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ICT サポート情報 デジタル教科書・教材を活用した授業への期待 1
サポート情報

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教科書をベースに広げられる安心感


――指導者用デジタル教科書の普及がだいぶ進んできていますが,これだけ先生方に支持されている理由について,どのように感じていらっしゃるでしょうか。


益子 先生方にとって,デジタル教科書は安心して使えるプラスアルファの素材であるというところが,大きな理由の一つだと思います。授業を構想するときに素材は豊富にあったほうがよいのですが,安心して使える素材が,教科書に準拠してプラスアルファで盛り込まれていることが,素材を使う先生方にとって大きな保障となっているのではないでしょうか。


稲垣 教科書をベースにして授業を組み立てることを考えると,まず最初に教科書の紙面があり,そこから発展して,内容に関連する写真や資料などを使いたいことが多いと思うのです。今までは,教科書の内容に関連するものをインターネットなどさまざまなところから探す必要があったのが,探さなくてもすぐに使えるデジタルコンテンツが用意されている。その手軽さは非常に大きい要因ですね。



――では,児童・生徒から見たデジタル教科書はどうでしょうか。


稲垣 例えば,算数のデジタル教科書では,図形を操作して考えるなど,いろいろな教材がありますよね。それらの教材が,子どもたちが手元に持っている紙の教科書にあるものと基本的には同じものが画面上にあって,それを動かしたり加工したりできる。そのことが子どもたちにとって安心感を生み出し,さらにわかりやすさにもつながると思います。


また,紙の上ではできなかったような見せ方の工夫ができることも魅力です。社会科などでもよくグラフを部分的に表示しておいて,見比べたり,途中で止めて次にどうなるかをみんなで予想したり,そういうところは結構盛り上がりますよね。紙の上では難しかったインタラクティブな提示が簡単にできるようになったのです。


益子 教科書を編集するときに,編集委員の先生方は,紙や分量という物理的な制約の中で,具体的な授業の場面を想定しながら,かなり深いところまで議論しています。指導者用デジタル教科書では,そのような教科書のノウハウをベースにしつつ,物理的な制約を取り除いたときに授業で何ができるかという点から素材の吟味をしているので,学校の先生方にとって非常に使いやすくなっているのではないかと思うのです。


稲垣 そのノウハウの中には,これまでいろいろな学校現場で積み重ねられてきた,ICT活用に関する知見が多く含まれていると思うのです。それらを教科書から発展させる形でデジタル教科書に取り込んできたからこそ,学校の先生方に受け入れられるものがたくさん詰まっているのだと感じています。



――ICT環境の面では,電子黒板の台数が増えたことも大きいと思っています。


稲垣 電子黒板が普及するずいぶん前に,プロジェクタやデジタルテレビを用いた授業と電子黒板を用いた授業を比較する調査を行ったのですが,何といっても電子黒板はその場で瞬時に操作できることが大きいですね。先生が一度顔を下に落として,ノートパソコンのマウスでクリックして操作するのに比べると,時間短縮の効果がとても大きいんです。実際,外国語活動では,1アクティビティ分ぐらい変わってしまうんです。


益子 先生も含めて,常にみんなが同じ画面を見ながら学習活動を行うという形になると,学び手の意識も違うでしょうね。


稲垣 画面を見ている間は,先生は子どもから目線を外していて,いわば対面のコミュニケーションが途切れてしまう時間ができるわけですよね。電子黒板を使うと,その場で子どもたちと目を合わせながら,テンポよく指導を進められるのは大きな違いだと思いますね。息つく暇がなくなるかもしれないですが(笑)。


益子 子どもたちの集中力を途切れさせないためには,とても大事なことですね。



指導者用デジタル教科書のコンセプト


――平成27年度版の指導者用デジタル教科書のコンセプトについてお話を聞かせていただけますでしょうか。


益子 とても重要なポイントは,既存の黒板などを使った指導形態とデジタル教科書の融合だと思います。例えばノートをとるときに,先生が一緒に板書するのはぱっと画面に出すよりも時間がかかるんですよね。けれども,先生と同じように書いている経験が,実は子どもたちがノートをつくるうえで重要なのです。先生が黒板にいろいろ書いている姿そのものと相互作用している局面も授業の中にあるのです。それを考えると,先生の普段の教授行動や教室の環境と融合する形でデジタル教科書をつくっていこうというコンセプトは,非常に重要だと思っています。


稲垣 教授行動と融合するためには,デジタル教科書をスムーズに使える必要があると思うのです。今回の改訂版では,特にユーザーインターフェースをチェックしたのですが,とにかく簡単にしてほしいと,私はずっと主張してきました。実物投影機よりも簡単でないと,これ以上は普及しないぐらいのことを言っていたと思います。実際,デジタル教科書の開発の前に学校の先生方と一緒に調査をさせていただいたときに,先生方が使う機能を観察すると,授業の中でそれほど多くの機能は使っていないのです。部分拡大がほとんどで,ほかには関連する動画などのコンテンツを見せるか,少し線を引いたりするぐらいだったのです。使う機能はほんの一部でしたね。さっと使える機能が,きちんと安定して,いつでもどの教科でも使えるようになると,おそらくほかの機能をもう少し使ってみようかなという意欲につながってくると思います。まずは先生方が,日常的にしていることをさっとできるようにすることが大事であると考えています。

一方,教室に提示機器が常設されていないような環境では,日常的に使うことは難しい場合もあります。デジタルならではのコンテンツの質で勝負していくべきでしょう。



――今回のデジタル教科書では,電子黒板の上に手が届きにくいといったことも想定して,ツール類は一番使う機能から順番にボタンを下から並べるようにするなど,先生のご指導のもと,ユーザーインターフェースの見直しを行いました。

それから,平成23年度版のときから先生方にご評価いただいていたのがMY教科書エディタです。益子先生にご指導いただき開発したMY教科書エディタは,先生方がカスタマイズできるところが大きな特長ですね。


益子 シンプルな機能のほうが使いやすいけれども,逆に同じ学年の同じ教科を教えている先生でも,やはりパーソナライズの余地はどこかに必要なんですね。先生方の教え方とか,考え方の多様性に対応するために,できることはある程度の広さがあったほうが,先生方も使いやすいと感じてくれます。機能を絞って使いやすくするというベクトルと,先生方の教え方に対する考え方の多様性に対応するというベクトルの両者にどのようにうまく融合していくかというところが,授業で実際に使ってもらうためには重要なところなんですね。後者のベクトルを具現化したもの,つまり先生たちがパーソナライズできるという部分が,MY教科書エディタだったんだろうと思います。


稲垣 入り口は一見易しくわかりやすくなっていて,実は深掘りするといっぱいいろいろな機能があるという形がいいのかなと思います。MY教科書エディタのような機能は,それこそデジタルになってようやく実現した部分です。これまでそれを紙でつくっていたことを想像すると,かなり大きな変化ですよね。

▲教科書上の図版や動画などを活用したオリジナルの教材作成を支援する「MY教科書エディタ」


デジタルになっても変わってはいけないこと


――ICTの普及で授業の様子が大きく変わったように見えますが,一方で,変わってはいけないところがあるということもお聞きします。


稲垣 指導者用デジタル教科書に関していうと,これを使うことですごく授業設計が変わるとか,全く新しい学びができるとか,そういうものではないと考えています。どちらかというと,今までの授業をよりわかりやすく,より魅力的にする道具なのではないでしょうか。今までの授業をよりよくするためにはどうすればよいかという発想でしっかり考えていくことが大切です。


もう一つ懸念されることは,デジタル教科書の中で全部が完結してしまいかねないことです。例えば,これまで先生方同士で教材研究も含めたいろいろな情報交換などの交流を行っていると思うのですが,デジタル教科書がリッチになりすぎたことで,先生方が教材研究の幅を広げることをおざなりにしてしまわないだろうかという,そんな心配もしてしまいます。もちろんデジタル教科書を使いこなす技術は必要ですが,授業づくりの要素はICTだけではありません。それは提示の仕方,板書の仕方もそうですし,あるいは子どもの考えの見取り方もそうですし,子どもの発言への返し方まで,いろいろな指導技術がたくさんあります。デジタル教科書はそれらの技術のうちのほんの一部にすぎないと思うんです。その一部にあまりこだわりすぎると,かえってもともとの授業は何だったのかを見失いかねません。まず授業のイメージがしっかりあって,その中で,デジタル教科書にしかできないことを効果的に使える先生であってほしいなと思います。


益子 勉強は基本的につらいことだと思うんです(笑)。子どもが楽しそうにしていることに目を奪われてしまうと,実はハードルを乗り越えなければいけない局面を見落としてしまう可能性があります。だから,わかったつもりで終わってしまってはまずいのです。相変わらずノートはきちんととって,レビューするなど,学ぶべきことはしっかり学んでほしいと思います。つまり,黒板と指導者用デジタル教科書の融合においては,両者の相乗効果を発揮することが大切で,デジタル教科書によってよりわかりやすくする工夫を行いながらも,デジタル教科書ができたことによって,逆に何が大事な局面なのかを明確にする必要があると思います。


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