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世の中の見方が変わる経済学

世の中の見方が変わる経済学
常識のワナに陥らないために

小峰隆夫/著

ISBN:978-4-487-81633-0
定価1,430円(本体1,300円+税10%)
発売年月日:2023年07月03日
ページ数:192
判型:46

解説:
長年、日本の経済情勢・政策を分析してきた著者が、高校生に向けに行っている「経済学を勉強し、経済を知る」ことの面白さを伝える入門講義を再構成。
 第1章では、経済学の基本的な考え方を述べ、 第2章では、実際に経済学を学ぶとどんな良いことがあるのかを、著者の実体験に沿って、できるだけ具体的に説明。
 第3章では、政策の力で経済の姿をより望ましいものにするためにはどうすればいいかを検討。第4章では、多くの人が強い関心を持っている「働く」ということを考える。第5章では国際経済について、第6章では、現代社会の最重要課題である日本の人口問題を取り上げる。

まえがき

 この本は、経済の基本をできるだけわかりやすく説明し、その基本を知るだけで世の中の見方がいかに変わるかを書いたものです。
 もちろん、できるだけ多くの方々に読んで欲しいと思いますが、私はこの本を、特にこれからの日本の経済社会を生きる若い人たちに読んで欲しいと思いながら書いてきました。本書の初めに「2 人の孫娘に」という言葉を入れたのは、私たちの世代の次の世代、次の次の世代の人たちが、私たちの世代よりも、より平和で幸せな生活を送って欲しいという願いを込めてのことです。
 私は大学で経済学を勉強した後、約50 年にもわたって日本の経済を観察し続けてきました。その前半は、政府の中で経済情勢、経済政策を分析し、後半は大学で教鞭をとってきました。こうして長い間経済学を勉強し、経済を観察してきたのは、何よりもそれが面白かったからです。私が面白いと感じたのは次のような点です。
 1つは、経済というものは意外性に満ちているということです。まず、経済にはまったく思いもよらないことが起き、それによって経済が大きく動くということがあります。私が経済を観測し始めてからも、固定相場制から変動相場制への移行(1973 年)、石油価 格が急騰するという2 次にわたる石油危機(1973 年と1979 年)、地価や株価が大幅に上昇するというバブルの発生とその崩壊(1980 年代後半から1990 年代前半)、アメリカの大手金融機関の破綻が世界経済に大きな影響を及ぼしたリーマンショック(2008 年)、そしてごく最近では、新型コロナウィルスの影響などがあります。こうした意外なできごとに直面すると、私は「これによって日本経済はどうなるのか」「これに対して経済政策はどう対応すべきか」と考え、そのたびに新しい知見や教訓を得ることができました。
 2つ目は、経済を勉強し、経済の実態をデータで知るようになると、他の人が見えない世界が見えるようになるということです。簡単に言うと、経済を勉強した人は、勉強していない人には見えない景色が見えるのです。考えてみれば、勉強しても同じ景色しか見えないのであれば、そもそも経済学を勉強する意味はないとも言えそうです。
 3つ目は、役に立つということです。これにはいろいろな役に立ち方があります。例えば、選挙などを通じて政党を選ぶとき、仕事の企画を練るうえで経済や社会の動きを知っておく必要が出たとき、自分の人生設計を考えるとき、経済の知識は役に立つはずです。さらに最近では、経済学の知識を「実装して」、現実の値 段のつけ方や人事の配置をより適切なものにしたり、ちょっとした表現の差で人々の行動を変えたりという、実践的な分野でも経済学が役立つようになってきています。
 これから経済を勉強しようとする若い人たちに、こうした「経済学を勉強し、経済を知る」ことの面白さを伝えたいというのが本書のねらいです。幸いにして、私は毎年、大学受験予備校の早稲田塾で高校生を相手に、経済学の基礎を講義する機会をいただいています。この講義は、できるだけ双方向で行っており、私が課題を出して受講生に答えを考えてもらったり、受講生からの質問に答えたりしており、最後にはプレゼンテーション大会を行って、優秀者に賞品(私の著書ですが)を出したりしています。本書はこの講義に基づいて執筆されています。参加した高校生たちからの質問や彼ら、彼女らとのディスカッションも本書の中に取り入れられています。

もくじ1

もくじ2


 本書の構成は次のようになっています。
 第1章「経済学の基礎の基礎から世の中を見てみると」は、タイトルの通り、経済学の基本的な考え方を述べたものです。その考え方を知ることにより、どんな面白い考えが導かれるのかを、できるだけ具体的に示すようにしました。
 第2章「経済学は役に立つ」では、実際に経済学を学ぶとどんないいことがあるのかを、私の実体験に沿って、できるだけ具体的に説明します。私が学生時代に学んだ経済学も、かなり役に立ちましたが、最近盛んになってきた行動経済学などの新しい分野の経済学の領域を学ぶことは、もっと実践的に役に立ちそうです。
 第3章「幸せのための経済政策」は、政策の力で経済の姿をより望ましいものにするためにはどうすればいいかを考えています。経済学の究極の目標は、限られた資源をできるだけうまく活用することによって、私たちをできるだけ幸せにすることです。だからといって、政府が人々の生活に立ち入ってくるのは、あまり愉快ではありませんし、政府が人々が喜ぶようにとお金を配って回っても、経済が良くなるわけではありません。長い目で見て、人々ができるだけ幸せになるような政策のあり方を考えます。
 第4章「どうなるこれからの働き方」は、多くの人が強い関心を持っている「働く」ということを考えます。自分の能力にあった仕事を持つことは、人生にとって大変重要なことです。その働き方が大きく変わろうとしているのです。私なりにその変化の方向を考えてみました。
 第5章「世界の中で生きる日本」は、国際的な問題を取り上げています。日本が世界とのつながりを通じて発展してきたことは誰もが知っているでしょう。日本は食料やエネルギーの多くを輸入に頼っていますが、輸出を通じて業績を拡大してきた企業もたくさんあります。しかし、重要だと考えているわりには、国際経済については一般の常識的な考えと経済学的な考えは食い違っていることが多いのです。日本がこれからも世界経済との結びつきを強めながら発展していくためには、国際経済についての正しい考えを身につけておく必要があると思います。
 第6章「人口問題を考える」は、長い目で見たときの日本経済の最重要の課題である人口問題を取り上げます。これも特に、これから社会に出て、家族を持ち、多くの人生のイベントを経験しようとしている若い人たちは、強い関心があるでしょう。日本の人口はなぜ減少し続けているのか、それは日本の経済社会にどう影響してくるのかを考えます。
 なお、最初にお断りしておきますが、本書で述べていることは、あくまでも「私の考え」であって、世の中の経済学者やエコノミストが必ずしも同意するとは限りません。世の中で常識と考えられていることとも大きく異なっているかもしれません。特に現実の経済政策に関わる分野では、いろいろな議論があります。物理や化学のように、実験によって誰もが納得する結論を出すことが難しいことがその1つの理由です。すると、教科書に書いてあることやテレビのニュースで報じられている内容についても必ずしも正しいとは限らないということになります。常識的な議論、多数派の議論に惑わされず、自分なりの考え方を持つことは、経済学を学ぶ1つの醍醐味だと私は考えています。

2023 年5 月

小峰隆夫

もくじ3

第1章 冒頭

第3章 冒頭

第6章 冒頭

著者情報

小峰隆夫(コミネタカオ)
1947年、埼玉県生まれ。1969年東京大学経済学部卒業後、同年経済企画庁に入庁。経済企画庁経済研究所長、物価局長、調査局長などを歴任。2001年国土交通省国土計画局長に転じ、2002年に退官。退官後は法政大学教授や大正大学教授。2020年『平成の経済』(日本経済新聞出版社)で読売・吉野作造賞受賞。公益社団法人「日本経済研究センター」研究顧問。
[おもな著書] 『日本経済の構造変動』(岩波書店・2006年)/『日本経済論の罪と罰』(日本経済新聞出版社・2013年)/『日本経済に明日はあるのか』(日本評論社・2015年)/『平成の経済』(日本経済新聞出版社・2019年)など著書多数。

コンテンツ

まえがき

第1章 経済学の基礎の基礎から世の中を見てみると
1 市場の作用が経済の動きを調整している(第1の原理)
2つの経済学/私の一生を決めたミクロ経済学/「市場」は自由で効率的
2 人々は様々なインセンティブに応じて行動している(第2の原理)
「自分がより幸せになる」ために/高校生との対話
3 時には政府が政策的に介入した方が人々は幸せになる(第3の原理)
政府が介入するのは例外/「公共財」について/公共財の事例/外部性について/外部経済と外部不経済/外部性に対する処方箋/外部不経済に対する処方箋/外部経済に対する処方箋
4 費用として重要なのは「機会費用」である(第4の原理)
「機会費用」とは何か/日本の少子化を「機会費用」で考える/「機会費用」と「外部性」についての高校生との議論
5 物事の影響はできるだけ先の先まで考えた方がいい(第5の原理)
部分均衡的な考え方/「地域振興券」で考える/高校生との対話/商品券は地域経済を活性化させるか/「合成の誤謬」という考
え方

第2章 経済学は役に立つ
1 私たちの暮らしと経済学
経済について自分なりの知見を持つ/経済学は経済社会の動きを理解するのに役に立つ/エコノミストと一般の人との意見の違い/一般の人は、目先の自分の利害を優先して考える傾向がある
2 経済学を勉強するとお金持ちになれるか?
経済学を勉強すると所得や資産を増やすことができる?/相関関係と因果関係の違いを理解する/金融知識と資産保有額の関係
3 さらに役立つようになってきた経済学
経済学を「実装」する/実施の活用例が急増している行動経済学とナッジ/ 高校生との対話/ナッジの活用事例/フューチャー
デザインの考え方/意思決定の際のグループの中に「仮想将来人」を入れる
第3章 幸せのための経済政策
1 経済政策とは何だろうか?
希少な資源を使って暮らしを豊かにする/私たちの暮らしをできるだけ豊かなものにする/「幸福度」について考える/「豊かさ指標」の県別ランキング/「合成型指標」で幸福度を測ることの問題点…高校生との対話/ブータンと日本の幸福度を比較する/人々を幸せにする経済政策とは/経済政策の3つの基本目標/経済成長と三面等価の原則/成長によって生活水準は向上する/高度成長から低成長へ/景気は良いのか、悪いのか/景気とは何か/景気の変動を読み解く
2 財政政策と金融政策
財政・金融政策の基本/近年の金融政策/近年の財政政策/日本の財政の姿を見る/日本の財政の将来を考える3つのポイント/一般の人は消費税が嫌い/消費税は公平な税金/軽減税率について考える/高校生との対話/政策の現場を考える…高校生との対話

第4章 どうなるこれからの働き方
1 日本人の働き方
働くことはなぜ重要なのか/何歳まで働くか/日本的な「働き方」の3つの特徴/日本型雇用慣行と相互補完性/履歴現象とは/日本的雇用関係と履歴現象/日本になぜ定年制があるのか/日本型雇用慣行の良い点と悪い点
2 メンバーシップ型からジョブ型へ
メンバーシップ型とジョブ型/強まるジョブ型への動き/コロナショック後の雇用/テレワークの増加/テレワークとジョブ型雇用/働き方をめぐる高校生との対話…高校生との対話

第5章 世界の中で生きる日本
1 日本の国際的な地位
日本の1人当たりGDPは世界で20 位以下/経済規模と豊かさの関係/重要な指標は「1 人当たりGDP」
2 「比較優位」という考え方
「比較優位」とは?/ポルトガルとイギリスの貿易を考える/貿易は「比較優位」がポイント/得意なことを分担して行う/「比較優位」から導かれること……①貿易は勝ち負けではない、②何でも自分でやったほうがいいわけではない、③2国間の貿易収支にはほとんど意味がない
3 日本の国際収支のすがた
日本の国際収支の状況/日本の経常収支黒字の中身/国際収支の赤字は困ったことなのか-日本は稼ぎの割には使い方が少ない…事例/貿易は何のためにあるのか/家計の「黒字・赤字」と国の「黒字・赤字」/「食料自給率」について高校生と考える…高校生との対話
4 国際間の経済連携
TPP(環太平洋経済連携協定)から考える国際間の経済連携/世界貿易機関と地域連携協定/ TPP とTPP11 /高校生との経済援助についての議論

第6章 人口問題を考える
1 日本の人口問題
人口問題は確かな未来の確かな課題/これからの日本の人口変化/日本の人口の3つの変化/日本の出生率の推移/人口の置き換え水準/丙午(ひのえうま)と日本の人口の関係…高校生との対話/出生率と結婚の関係を考える/「結婚」をしなくなった…高校生との対話/男性にとっては厳しい世の中になってきた/なぜ少子化対策が必要なのか…高校生との対話/人口が減るのは困ったことなのか
2 人口オーナスとは?
人口ピラミッドの推移/人口ボーナスから人口オーナスへ/やはり、人口は確かな未来の確かな課題
3 人口1億人目標を考える
なぜ「人口1億人」なのか/「希望出生率1.8」達成も難しそう/もう一度考える「なぜ少子化対策が必要なのか」/「人口減少と共存するような社会」を目指して

あとがき