■デジタル教科書・教材が描く未来横浜市特別支援教育総合センター
「紙の教科書と全然違う。いろんなことが自由にできて、勉強が楽しい」——。横浜市立仏向小学校に設置された通級型指導教室「コラボ教室」で、児童がうれしそうに語った。今日は学習者用デジタル教科書・学習者用デジタル教材(以下、デジタル教科書・教材)を活用して算数を学習。これは授業後の感想である。
担当する岡田克己教諭は「コラボ教室に通っている子供は、高い能力を持ちながら認知面での偏りや不器用さ、適応の困難があるなど、さまざまな学びにくさをもっている。その学びにくさの壁を、デジタル教科書・教材の活用で乗り越え、飛躍することができる」と強調する。
■デジタル教科書・教材の多彩な機能を活用
この日は、5年生2人、6年生1人を対象とした通級による指導が行われた。デジタル教科書・教材(東京書籍(株))を用いた初めての授業だ。
学習したのは主に6年生が算数で学ぶ「線対称と点対称」。まずは「つりあいのとれた美しい形」をキーワードに、身近なものの形について意見を出し合う。児童が見ているのは、デジタル教科書・教材を映し出した見やすい大画面だ。
次に、「線対称と点対称」の説明を読み上げ機能で聞く。読み上げの速さは自在に調整でき、視覚障害や識字障害などがある児童が家庭学習する際にも、困難を抱えず教科書の内容が理解できる。
続いて取り組んだのは、教科書の図形に線を書き足し、線対称・点対称になるよう図形を完成させる活動だ。なめらかな触感や線の引きやすさ、自分のイメージが即座に画面上で表現できる楽しさに、大きな歓声が上がった。
岡田教諭はデジタル教科書・教材の双方向性も活用。児童が描いた図形を大画面に映し出し、それぞれ説明を促しながら称賛し、学習への意欲を一層向上させる。
■デジタル教科書・教材が「思考のツール」に
最後の問題演習では、「描かれた図形に線を書き入れて図形を半分に折る」「書き入れた点を中心に180度回転させる」「自分で図形を自由に描き、線対称・点対称になっているか確認する」といった発展的な内容にもチャレンジ。
デジタル教科書・教材を活用すると、描いた図形をコピーしたり、移動させたりするなどさまざまな動作を自在に実現できる。児童はそれぞれ、線対称・点対称の図形を独自に描き出し、発表し合う。
さらに児童は、考えを整理したり、情報をとどめたりするのに活用しており、デジタル教科書・教材は児童の「思考のツール」としても十分威力を発揮。それぞれが自分なりに活用の方法を見いだし、情報交換しながら学びを深めていった。
児童は、通常の学級の授業中では立ち歩いたり居眠りしたりすることもあるが、今回の授業では、1時間たっても集中を途切れさせず、夢中になって取り組む姿が見られた。
授業を終え、児童の1人が「紙の教科書で学習したときは、ハサミで切ったり折ったりしていて、間違えると一からやり直しになるのでやる気が出なかった」と話す。続けて「デジタル教科書・教材なら間違えても何度でもやり直せるから、いろいろな図形に挑戦できる」と笑顔で語った。
別の児童は、「コラボ教室だけでなく、学校の教科書が全部デジタル教科書・教材になるといい」と言い、「今日デジタル教科書・教材を初めて使って、今まで苦手だった図形のことがよく分かった。自分が教科書の中で思い付いたことを大画面に映しながら他の人に発表できるのも楽しい」と語ってくれた。
デジタル教科書・教材で算数の学習に取り組む児童
■デジタル教科書・教材が多様な学びを実現
岡田教諭は、「デジタル教科書・教材の活用で、短時間のうちにこんなに成果が現れるとは」と、驚きを隠せない様子。「今回は算数で活用したが、どの教科でもそれぞれ、さまざまな場面で効果を発揮すると思う」と述べる。
さらに「紙の教科書では表現が文字や図、絵に限られていたのに対し、デジタル教科書・教材には幅広い表現方法がある」として、「教科書の内容をタブレット上で切り貼りしたり自分で書き込んだりしながら、オリジナルの教材にカスタマイズできる。家庭や学校での学習を継続させるのにも役立つ」と明言する。
また、教員が子供の学習履歴や到達度、思考の過程などを把握するのにも活用できるといい、「これまで使ってきた紙の教科書では、子供の実態に関わらず同じ内容を取り扱っていたが、デジタル教科書・教材があれば、『凸凹』がある子供も、その個性を生かした学習が進められる」と、特別支援教育を専門に研究してきた視点で有効性を強調する。
岡田教諭が籍を置く横浜市立仏向小学校の冢田三枝子校長も特別支援教育のスペシャリスト。横浜市の特別支援教育において、個々の学びにくさを克服し一人一人の個性や才能を開花させる取り組みをけん引してきた実績を持つ。冢田校長は「子供は誰しも特別で、それぞれによさや強みを持つが、『特別支援教育』と言うと必ずしもプラスのイメージで捉えられない」と語り、「デジタル教科書・教材は実態に応じた学びが進められるので、一人一人の強みを生かすことができる。自己肯定感の育成にもつながるだろう」と指摘。
「重要なのは『使ってみること』。ICTに苦手意識を持つ教員も、まずは子供と共に楽しみながら使い、活用効果を検討するのがよい。やがて、デジタル教科書・教材を使うべき場面を、子供自身が判断するという段階になれば、主体的・対話的で深い学びが実現していくのではないか」と、展望を語った。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです