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認知心理学者が教える最適の学習法

認知心理学者が教える最適の学習法
ビジュアルガイドブック

ヤナ・ワインスタイン、メーガン・スメラック、オリバー・カヴィグリオリ/著 山田祐樹/日本語版監修 岡崎善弘/訳

ISBN:978-4-487-81634-7
定価1,870円(本体1,700円+税10%)
発売年月日:2022年08月29日
ページ数:288
判型:A5

解説:
科学的エビデンスに基づいた「学習法」の決定版。認知心理学者の研究・実験を用いて導き出した「学習法」の最適解を多数のイラストで紹介。6つの学習方法など具体例や多数のイラストや図版を用いて、わかりやすく解説する。学生、教師、保護者、政策立案者など教育関係者に、エビデンスに基づいた効果的な学習方法を提案する1冊。

序文―――日本語版刊行にあたって

 夏休み前の進路相談の時、担任の先生から伝えられた言葉は今でも忘れられません。テスト成績を見た後、「努力していることは認めるけど、勉強が空回りしていないか?」と目を見てハッキリと伝えられたのです。
 当時、私は高校生3年生。とにかく参考書を読み返すことが良い勉強だと思っていました。誰かに教わったわけではありません。ただ何となく、読み返す勉強方法を選択していました。先生は勉強方法が正しくないことを伝えたかったのかもしれません。指摘を受けたとき、「空回りしない方法を教えてください!」と尋ねれば良かったのですがその勇気はなく、「そうですよね……」と意気消沈して、「どうすれば良いのだろう……」という思いを秘めたまま進路相談を終えてしまいました。そして、翌年の春。努力は実らず、大学受験は失敗。
 当時、少なくとも読み返す方法で成績は何とかなっていたので、受験勉強も同じ方法で勉強すれば良いのだろうと思っていました。何が足りなかったのでしょうか? 勉強から逃げていたわけではありません。散歩するときも参考書を読んでいたし、寝落ちするまで英単語帳を読み返していました。当時の勉強仲間たちに負けないくらい、勉強に時間を費やしているはずでした。

 悪戦苦闘の受験を終えて20年後。ある日、仕事の関係で「教育とエビデンス」について調べ続けていると,1冊の洋書『Understanding how we learn: A visual guide』に出会いました。勉強方法の科学的な検証が進んでいることに驚き、さらに読み進めると「読み返す勉強方法」の効果は低いという記述を見つけたのです。ダメな勉強方法だったのか(笑)!
 読み終える頃には試験に失敗していた日々を思い出していました。
 「高校生の時に、この本を読むことができていれば……!」。
 やがて、「日本語で読めるようにしなくては!」という使命感が芽生えていました。
 勉強方法を紹介している本はたくさんあります。しかし、成功体験に基づいた本の割合が多く、本書で紹介されている勉強方法は現在もまだ広く知られていないことに気づきました。もしかしたら20年前の私と同じように、何となく参考書を読み返す勉強(効果が小さい方法で勉強)を続けている学生が今もいるかもしれません。
 効果的な勉強方法を早い時期に学んでおくことができれば、高校生の頃の私のように学習時間を無駄にしなくて済みます。「勉強しているのに成績が上がらない!」と悩んでいる人たちの助けになるかもしれない。できることなら私と同じ失敗をしないように、何とか支援してあげたい。翻訳書を出版したいと願う思いは日々強くなり、模索を続けて数年後、ようやく出版につながるご縁をいただきました。

   本書でも紹介されているように、効果的な勉強方法に切り替えたとしても、効果がすぐに出るわけではありません。結果が出るまで少し時間がかかります。新しい勉強方法を続けることに不安を感じて元の勉強方法(効果的ではない勉強方法)に戻りたくなる日があるかもしれません。そのときは、保護者や教師のみなさま! 学習が続くようにぜひ支援してあげてください(たとえば、新しい勉強方法を用いて、一緒に資格試験などの勉強を始めてみるのも良いと思います!)。
 夢に向かって勉強をがんばっている方々に本書が届くことを心から祈っています。日本中の学習者たちの努力が報われますように!

2022年7月 訳者 岡崎善弘

はじめに

 教育実践は、多くの場合、研究結果に基づいていません。学習にとって何がベストなのかを考えるときは、研究結果ではなく、直観に基づいて判断することが多くあります。しかし、直観に頼ることは、教師にとっても、学習者にとっても、良い選択ではない場合があります。
 本書は、効果的な学習方法の教室への取り入れ方を紹介しています。また、(1)効果的な学習方法と教え方に関するエビデンス、(2)直観ではなくエビデンスに基づいて判断する方法や認知心理学の知見を教室で利用する方法、( 3)実際の事例やFAQ等で複雑な概念も説明しました。各章の重要なポイントを強調するために、イラストをたくさん使ったビジュアルガイドブックに仕上がっています。

本書は4つのPARTで構成されています。

 PART 1|エビデンスに基づいた教育と学習の科学
 PART 2|認知プロセスの基礎
 PART 3|効果的な学習方法
 PART 4|教師、学生、保護者におくる学習のヒント

 執筆は学習科学者のヤナ・ワインスタインとメーガン・スメラックが担当し、オリバー・カヴィグリオリはイラストを担当しました。本書の目的は認知心理学の知見を教育で活用することです。認知心理学を教育に応用することは教師や教育実践者にとって大切なので、教室の中で研究の知見を取り入れることができるように工夫して構成しています。

 執筆者のヤナ・ワインスタインは、アメリカのマサチューセッツ大学ローウェル校の准教授(心理学)です。ヤナはThe Learning Scientists(学習に関する科学的研究を学生、教師、その他の教育関係者が利用しやすくすることを目的としたプロジェクト)の共同創設者です。
ヤナのTwitter アカウント @doctorwhy 

 メーガン・スメラック(旧姓スミス)は、アメリカのロードアイランド大学の准教授( 心理学) です。メーガンはThe Learning Scientistsの共同創設者であり、研究で実証した効果的な学習方法や教育方法の利用の促進に挑戦しています。
メーガンのTwitter アカウント @DrSumeracki 

 オリバー・カヴィグリオリは特別支援の校長を10年務めた後、エビデンスに基づいた授業方法のビジュアルガイド(HOW2s)を制作しました。最近はさまざまな環境で利用できる、スケッチノート、デジタルダイアグラム、インフォグラフィックス、ライブ会議のノートやポスター等の視覚的教材をつくっています。
オリバーのTwitter アカウント @olicav 

日本語版監訳者あとがき

 人間は情報を「食べて出す」ことで喜びを得る生き物です。常に何らかの知識や経験を積み重ね、そこから新しいものを生み出して生きています。この人間の内外への情報の出入りが多数の人々や多様な記録デバイスを経由して複雑になされながら、私たちはここまで歩んできたのです。
 さて、それを支えているプロセスに目を向けてみると、人間の内部には学習にチューンされたうまい仕組みが備わっていることは明らかです。人間が何かを学ぶとき、そこにはある程度の法則性があるように思われます。
 たしかに個人差が大きいことも事実ではあるものの、私たちが情報に接したとき、それを学ぶか学ばないかがランダムに決まっていることはありません。では、そのうまい仕組みとは何なのか。ここが重要なのですが、このことを長い間研究してきた学問分野のひとつが認知心理学です。認知心理学では生体をある種の情報処理装置であるとみなして、その内部メカニズムを実験的に推定しようとします。ですから、人間がどういう内部処理を働かせて情報を蓄積していくかを検討する上で認知心理学は有望なアプローチなのです。
 本書ではまさにそこに着目し、最適な学習法を考える上で、認知心理学が提供するエビデンスをもとにした多くのテクニックの紹介やその解説がなされています。私は1人の認知心理学者として私たちの基礎的知見がこのように教育現場になめらかに応用されていく可能性をうれしく思います。
 科学には、科学自身を修正したり修復したりする機能があります。認知心理学や教育心理学も例外ではありません。近年では比較的知られるようになってきましたが、本書は学習スタイルに合わせた学習方法を採用することが特に効果的ではないということを明言しています。
 しかし、数十年前では,学習スタイルに合わせた学習を行うことが良いとされ,学習スタイルとはどのようなもので、どういった学習スタイルが存在し、どのようにして実際の学習に取り入れていくべきかといったことが多種多様に提案されていました。いま、この考えは研究者たち自身の手によって修正されてきています。
 また、CHAPTER 12では手書きによるノートテイキングの学習効果について注釈を加えています。「やっぱり手書きが一番」という知見はたしかに魅力的なもので、本書の原書が執筆された際に紹介されるのもうなずけます。
 しかし、その後いくつかの追試研究によって、その再現可能性に疑義が呈されており、応用には待ったがかかっている状況です。このことは、科学の自己修正機能がうまく働いている現れだとポジティブに捉えてほしいと思います。見つける研究者と確かめる研究者、多くの人々が真実に向かって進むために協働している途中なのです。
 冒頭に述べたように、情報は食べるだけでなく出すことにも大きな意味があります。最適な学習法によってもりもりと学習することは、必ず創造的な思考を育むはずです。本書を利用していただいた方の中から将来腕利きの学習科学者が現れて、「効果的な学習法」をほかにもたくさん生み出してくれることを心から期待しています。

2022年7月 
日本語版監修者 山田祐樹

著者情報

岡崎 善弘(オカザキ ヨシヒロ)
岡山大学学術研究院教育学域 准教授。
2012年、広島大学大学院教育学研究科博士課程修了、博士(心理学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2022年より現職。教育学部で教育心理学や児童心理学の講義を担当している。

著者情報

山田 祐樹(ヤマダ ユウキ)
九州大学基幹教育院 准教授。
2008年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了、博士(心理学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)、山口大学時間学研究所助教(特命)等を経て、2013年より現職。認知心理学を専門とし、基幹教育院にて主に初年次教育に携わる。科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。

コンテンツ

序文―日本語版刊行にあたって …… 4
はじめに …… 8

PART 1|エビデンスに基づいた教育と学習の科学
 CHAPTER 1 教育科学と教育実践の分断 …… 11
 CHAPTER2 教育に関するエビデンスの種類 …… 27
 CHAPTER3 経験に基づいた直観は教育・学習の敵なのか? …… 45
 CHAPTER 4 学習に関する誤解 …… 59

PART 2|認知プロセスの基礎
 CHAPTER 5 情報の知覚 …… 77
 CHAPTER6 注意の機能 …… 89
 CHAPTER7 記憶の機能 …… 115

PART 3|効果的な学習方法
 INTRODUCTION …… 143
 CHAPTER 8 学習を計画する …… 151
 CHAPTER9 理解を深める …… 171
 CHAPTER 10 学習を強化する …… 201

PART 4|教師、学生、保護者におくる学習のヒント
 CHAPTER 11 教師たちへ …… 231
 CHAPTER 12 学生たちへ …… 249
 CHAPTER 13 保護者たちへ …… 265

用語集 …… 273
索引 …… 278
謝辞 …… 281
日本語版監修者あとがき …… 282
著者紹介 …… 284
イラストレーター紹介 …… 287