教科書は,幾重もの授業の道筋や児童生徒の理解・反応を想定した,厳選された素材の集まりです。また,教科書に配置されている個々の素材一つひとつがどのような力を持ち,どのような制約があるかなど,素材を活用するための手がかりの多くは,厳選された結果であるが故に,教科書の行間に埋め込まれていると言うことができます。よい授業を実践するためには,まず教科書を十分に分析し研究することが重要,とのご意見をベテランの先生方からお聞きします。このご意見は行間を把握することが重要との指摘なのでしょう。私も,授業づくりを楽しむ鍵は素材の行間を読み解き,様々な工夫を練り,実践してみることにあると思います。
デジタル教科書は,行間の情報を細かく説明する解説書ではありません。サブコンテンツとして組み込まれた,授業設計において多様な発想を支援する「プラスアルファ」の素材群が,教師が行間を読み解く活動を支援し,工夫の可能性を拡げるものであると考えます。プラスアルファの素材には,授業の課題やまとめの内容をさらに深く理解するための素材があります。この素材は,児童生徒が「何に取り組むか」のイメージの共有を促し,多様で個性的な反応を引出したり,複数のアイデアをまとめたりなど,授業展開に沿った思考活動を活性化できます。また,授業中の課題解決進度に違いがある場合には,個に対応するプラスアルファの素材を選択することもできます。
デジタル教科書に組み込まれたプラスアルファの素材の選択肢の拡がりは,先生方の授業設計活動を,より楽しく豊かにできると考えています。
益子 典文 (ましこ のりふみ)
鳴門教育大学助手・助教授,岐阜大学助教授を経て,現職。博士(工学)。現職教師を対象とした遠隔学習コースの設計方法論の研究,教材や授業の開発などをテーマとした現職教師との共同研究,科学教育を中心とした教材開発法の研究等を中心に取り組んでいる。論文賞(日本科学教育学会)などを受賞。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです