[新装版] 粥百選

[新装版] 粥百選

[精進編]高梨尚之・[中華編]横浜中華街 翠香園/著

ISBN:978-4-487-81881-5
定価2,640円(本体2,400円+税10%)
発売年月日:2025年12月01日
ページ数:144
判型:B5

解説:
精進料理の禅味と中華料理の滋味の共演。日本が誇る精進料理の「滋味」溢れる精進粥50品と、中国の家庭でも楽しまれているような「滋養」たっぷりな代表的な中華粥を50品、あわせて100選。
さらにそれにあうおかずそれぞれを10品ずつ収録。
精進、中華それぞれの「基本の白粥」の炊き方も詳述。
体調を崩したときはもとより、普段からぜひとも食事にとりいれたいヘルシーなおかゆを、地味と滋養、体調や気分に合わせてお愉しみいただけます。

心と体を整える至福のお粥レシピ『新装版 粥百選』紹介動画

精進編 はじめに

八百年来続く永平寺の朝粥

 直径1m以上もある大釜のフタをおもむろに開けると、滞留した真っ白な湯気が勢いよく解放され、ふっくらやわらかに炊きあげられた数百人分のお粥がそのつややかな光沢を顕(あらわ)にします。
 間髪入れず、調理白衣姿の禅僧が感謝の合掌を捧(ささ)げながらお粥をすくい上げ、保温性が高い昔ながらの木桶に移しはじめます。今日もまごころ込めて丁寧に炊きあげられた手作りのお粥が修行僧たちの活力となるのです。
 今から約八百年前、道元禅師(どうげんぜんじ)により越前(えちぜん・福井県)の地に建立された禅の道場、曹洞宗(そうとうしゅう)大本山永平寺。その厨房では、調理係に配属された修行僧の手により、全ての精進料理が日々調えられています。
 朝食の献立は開創当初と変わらずおかゆ、漬物、胡麻塩だけの枯淡(こたん)な内容です。無言の堂内でポリポリと噛む音が出ないよう、向こうが透けるほど薄く切られたたくあんと、無用な油が滲にじまないよう少しずつ力をかけて大すり鉢ですりあげた香ばしい胡麻塩。いずれも坐禅時と同様に無用な雑念を払い、ただ目の前の食材に心を傾けて只管(ひたすら)に調理します。
 こうしてまごころ込めて調えられた料理は、仏前の卓に並べられて、お袈裟(けさ)姿に着替えた典座(てんぞ・料理長)が焼香し、お粥に対しうやうやしく礼拝(らいはい)を重ねてから食事場所へと運ばれます。これは僧食九拝(そうじききゅうはい)という尊い作法です。私は典座職在任中、できあがった食への感謝と敬意を念じながら礼拝していました。
 これほどまでに礼を尽くして調えられた食事ですから、頂く側も真剣です。法衣(ほうえ)姿で坐禅を組み、応量器(おうりょうき)と呼ばれる入れ子式の漆器を用い、定められた作法に則り丁寧に食します。
 新米僧が「どう修行すれば良いでしょうか」と老師に尋ねると、「お粥を食べたら鉢を洗いなさい」と返答されたという有名な禅問答が、いま目の前にある日常のことを当たり前に行うのが修行の基本だと示している通り、曹洞宗では坐禅や法要読経などと同じく、掃除・洗面・用便・入浴・睡眠など全ての行いを尊い修行として重んじ、作法通り綿密に行じます。当たり前のことを当たり前に行う、言うのは簡単ですがそれを実践するのはなかなか難しいものです。
 道元禅師はそうしたさまざまな営みの中で特に象徴的な分野として、誰もが生きていく上で欠かせない「食」に注目し、禅寺の調理責任者である典座の心得を説いた『典座教訓(てんぞきょうくん)』と、いただく側の作法を示した『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』を著されました。その教えは、何も禅僧だけに向けた古臭いものではなく、現代に生きる皆さんにも充分通じる教えです。道元禅師が、良き修行には善き食事が欠かせないと示された通り、心身ともに満たされた人生を送るためには、充実した食生活が必要なのです。
 この書籍を手に取った方は、仏教や精進料理に特別興味があるわけではない方もたくさんおられるでしょう。そうした方は、本書の禅寺の美味しいお粥レシピを気軽に楽しめばそれで良いのです。
 ただ、精進料理の美味しさというのは単にレシピ通り作って終わりという浅いものではなく、「法喜禅悦(ほっきぜんえつ)」の語が示す通り、その教えを学ぶほどに、さらなる深い味わいと充足の世界が待っています。
 せっかくのご縁です。何度かお粥を作るうちに、少しでも興味が湧いてきたならば、是非、禅と精進料理の奥深く素晴らしい世界に触れてみて下さい。

精進料理と禅寺のお粥の魅力

 お粥には十の優れた点があると説く古い経典が『赴粥飯法』に引用されています。

[粥有十利(しゅうゆうじり)] 

・色つやが良くなる。
・力が出る。
・寿命が延びる。
・やすらかになる。
・頭が冴え口中爽やかになる。
・消化が良い。
・病気を防ぐ。
・飢えを満たす。
・渇きをいやす。
・便通が良くなる。

 大学生としてごく普通の食生活を送っていた私が永平寺に上山して修行の道に入った当初は、食事の少なさと味気なさに耐える日々が続きました。ところが数カ月経って身体が慣れてくると空腹のつらさは薄れ、まさに粥有十利が示す通り便通改善や肌のつやが良くなり、身体が軽く感じ、集中力も増したことが実感できました。
 何よりも味覚が鋭くなり、野菜本来の持ち味、特にお粥のお米の繊細な甘さがわかるようになって、何も無理に味を加えたり特別な調理をせずとも、「お粥って甘かったんだ!」と、その美味しさに感動した覚えがあります。濃厚な味付けの料理に慣れていては味わえない精進料理ならではの世界です。
 後に永平寺東京別院の典座に就いてからは、自分の立てた献立や調理の出来ばえ次第で修行僧の気力や健康が大きく左右される体験を通じ、食がいかに大切であるかを再認識できました。
 世間では「まずい味付けで、少しだけの量を我慢して食べるのが精進料理」という認識が根強いようですがそれは大きな誤解です。『典座教訓』に「時(とき)に随(した)がって改変し、大衆(だいしゅ)をして受用(じゅうゆう)安楽ならしむるべし」とあるように、季節や状況に応じて工夫して、皆を心から満足させるような調理を目指すのが精進料理なのです。
 ですからお粥にも飽きぬよう、また旬に応じてたくさんの種類があります。私は偉大なる先人が遺したさまざまな献立を経験し、さらに現代的な工夫を加味して多くのレシピを習得しましたが、こうした宝をお寺の中だけで秘蔵する時代はもう終わりました。せっかくの素晴らしいレシピや精進料理の教えを、より多くの方に知って欲しいのです。
 もちろん、やみくもに美味を求めては煩悩(ぼんのう)を招きます。そのため精進料理には仏教の教義に基づくルールがありますが、その一つが食材の制限です。
 精進料理では殺生(せっしょう)を戒(いまし)める教えにより肉や魚、またニラ、ネギ、にんにくなどを避けて調理します。現在では信仰上の理由以外にも、カロリー制限などの健康面での立場、あるいは食品アレルギーなどさまざまな理由でベジタリアン食を求める方が増えていますので、本書の精進レシピは大いに参考になると思います。
 特にそうした制限が必要がない方は、適宜肉や魚、卵や牛乳などをお好みで加えて自分流にアレンジしてみるのもまた楽しいでしょう。
 しかしいずれにせよ肉や魚だけでなく、野菜にも穀物にも、全ての食材に等しく尊い命が宿っているということを忘れてはなりません。野菜にも肉や魚と同様にかけがえのない命があり、動物性、植物性と単純に区分するのは精進料理の本義ではありません。大切なことは、どんな食材に対しても感謝の念を忘れず、無駄を出さないようにありがたく調理し、また頂く者は食材の命に恥じないような良き行いをすべきだということではないでしょうか。
 たとえ肉や魚を使っていても、そうした姿勢で作り食べる料理こそが真の精進料理だと私は固く信じてやみません。

今こそ家庭で手作りのお粥

 一般向けの坐禅会や精進料理教室でお粥を作ると、多くの方がその美味しさに驚きの声を上げ、今まで不幸にもお粥なんて病人用のまずい献立と誤解していた、と嬉しそうに語ります。
 体調が悪い時に美味しく感じないのはお粥に限りませんし、また大病院では病室に運ぶ時間がかかる場合があることが誤解を生む一因でしょう。
 病中に限らず、どうもお粥にマイナスイメージを持つ人が少なくないようですが、きちんと炊いたお粥は大変美味しいものです。
 「お粥は吹いて食べろ」「人を待たせてもお粥を待たせるな」の格言通り、できたての最も良い状態で頂くお粥のこの上ない滋味(じみ)を是非多くの方に知って欲しいのです。そして自分の時間の都合に合わせて毎回お粥を用意できるのは手作りをおいて他にはありません。
 そもそも、おかゆの歴史は大変古く、乾燥保存した穀物を多めの水で煮込むことで柔らかく、また温かく食することができる手軽な方法として、人類が火と土器を用いはじめた数千年前に遡ると推測されています。また仏教においてもお釈迦様が悟りを得る前に乳がゆを口にされた故事をはじめとして、二千五百年の歴史の中で数多くのお粥に関する逸話が遺されるほどその関係は深く、長年に渡って僧侶の健康長寿を支えてきた実績があります。
 こうした長い歴史にもかかわらず、現在、わが国でお粥を常食する地域はそれほど多くなく、正直なところマイナーな料理と言わざるを得ません。
 しかし今こそ各家庭でもっともっとお粥に注目すべき時代だと思うのです。
 まず第一に高齢化社会を迎えつつある現代においては、誤嚥(ごえん)防止のため、また消化能力や咀嚼力(そしゃくりょく)が低下した高齢者にとってお粥は特にお薦めの料理法ですし、高血圧やメタボリック、肥満などの栄養過多に悩む方、あるいはスタイルを気にしてダイエットを望む方にも、ローカロリーのお粥は最適で、また乳児の離乳食にも向いています。少しのお米で作れるため経済的にも優れ、また火加減さえ覚えれば非常に簡単で、バリエーションも豊富です。
 お粥は老若男女問わず、現代人の食生活に積極的に採りいれるべき優れた調理法なのです。
 また何よりも、多忙ゆえにゆっくり食と向き合う時間がなかなかとれない現代人にとって、コトコトとお粥を炊き、その間に付け合わせの一品を調理するといった、日々の暮らしの中でじっくりと食と向き合う時間を作ることが何よりも意義深いと思います。自分で手間をかけて調理して、はじめて実感できることがあります。
 「食育」と簡単に言いますが、言葉の表面だけを理解したのでは意味がありません。道元禅師が示された教えのとおり、自分で実際に調理することによって、作り手の苦労を体験し、お米や胡麻の一粒までも無駄にしない食への感謝の気持ちや自分の命の尊さなどを実感できるのではないでしょうか。
 そして万一多少おかしな味や仕上がりになったとしても、その失敗を補って余りあるのが手作りの味わいです。家族のため、自分のため、いずれにせよ、手作りのまごころを感じながら家庭の味を頂くことで、必ず心身ともに満たされることでしょう。
 毎日は難しいという方はタイマー付のお粥炊飯ジャーを利用したり、時間のある日だけでも良いのです。まずはとにかく作ってみる、そしてマジメに食べてみることが大切です。
 そしてやはり食事は美味しくないと長続きしません。是非、四季折々の魅力あふれるお粥レシピをご家庭で味わって下さい。


曹洞宗永福寺住職
精進料理研究家  高梨尚之 合掌

中華編 はじめに

中華粥について

 ご存知のようにお粥は食器・穀物・水・火と人の手によって作られた食品です。これは土石食器の誕生の頃から、我々人間にとっては最初の「栄養食品」と言えます。
 お粥とは人類の先祖たちが食料不足への対処や多様な食料を求めるため、また人間の消化吸収・体調変化等の要求に応じて、穀物・野菜・多種類の生薬を足し加えた、いわば、生活上の知恵によって生まれた穀物・野菜・生薬の混合食品の結晶です。  東洋医学の観点から薬膳粥の誕生について述べますと、人類は生命を維持するためにまず空腹を満たします。しかし、常に健康な状態とは限りません。
 病に冒され食欲がなく、体力もなくなる時もあります。やむを得ず、医者に診察してもらい、処方箋通りの生薬を煎じて飲むしかありません。でも、どの薬もあまり美味しくない。そこで消化・吸収しやすく、食べやすいようにお粥に足して食べるようにしました。また、日頃食べられる薬草・野草もお粥に混ぜて調理し、そこから今日の薬膳粥が誕生しました。
 中国の「医食同源」の考えから生まれた健康料理、および東洋の伝統的な考え方では、体の悪い部分だけを診るのではなく、心と身体のバランスを整えて健康増進を図ります。薬膳粥はこうした考え方に基づいて、その人の体質や体調に合った食材と薬膳食材を組み合わせて作られたものです。いわば「オーダーメイドの料理」なのです。
 赤ちゃんが誕生して最初の食物は、母親の母乳だと思う人は多いですが、実は最初の「食事」といえば両親の手によって作られたお粥なのです。一方、人生の最後の「食事」はこれもお粥です。しかも赤ちゃんの時と同じく人の手によって作られ、または人の手によって食べさせられています。人生の最初に出会う食事と最後に出会う食事はまったく同じです。不思議ですね。やはりお粥は我々人間とともに、生涯を通じて生きる至高の食事なのです。
 何故、お粥が我々人間にとって至高の食事といえるのでしょうか。人間の消化・吸収の機能から説明をしてみます。

「梅干粥」には消化・吸収を促進する効能

 東洋医学では胃腸の働きについて、胃・脾(ひ) ・腸、各経脈の働きと認識します。胃・脾・腸は「後天の本」「元」、すなわち、生体にとって大変重要であると言います。西洋医学では食物の消化は、食物の原型を細かく刻むと同時に、各種の酵素を混ぜる、小腸で吸収をしやすくするための準備作業です。
 赤ちゃんは生まれてから母乳で育ちます。離乳食としては先ずはお粥です。赤ちゃんの胃袋の粘膜とひだはまだ弱く、硬いものはなかなか砕けず、腸の機能も弱く、食物の吸収が完全にできません。老人・病人も同じく胃と腸の消化・吸収機能の退化・低下により、硬い食物の消化・吸収がしきれません。そこで、栄養士は赤ちゃんの離乳食と老人・病人には、「三分・五分・七分」粥を体調の成長・回復ぶりに応じて配膳し、体に必要な栄養をやさしく消化・吸収させるようにし、生命を維持させていきます。
 日本人は病中や体調不良時には梅干粥を食べ、温かいお粥は、傷み疲れた胃腸を温め休ませ、活力を取り戻させるのに役立ちます。理由は、人体は食べ物の消化・吸収により維持されているのみならず、胃腸の調子は肉体的ならびに精神的状態を一番大きく左右し、胃・脾・腸を整えないと体調が整わない仕組みとなっているからです。
 東洋医学の諸書では、梅には健脾開胃と消化吸収を促進する効能がある、と記載されています。しかし、現代人には理解のできない語彙が多く、科学的根拠を示すことができないため、なかなか理解しがたいところがあります。そこで、現代科学と現代医学で説明します。  梅干の成分には、蛋白質・脂質・カルシウム・リン・鉄分・ビタミン・クエン酸等の有機酸があります。クエン酸の酸味は唾液の分泌を促し、唾液は食物に混ざり分解を促進します。梅干を目で見たり、脳で想像しただけで唾液が分泌されるのは、梅干を実際に食べた人間が脳細胞に酸味を記憶しているからです。
 クエン酸は、唾液の分泌の促進効能のほか、疲労回復の効能があります。血糖値の上昇を抑えたり、便秘の解消を助けたり、肝機能を高めることによって、酔いを防止する効果もあります。病中療養・飲酒時にはお粥と梅干が供されることを欠かさないのは、この理由です。  その他、解熱と抗菌・防腐の効能もあります。梅干を潰し、おでこに貼り付けることにより熱を下げるのは、民間に伝わる療法の一種です。お弁当やおむすびに梅干が入れられ、食物の腐敗を遅らせることがありますが、これは抗菌・防腐の効能です。
 したがって、日の丸弁当は日本人の最高の傑作です。

「緑豆粥」に見る季節に応じた「補(ほ) 」と「瀉(しゃ)」の効能

 東洋医学の真髄は、数千年にわたる豊富な経験の積み重ねによる、病気になりにくい体質を作る、未病を治すといった理想的な健康医学です。人間は「気・血・水」の三つがバランスを取り合って体の働きを維持し、健康を保っていると考えられています。この三つの働きが不足したり、滞ったり、偏ったりすると、体内のバランスが崩れます。生体不調の原因に基づき、生薬の投薬、鍼灸・按摩の施術などの療法を施し、人間の健康と子孫の繁栄を維持しています。
 「補」と「瀉」は東洋医学の診療・施術・処方の基本的な理論です。診療・施術・処方に当たって補法を用いて、弱っている臓腑または経路に刺激を与えて正常に戻す(弱った機能を補う)、または瀉法を用いて、亢進した臓腑の機能を抑制し、過剰物質を排除する(強すぎる機能を抑える)、というのが基本的な論理です。
 お粥と薬膳粥も数千年にわたる豊富な医学・栄養学・烹調(ほうちょう・調理)学の経験の積み重ねによる健康を保つための栄養食品です。夏の暑さが厳しくなると、中国各地で決まって登場するのが緑豆粥です。各家で自家製の緑豆粥を食べ、日射病や熱中症の予防とします。または、口渇・口乾・煩躁(はんそう)などの熱象があるときにも、緑豆粥は欠かせません。ここで、瀉法の論理を用いて夏季に緑豆粥を食べる理由を説明します。
 まずは緑豆から説明します。緑豆は、日本などの極東アジアにおいて栽培化されたもので、そのため、食用では、日本を含むアジア諸国での利用が最も多いとされています。アズキと同じ仲間に分類される緑豆は、かつて、「文豆」とも言われていたもので、これは物の重さを計るのにちょうど良い均等な大きさをしていたからです。現在、日本へ輸入されている緑豆は、主にもやしの原料目的となっておりますが、他にも豆麺(春雨)の原料目的で使用されることもあります。
 緑豆の中医学的効能としては、熱を取る効果のある「陰」の食品の代表とされています。中国では薬としても使われるほど解熱効果が高く、ダイエットにも利用されます。その他、緑豆は清熱解毒、消暑止渇、利尿作用もあります。
 では、現代科学で緑豆の成分を紹介しましょう。緑豆は、豆類の中でもミネラルが豊富で、特にカリウムを多く含んでいます。
 体の水分代謝には、カリウムとナトリウムが関係していて、塩分の濃いものをとり過ぎるなどして体内のナトリウムが過剰になると、余分な水分をためこみ、むくみが生じます。カリウムには、余分なナトリウムを尿として排出するのを助け、むくみを改善する働きがあるのです。体の塩分量を調節し、余分な塩分と水分を体外に排出するため、循環血液量が減り、間接的に心臓機能や筋肉機能を調節して血圧を下げることで、心臓の疾患と筋肉の疾患の予防することにもなります。さらにカリウムには、エネルギー代謝の活性化、タンパク質合成への関与、神経や筋肉の機能を正常に保つ働きもあります。
 緑豆粥の季節に応じた東洋医学の瀉法の効能がおわかりになったでしょう。非常に簡単に言えば、緑豆の中のカリウムが余分な水分を排出し、緑豆粥は身体の新陳代謝とエネルギーの補給には最高の栄養食品なのです。
 その他、緑豆の鉄分は酸素や栄養素を体内に運ぶ赤血球となり、生命を維持する元になり、貧血の予防作用があります。カルシウムは骨や歯を作る栄養素で、イライラやストレス解消・骨こつ粗そ 鬆しょう症しょうや高血圧に対しての予防作用があります。リンの80%はカルシウムと結合してリン酸カルシウムを作り、骨や歯を形成します。残りは遺伝子をつかさどる核酸や細胞膜や神経細胞の構成物質となり、また、神経伝達物質の材料にもなります。また、エネルギーを貯えたり運搬したりして、神経・筋肉などの機能を正常に保ち、ビタミンB1・B2と結合して補酵素となり、糖質の代謝を促進し、ナイアシンの吸収を高める効果もあり、生命維持に重要な役割をしています。ビタミンB1はエネルギーを作る働きや、乳酸などの疲労物質を分解する働きがあります。ビタミンB2は皮膚や粘膜を健康に保ち、また脂質の代謝を促進するので、脂肪燃焼を助け、ダイエットに効果的で、肥満や動脈硬化の予防効果があるとされます。ビタミンCは血管を強化し、鉄分の吸収を促進、これによりコレステロール値を下げ、癌や動脈硬化を予防する効果があります。また、コラーゲンの生成を促し、肌のトラブル解消やスキンケアにもなります。さらにビタミンEの抗酸化作用を高める働きもあり、免疫力が高まり風邪等もひきにくくなり、ストレスに対する抵抗力もつき、活性酸素の害を防ぎます。食物繊維は血糖値やコレステロールを抑え、水溶性と非水溶性のものが共に多く含まれているため、腸内細菌を増やし免疫力を高めてくれるので、便秘や糖尿病、大腸癌などの生活習慣病や成人病を予防したり改善したりする働きがあります。
 以上紹介した緑豆の各成分の効能から、緑豆の免疫と疾病予防作用の重大であることはおわかりいただけたでしょう。
 古代の医学書と現代で知られる緑豆の作用を比べれば、古代の医学書に記された効能もあながち嘘ではないと言えるのではないでしょうか。

腹持ちをよくするお粥の食べ方

 中国の朝食の習慣は、主食に粉でできた饅頭・油条(ゆじょう・揚げパン)などがあります。副食はお粥、おかずは野菜炒めなどとお新香です。朝食の食べ方について、中国人には長年の知恵があります。お饅頭とお粥の食べ合わせの技法です。それは一口のお饅頭、一口のお粥、一口のおかずの順番です。その理由は、建築のレンガとコンクリートの積み重ねの技法と同じです。レンガはお饅頭でお粥はコンクリート、おかずはコンクリートの中の薬品です。このような食べ方をすると、食物は胃袋の中で隙間がなく頑丈な建物のようになっていきます。胃中の食物は頑丈になると胃袋の運動に対しての抵抗が高まり、よって腹持ちがよくなります。この技法でお食べになると腹持ちがよいので、ダイエットに効果的と言えるでしょう。
 最後に読者の皆様にお勧めすることですが、本書に掲載の諸レシピを参考にして、ご自身の家庭のスタイルと各自の健康状況に合わせて、多様なお粥にチャレンジをし、楽しんでいただきたいと思います。


横浜中華街 振興中治療院
代表 清水峰雄(中国医科大学卒)

著者情報

横浜中華街 翠香園(ヨコハマチュウカガイ スイコウエン)
横浜中華街の市場通りにある広東料理の老舗。横浜中央市場から毎日届けられる旬の新鮮な食材を使った海鮮料理が人気で、遠方からも長年通うお客様も多い。鯛の中国風刺身(鳳城魚滑)や蟹の卵入りフカヒレスープ(蟹黄魚翅)は開店以来変わらず愛され続けている逸品。本書の撮影にあたって特別にお粥のレパートリーとレシピを提供。

著者情報

高梨 尚之(タカナシ ショウシ)
1972年生まれ。曹洞宗大本山永平寺にて禅の修行を積み、精進料理の心と技を深く学ぶ。2001年より2005年まで、大本山永平寺東京別院長谷寺にて副典座、および典座(総料理長)を務める。
現在、群馬県沼田市の曹洞宗永福寺住職。曹洞宗布教師。また、三心亭無苦庵にて精進料理の研究の傍ら、「典座和尚の食育説法」と称して講演・執筆・料理教室などを行い、ウェブサイト「典座ネット」(http://www.tenzo.net/)を主宰。
著書に、『永平寺の精進料理』(学習研究社)、『典座和尚の精進料理~家庭で楽しむ110レシピ』(大泉書店)、『はじめての精進料理』(弊社刊)、共著に『粥百選』(弊社刊)ほか。

コンテンツ

【精進編】
古代米のおかゆ
十穀米のおかゆ
米湯
きびがゆ
カリカリ梅粥
茶がゆ
ひじきがゆ
味噌がゆ
ふきと新じゃがのおかゆ
薬膳よもぎ粥
そら豆がゆ
とうもろこし粥
スジャータの乳がゆ
百合根がゆ
レンコン粥
養老粥
生姜あんかけ粥
七草がゆ
餅粥
炒り大豆のおかゆ
湯葉がゆ
干し野菜のおかゆ
おこげのうずみ豆腐
山菜雑炊
かくや茶漬
みかんとキウイのおかゆ
ミントとバナナのおかゆ など

★おかゆに合うおかず
 きゅうりの辛子漬
 絹の揚げ出し豆腐
 アボカドわさびあえ
 セロリとカブの味噌粕漬 など

【中華編】
魚の切り身粥
つみれ粥
えび団子粥
ホタテ粥
かにあさり粥
つぶ貝と鶏肉の粥
黒もち米とあわび、鶏肉の粥
冬瓜と干し貝柱、昆布、緑豆の粥
干し貝柱と銀杏の粥
かぼちゃとジャガイモ、黒目豆の粥
れんこんと人参、しいたけの粥
黒目豆と緑豆、鶏肉の粥
鶏の砂肝と背肝、黒豆の粥
船頭さんのお粥
黒目豆とスペアリブのお粥
ピーナッツと干菜、スペアリブの粥
ハチノスの粥
ピータンと滑牛肉の粥
豚肉と豚もつの粥
赤白いんげん豆と豚もつ、豚肉の粥
白菜と干し貝柱、豚肉の粥
小豆と蓮子、百合根、栗、陳皮の粥
古代米と栗、蓮子と百合根の粥
干し貝柱と燕の巣の粥
杏仁とクコの実、栗の粥
シロキクラゲとクコの実の粥
黒ごま・くるみ粥
くだもの粥 など
★おかゆに合う中華おかず
 菜脯と海鮮の粒炒め
 鶏肉とナッツの四川風炒め
 れんこんのXO醤炒め
 雪菜とハチノスのうま煮 など