■学習支援室を開設 日常を取り戻す場に
被災後の7月9日から休校となり,避難所となった薗小学校の高津智子校長は「水が引いた後は自宅の片付けに追われている保護者が地区に多く,子供たちの居場所が必要だと考えた」と語る。同校でクーラーがあるのは図書室とPC室のみ。当初,どちらも避難所として提供していたが,避難者が減り,図書室が空いたタイミングで子供のための学習支援室として場を提供。2学期からの学校スタートが決定した時点で,日常を取り戻して2学期の学習につなげるため,学習支援室の時間割を作成。この中にタブレットの活用を盛り込んだ。
午前中は落ち着いて学習をすることで日常のリズムを取り戻すことを念頭に,10時から10時50分まではワークや紙プリント。11時からタブレットを使った学習。昼ごはんと休憩をはさみ13時から掃除,読書や作文,自由帳などの自由学習。14時以降は自由あそびやビデオなどだ。市の職員が毎日支援員としてサポート。大学が夏休みに入ると学生ボランティアも参加した。
倉敷市では児童全員にIDを配布している
各自のペースで学習
この日,学習支援室として開放している図書室には1年生から5年生まで様々な学年の児童が集まっていた。図書室にはタブレット(ChromebookとiPad)が充電保管庫の中にセッティングされている。支援にあたった貝原剛教諭は,タブレットへのログイン方法を全員に説明。1人ひとりにIDを記したカードを渡した。児童はカードを見ながら入力して「問題データベース タブレットドリル」にログインし,各自のペースで学習を始めた。「無理だと思ったけどできた」と嬉しそうに伝える児童,「惜しい!」とつぶやきながら再度挑戦する児童もいる。小4の児童は,タブレットドリルのメニューから国語の「4年生の漢字まとめ」に,小5の児童は,算数「小数のしくみ」や社会「米作りのさかんな地」に取り組んでいる。解答後は答え合わせ。合格するとメダルなどがもらえる。間違いが多い場合は「フォロープリント」,合格したら「チャレンジプリント」に取り組むことができる。わからないところは,支援に入っている教員や支援員に質問。約50分間,すべての児童が飽きることなく様々なドリルに取り組んでいた。
最後に「プリントひろば」にログイン。取り組みたいプリントを自分で選び,印刷して自宅に持ち帰った。
貝原教諭は「タブレットドリルは自分で選んだ内容を学習できる点が意欲につながっているようだ。授業でも活用したい」と話す。「高学年では『プリントひろば』のプリントを端末上で見てノートに学習している。学年や教科によって適切な活用を検討していきたい」
国語や算数,理科や社会など各自で
タブレットドリルに取り組んだ
家庭学習用のプリントを各自で選択,
印刷して持ち帰る
■最小の支援で自律学習を促す効果
尾島正敏 館長
倉敷情報学習センターの尾島正敏館長は,「個別学習システムはこれまでも活用しており,更新のタイミングで今年度,『問題データベース タブレットドリル』を選択した。理由は問題量の多さ」と語る。同時に導入した「問題データベース」は教員主体の学習での活用を,「プリントひろば」は家庭学習を想定し,学校での学習内容からさらにチャレンジしたいという意欲に対応する目的で導入。市内約2万人の小中学生にはIDとパスワードを付与し,家庭からのアクセスは夏休み期間だけで約1万件程度あった。「災害時の学習環境の提供という今回の活用方法は想定外であったが,『学習支援室でタブレット端末を活用したい』と相談を受けた際,避難所として指定されている3校に対して企業4社(NTTラーニングシステムズ,ダイワボウ情報システム,ガイアエデュケーション,サンワサプライ)から充電保管庫やChromebookの貸与,セットアップ作業などの支援を得ることができた。実際に活用してみると,様々な学年が混在する中,少ない指導者やボランティアでも対応しやすい仕組みであると感じた」
同校では教員主体で学習支援室を運営しているが,同じ真備町の市立岡田小学校では学童保育主体でタブレットやタブレットドリルを活用している。尾島館長は「タブレットによる個別学習は,紙に比べてデータの蓄積・分析がしやすい。この特徴を活かし,自動で解析できる仕組みとして授業改善につなげていければ」と述べた。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです