書籍編集の現場から
学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす
妙に「非認知能力」という言葉が心に刺さったその数週間後。岡山のとある幼稚園の小さな園庭で約30年前に出会った、幼馴染の中山氏(著者)より電話があった。2020年の教育改革や来たるAI時代に向けて考えていることがあるので、東京出張の際、話をしたいという。以前彼が執筆した学童保育についての本を読んだ際、いわゆる教育書的な実践部分ももちろん素晴らしいのだが、学童っ子とのエピソードや言葉に血が通っていて、子どもたちへの柔らかな姿勢と温かな目線に心を動かされたことがある。
ふたつ返事で再会し、レジュメを見せてもらうと、タイトル案にその言葉はなかったものの、まさに「非認知能力」がテーマだった。測りにくい非認知能力の代表例として、次の5つの力が挙げられていた。
○コミュニケーション能力(他者とやり取りできる力)
○思いやり・共感性(他者の立場や思いに立てる力)
○忍耐力(がまんする力)
○自信・自尊感情(自分をプラスにとらえる力)
○意欲(前向きにがんばろうとする力)
その5つを目にした瞬間、「のんき」を絵に描いたような我が子の顔が浮かんできた(失礼)。中学生になり、テストで順位が付くようになってから成績が冴えない。が、しかし、親ばかと恥を恐れずに言うと、彼女は行動力があり、気働きはできる。世代関係なく人と関わるのが好きで、やりたいことに根気よく挑戦し、逆に、もう少し自責の念に駆られてもいいのでは?と心配になるほどポジティブで自己肯定感が高い。
単なる過信や自信、頭の良さとも違うし、それは何なのか? まわりにも同じことを口にする母友や先生は数多くいた。絶対面白い、きっと興味がある人はいるはずだ。ということですぐに企画書を書いた。
そして、本書に出てきた「計画された偶発性理論」という言葉こそ、まさにこの本の始まりであり、非認知能力に繋がることを編集中に知った。
「人のキャリアは自分自身の手で切り拓いていくだけでなく、人生の80%を占める偶然の出来事が大きく影響を与えている。だからこそ、その偶然の出来事が起こらないように避けるのではなく、むしろ、その偶然の出来事を最大限に生かしたり、積極的に作りだしたりすることが重要なのだ」
園庭で著者とおままごとをしていなかったら? 同窓会で再会し、乾杯していなかったら? 経済学の本を担当させていただいてなかったら? ……これからもたくさんのご縁を見逃さず、大切にしたいと強く思う。
ありがたいことに、発売2カ月で3刷となる。小・中学校の管理職はじめ先生方や教育委員会からの反響が大きいと新聞社の方や著者から聞いた。子どもの成長を楽しみながら、このような仕事に関われたこと、機会をいただけたことに、私と関わりあるすべての方に感謝したい。
東京書籍 編集制作部
2019年3月