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挑戦を受ける民主主義と資本主義

挑戦を受ける民主主義と資本主義
――ショックセラピー2035

竹中平蔵 中林美恵子

ISBN:978-4-487-81626-2
定価1,430円(本体1,300円+税10%)
発売年月日:2022年10月31日
ページ数:256
判型:四六変形判

解説:
現在の世界は国家・国境を越えるグローバル資本主義のもとで運営されている。資本主義という経済システムが当面崩壊することはないが、最後まで生き残るのは、能力主義を前面に押し出すアメリカ型資本主義と、国有財産を使ってビジネスを展開する中国型の政治的資本主義と言われている。
また、民主主義国家に対抗するのが、中国やロシアなどの集産主義の国家である。これらの国は、政府が生産手段などの集約化・計画化・統制化を行う経済思想に基づいて運営されている。
資本主義は主義・主張・思想を指すわけではないが、それを支える民主主義、自由主義などの思想と混ざり合って発展してきた。そこに民主主義を否定する中国型資本主義と集産国家の代表であるロシアが挑戦してきた。
本書では、改めて資本主義と民主主義を問い直し、現代の課題に迫るとともに、今後世界はどこに向かい、我々は何をなすべきかを検証する。

まえがき「体制移行の時代」より

 世界はいま、大混乱の時代を迎えたように見えます。
 アメリカと中国という世界の二大大国が政治経済体制のあり方を巡って根本的に対立し、覇権を争う形になりました。多くの国で社会の分断が起こり、政治と経済が不安定化するようになりました。そして極めつきは、ロシアのウクライナ軍事侵攻に象徴されるように、私たちが長年築いてきた平和を守るための世界秩序が大きく崩れつつあることです。新型コロナウイルスの蔓延は、そうした世界の変化をさらに複雑なものにしています。
 その意味でいま世界は、根本的な「体制移行」の時代を迎えているのです。「体制移行」いわゆるトランジション(Transition)は、これまでも私たちは何度か経験してきました。日本の明治維新は、封建社会から近代国家を目指す大規模な体制移行でした。東西冷戦構造が終焉し、アメリカを中心とした市場経済に世界全体が統合されるプロセスは、グローバリゼーションを決定的なものにする重大な体制移行でした。
 そうした事例と比較しても、今日世界が直面しているさまざまな混乱は、われわれが本格的な体制移行の中にあることを示唆しています。民主主義と資本主義という世界が築いてきた叡智の産物が、大きな転機を迎えているのです。日々のニュースは、今日のコロナ感染者がどうか、ウクライナの戦場はどうかなどに関心が集まります。これらはもちろん重要ですが、その背後にあるより大きな体制の変化、まさに体制移行の姿に、関心を払う必要があるのです。
こうしたトランジションには二つの歴史的教訓があると、著者たちは認識しています。第一は、トランジションには10年単位の長期を要すること、第二は、変化の背景には根本的なテクノロジー変化が伴うことが多く、それへの対応如何で国家や企業のパワーに大きな変化が生じるという点です。体制移行の時代を、国家も企業も個人もどのように生き抜くかが、重要な課題なのです。

 こうした問題意識から、本書の企画・作成は始まりました。世界と日本が向かう方向を、幅広く、大きく、そして深く捉えてこの先を展望したい……これが本書の目指すところです。このため、経済研究者(竹中)と国際関係研究者(中林)の二人が討論する中で、以下のような項目について議論を重ねました。

 第1章はいわば総論として、いま、体制移行の重要な時期を迎えていることを述べています。目の前にあるウクライナ問題をとっかかりに、機能しない国連、民主主義と集産主義の対立など、今日の世界を俯瞰するための視点を議論していきます。

 第2章は、世界の中で日本が特別な位置に置かれていることに焦点を当てます。現在の岸田内閣は「新しい資本主義」を掲げていますが、資本主義は常に新しいものを求めて変化してきたという事実を忘れてはなりません。そうしたなか、一時期の成功体験に強くしがみつく日本の問題点を描写します。

 第3章はアメリカです。民主主義と資本主義のいわば総本山としての役割を果たしてきたアメリカ。そのアメリカが、いま深刻な問題に直面し、それが結果的に世界にも大きな影響を与えているのです。アメリカ社会の深刻な分断――その実態を分析し、分断がどういうことを意味しているかを議論していきます。

 第4章は、中国です。言うまでもなく、世界の秩序を大きく乱している要因の一つは、この中国という大国です。国家資本主義という新しい形の覇権主義が、少なくともここまでは経済的成功をもたらし、世界を揺るがしています。時に暴走するように見えますが、一方で大きな不安材料を抱えていることも事実です。そうした点を、とりわけアメリカの視点を踏まえて議論しています。

 第5章は、日本の安全保障問題を正面から議論します。安全保障の議論は、ともすれば軍事力の問題に話が偏りがちです。実際に防衛予算をGDP1%から2%に引き上げるという議論が国内では大きな関心事になっています。この問題もそれなりに重要ですが、著者たちが強調したいのは、日本には本格的な諜報機関が存在しないこと、そして世界標準の「セキュリティ・クリアランス」(203ページ参照)の制度がない、という点です。

 第6章では、本書の取りまとめとして、体制移行の中で日本にどのようなことが起こるのか、また如何にせねばならないのか、著者たちなりの所見が示されます。日本では、改革が先送りされ、長年にわたる経済社会の停滞が続いてきたことは否定できません。「茹でガエル」と批判されながら、従来の「ソシオ・キャピタル(社会関係資本)」に守られ、国民はそれなりの生活を維持することができてきました。しかし、多くの外的要因が変化する2035年前後に、こうした矛盾を一気に解決する、明治維新的規模の「ショックセラピー(ショック療法)」的な大改革が不可避になるのではないか……こうした問題意識が提示されます。

 幅広い世界の問題について有益な対談をして下さった中林美恵子さんに心から感謝申し上げます。また、本書は、読者の皆さんにとってできるだけ読みやすい本にするため、竹中・中林の対談を、一人の著者が書き下ろしたような体裁に組み替えました。(中略)
 本書が読者の皆さんにとって、この複雑な「体制移行」の時代を考える、有益な示唆になることを祈念しています。

2022年9月 
                           竹中平蔵

著者情報

竹中平蔵(たけなか へいぞう)
1951年、和歌山県和歌山市生まれ。 一橋大学経済学部卒。博士(経済学)。
日本開発銀行に入行。大蔵省財政金融研究室主任研究員、大阪大学経済学部助教授、 ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で経済財政政策担当大臣、総務大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。
現在、慶應義塾大学名誉教授。アカデミーヒルズ理事長。SBIホールディングス(株)独立社外取締役。WEF(ダボス会議)理事。国連経済社会ハイレベルアドバイザリー・ボードメンバー。
<主な著書>
『考えることこそ教養である』 クロスメディア・パブリッシング(2021年)、『ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』PHP研究所(2020年)、『偉人たちの経済政策』KADOKAWA(2019年)、『平成の教訓 改革と愚策の30年』PHP研究所(2019年)、『この制御不能な時代を生き抜く経済学』講談社(2018年)、『第4次産業革命!日本経済をこう変える。』PHP研究所(2017年)、『世界大変動と日本の復活 竹中教授の2020年・日本大転換プラン』講談社(2016年)、『バブル後25年の検証』東京書籍(2016年)など多数。

著者情報

中林美恵子(ナカバヤシ ミエコ)
1960年、埼玉県深谷市生まれ。跡見学園女子大学国文学科卒。ワシントン州立大学大学院政治学部修士課程修了。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。
1992年、米国国家公務員として連邦議会上院予算委員会に正規採用され、2002年まで上院予算委員会の共和党側に勤務。約10年間、米国の財政・政治の中枢で公務に従事。衆議院議員(2009年~12年、民主党)。2013年より早稲田大学准教授を経て2017年早稲田大学教授。グローバルビジネス学会会長。米国マンスフィールド財団名誉フェロー。凸版印刷(株)社外取締役。
<主な著書>
『アメリカ政治の地殻変動』東京大学出版会(共著)(2021年)、『トランプ政権の分析:分極化と政策的収斂との間で』日本評論社(共著)(2021年)、『沈みゆくアメリカ覇権:止まらぬ格差拡大と分断がもたらす政治』小学館新書( 2020年)、『トランプ大統領はどんな人?』幻冬舎(2018年)、『トランプ大統領とアメリカ議会』 日本評論社(2017年)、『グローバル人材になれる女性(ひと)のシンプルな習慣』 PHP研究所(2012年)など多数。

コンテンツ

まえがき

第1章 トランジション(体制移行)の時代が来た!
―ウクライナ危機に見る世界情勢―

ウクライナとロシアの関係/ウクライナの「苦々しい現実」/ウクライナ侵攻と核兵器使用の恐怖/NPTという不平等な条約/戦争は不可避なのか/インテグレーション(統合)と経済安全保障/ロシアは何としてもNATO拡大を防ぎたい/プーチン大統領の価値観と歴史観/民主主義国家か集産主義国家か/プーチン大統領は何を考えているのか?/アメリカは何をしているのか?/アメリカ社会はどう考えているのか?/バイデン大統領の「一般教書演説」では?/民主主義国は互いに戦争をしない/相互安全保障の考え方とシビリアンコントロール/「キューバ危機」と「ウクライナ危機」/何が真実なのかがわからないという「苦々しい現実」/オスマン帝国の血を引く誇り高き国トルコ/巧みな外交を進めるトルコ/ロシアのウクライナ軍事侵攻に対するEUの対応/ロシアをSWIFTから排除する?/ロシア産天然ガスをめぐる問題/EU成立の経緯と通貨統合/国連はなぜ動けないのか?/日本の『外交青書2022』では?

第2章 成功体験にしがみつく日本
―変貌をくり返す資本主義―

なぜバイデン大統領は「新しい資本主義」に賛同したのか/資本主義が抱える潜在的・顕在的な不満や憤りにどう対処するか/「新しい資本主義」はダボス会議でも絶賛/「資本主義」の危機は今に始まったことではない/福祉国家資本主義と石油ショック/米英の新自由主義と日本の民営化/新自由主義とインカムギャップ/「第三の道」を模索/何が解決すべき問題なのかを明確にする必要がある/「日本の資本主義の父」渋沢栄一/市場の失敗・政府の失敗/新自由主義の考え方/トランプ大統領のメキシコ国境壁建設問題/日本の安全保障にとっても「算盤」が重要/アマルティア・センの「ケイパビリティ」/ガルブレイスの「依存効果」/SNSが不満を高めている?/変われない国・ニッポン/人間は成功したものを守ろうという気持ちが強い

第3章 社会の分断に歪(ひず)む大国
―アメリカと民主主義の危機―

民主主義サミットの開催と北京オリンピック外交のボイコット/アメリカの影響力の低下を露呈した?/「中国的民主」に透けてみえる中国の自信/「中国的民主」と「アメリカ民主の状況」/民主主義の深刻な矛盾を抱えているアメリカ/「アメリカ一強時代」は終焉の危機/アメリカにおける保守とリベラル/「保守かリベラルか」から、「上か下か」へ/BBBはなぜ上院を通過できなかったのか?/混迷の度を深める共和党/第二次南北戦争が起こる可能性/アメリカンドリームはもはや存在しない/アメリカは極めて特殊性の高い国/若者にとってアメリカは「One of them」の国/トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』/アメリカ議会と大統領の権限/決められないアメリカ議会/「移民議員」が「決められない議会」に拍車をかけている/民主主義は最悪の政治形態らしい。ただし、……/アメリカの混迷と世界秩序/チャップリンは現代民主主義をどうシニカルに描くだろうか

第4章 暴走か失速か!
―アメリカから見た中国―

成長鈍化の兆しが見られる中国経済/中国はまだ先進国に成り得ていない?/米中二大強国論から中国脅威論へ/小説『一九八四年(ジョージ・オーウェル著)』と重なる中国の姿/アメリカで高まる対中警戒感/アメリカは米中関係を「新しい冷戦」とは呼ばない/経済における国家の役割が肥大化した中国/RCEPとTPPを利用して自由貿易の風を起こす/経済成長がないと中国の矛盾が露呈する/とかく見落とされがちな中国の現実/「デジタル人民元」が突きつける選択/中国の一党独裁とビッグデータ/データプライバシーのない中国/「リベラル能力資本主義」か「政治的資本主義」か/個人主義か集産主義か/2035年の世界のために何ができるかを考えよう

第5章 情報機関とセキュリティ・クリアランス
―日本の安全保障を考える―

 「経済は力」である/インフレが経済を変える?/自然利子率がマイナスになるとは?/世界経済は予想以上に急回復している/マーケット(市場)はインフレを警戒している/膨張するアメリカの財政赤字/ロシアの拡大主義をどう見るか/「屈辱」を梃子に領土拡大を推進する中国/クアッドとインド/インドはなぜロシア非難決議で棄権したのか/ブラジルとインドネシア/アメリカは目を覚ますか?/ロシアに対する経済制裁は?/リベラル・ワールド・オーダーにロシアを引き込む/ファイブ・アイズとセキュリティ・クリアランス/日本は情報収集能力を高める必要がある/スマートパワーの時代

第6章 2035年のショックセラピーに備えて
ー「変われない国」から「変われる国」へー

さまざまな不便がなくなった時代/日本の低成長は「コンプレックス・スタグネーション」/日本の官僚制度と政治/完璧を求めすぎる国・ニッポン/日本社会が目指すべき方向と三つの要素/ピアプレッシャーが国の姿を変える/ユーラシア大陸の東からの外圧で国の姿を変えてきたニッポン/2035年のショックセラピーを考える/2035年のショックセラピーに備えて/CRICサイクルからCRIPサイクルへ/「ゴミ箱理論」とアメリカのショックセラピー/リーダー民主主義に必要なこと/人的資源の重要性/日本の長寿化と転職のススメ/異質なものを受け入れる社会にする/日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は世界116位に低迷/アファーマティブ・アクションによってギャップを解消する/女性のプロフェッショナルを増やす