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川光俊哉先生。現在は大学で学生の指導のほか、脚本執筆・出演などの創作活動をされています。
2026.08.06
長年、小学校の現場で愛されてきた東京書籍の「小学校 音楽劇シリーズ」(以下「音楽劇シリーズ」)。以前は一部のサイトでの販売のみでしたが、2025年に書籍として出版されるとともに、電子楽譜配信も開始され、今再び大きな注目を集めています。今回は「音楽劇シリーズ」をはじめとする数々の名作文学の作詞・脚本を手がけた川光俊哉先生に、作品に込めた想いと制作の裏側について伺いました。
このシリーズは、小学校の国語の教科書に掲載されている名作文学などを舞台化した音楽劇のパッケージで『はだかの王さま』や『ごんぎつね』など、全11巻で構成されています。歌とセリフ入りの上演用サンプルやカラオケが収録された音源に加えて、台本、歌集、ピアノ用伴奏譜、指導者向けの演出の手引きなど、上演に必要なものが「全部入り」になっているのが特長です。学校現場は必ずしも照明や音響の設備が整っているわけではありません。そのような条件下でも音楽劇ができるように丁寧に計算してつくられています。
シリーズ後半の第7巻から第11巻(『ごんぎつね』『不思議の国のアリス』『サーカスのライオン』『注文の多い料理店』『手ぶくろを買いに』)の台本と作詞、演出の手引きを担当しました。
元々は小説家志望だったのですが、そのうち演劇の脚本を書くことにも興味を持つようになり、小説のように一人では完結しない表現である演劇を一から学ぶために、日本大学芸術学部に入り直していた時期でした。大学院の劇作コースの恩師に突然「やってみるか?」と声をかけられました。偶然でしたが、当時から私が創作の道に進みたいという強い意思を持っていたため、期待を込めて声をかけてくださったのだと思います。
舞台は映像のように編集ができず、生身の人間が演じるため、文学作品とは書き方の「文法」が全く違います。舞台化にあたっては、「圧縮と単純化と省略」という作業が欠かせず、頭の中で計算して複数の場面をシンプルに一つにまとめたり、小道具の出し入れを逆算して処理したりする必要があります。これが一番大変であり、腕の見せどころでもありました。たとえば『注文の多い料理店』は、原作では次々と現れる看板が、舞台上では最後に合体して一つの大きな看板になるという演出を取り入れることで、原作で登場する紳士たちの主観とリンクさせる工夫をしました。
演出の手引きでは、舞台のレイアウト案や表現のコツが丁寧に描かれています。
一人が長く喋り続けるのではなく、短いやり取りで状況を伝えられるようにすることを意識しました。全員が主役になれるようにする配慮です。また、物語の感情が盛り上がるタイミングできちんと歌をうたうシーンになるようにも設計しています。ここでも、一人が歌うのではなく複数人で交互に歌うことで、歌の中でもストーリーが流れるようになっています。
『不思議の国のアリス』ですね。原作の言葉遊びの面白さを活かしつつ、ダジャレや掛け言葉などはすべてオリジナルで考えました。もちろん、アリスの持つ「純粋な正義感」といった原作のイメージは崩さないように意識しました。原作の言葉をそのまま使っていなくても、アリスの可愛らしさを表現できていると思っています。誰も褒めてくれないので自分で言っちゃいますけど(笑)。
アリスの最大の魅力は「何でもありの自由な想像力」だと思っています。ここに書いたのは「私の考えるアリス」です。子どもたちにも自由に演じてもらい、「自分たちなりのアリス」を再発見してくれたら嬉しいですね。
『不思議の国のアリス』は川光先生自らが提案した作品でもあるそうです。
「表現って楽しい」「大きい声を出すってこんなに気持ちいいんだ」ということを感じてもらえれば、それだけで大成功。その次の段階として、演劇に限らずあらゆる芸術は「コミュニケーション」であると気づいてくれたらうれしいですね。どう表現すれば相手にきちんと伝わるだろうか――。そこまで考えられるようになると子どもだとしても、コミュニケーションの本質に迫ることができるはずです。
そうかもしれないですね。演劇を作り上げていく過程は、いわば「人生の縮図」のようなもの。仲間と話し合い、意見が衝突しても妥協点を見つけ、一つのゴールに向かって協力しなければなりません。そのような意味で、人生で一度は本気で演劇作品を作るという経験をしてほしいと強く思います。
演劇の本質は、みんなで一緒に作り上げることです。もし子どもたちが「こうしたい」と主体的にアイデアを出してくれたら、先生はそれを取りあげ、認めて、褒めてあげてください。先生が全てを教えるのではなく、子どもたちの想像力を活性化させるサポート役に回ることで、雰囲気も良くなり、みんなで楽しみながら成功に導けるでしょう。
子どもたちの中には、表に出たい子もいれば、尻込みしてしまう子もいるでしょう。無理やりやらされて嫌な思い出になるのではなく、初めて演劇という表現に触れる楽しい機会になり、そこからまた様々な作品に触れていくきっかけになればと心より願っています。