して、呟く。
「このシラミ、……いい」
一億日本人から、いや七十億のホモ・サピエンスから恨みを買うこの極小の嫌われ者でさえ、MICRO LIFEが見るならば、命を凝集した究極の機能美を見せ始める。
嬉しい。
形の生命誌、イコール、MICRO LIFE。ここに誕生である。
日本語版監修者
遠藤秀紀(えんどう・ひでき 東京大学総合研究博物館教授)
水面に暮らす
花粉
ハチ