Pagans 多神教表象大全
ISBN:978-4-487-81664-4
定価4,180円(本体3,800円+税10%)
発売年月日:2024年08月06日
ページ数:256
判型:B5変型
聖なる自然、女神や男神、魔女術、占い、祝祭――
知られざるペイガンの世界へとあなたを誘う美しきビジュアル図鑑が誕生!
キリスト教徒が「ペイガン」というラベルを貼ってきた多くの宗教共同体の、絵画、彫刻、儀式、護符、呪具などの図版を豊富に掲載。
オールカラー図版450点。
「キリスト教徒が「ペイガン」というラベルを張ってきた多くの宗教共同体の間には、文化、言語、美意識の点で大きな違いがあるが、その一方で、繰り返し現れる特徴も多く、それらを並べて考察することで人間関係の複雑さについてより深い洞察が得られるのである。」(本書「はじめに」より)
序文──日本語版監修・翻訳にあたって
いま初めて「ペイガン(Pagan)」という言葉を目にした方もいるかもしれません。この言葉は副題の「多神教」と全く同じ意味ではありません。キリスト教、ユダヤ教、イスラームとは異なるという意味を込めてか「異教」と訳されることもありました。けれど、ペイガンはペイガンなのです。本書の随所で触れられているように、そういったアイデンティティをもって、宗教あるいは信仰として携わっている人たちが世界各地に沢山います。
狭義のペイガンはヨーロッパに限られますが、広義には世界各地のキリスト教、ユダヤ教、イスラーム以外の宗教的な伝統を含みます。ここではその観点から、さまざまな時代と地域の多様な信仰の世界を知識として知り、イメージとしてみることができます。日本に関する記述もここかしこに見られます。日本を絶対視せず、相対的に描かれ、客観的に説明されているので、身近な事柄への新しい気付きもあると思います。
本書の元となった Pagans: The Visual Culture of Pagan Myths, Legends + Rituals (2023) の著者のイーサン・ドイル・ホワイト(Ethan Doyle White)博士は、2019年にユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンにて、中世の史学と考古学の博士号を取得し、現代のペイガンの実践の研究もされています。翻訳に悩んだ単語について相談した際、日本の読者へのメッセージもくださいました。
拙著が日本語に翻訳されることを光栄に思いますし、この素晴らしい国の多くの読者に興味を持ってもらえることを願っています。以前日本を訪れたとき、アブラハムの宗教が支配的であったことのない社会の体験に魅了され、数年以内に再び訪れたいと強く願っています。
メッセージにある「アブラハムの宗教」という言葉は、この後に繰り返し出てきます。これは預言者アブラハムが信仰した神を信じる宗教、つまりキリスト教、ユダヤ教、イスラームのことです。そして私が翻訳に難儀した言葉の一つが modern Pagan。ホワイト博士によれば、第二次世界大戦以前から存在していたそうなので「近代のペイガン」と訳しました。もう一つが (Old) Norse。Old Norse は古ノルド語、Norseは曖昧さもあるが古ノルド語の話者とその子孫(アイスランド語やノルウェー語の話者)を指す、しかし古ノルド語と訳しても差し支えないだろう、とのことでしたので、そう訳しました。また原文では現代は Pagan、過去は paganと区別されていますが、翻訳では区別しませんでした。
これ以外にもなじみのない翻訳もあると思います。たとえば、日本で「イギリス」として知られる国は、グレートブリテン島と北アイルランドから成っていますが、しばしば「ブリテン」(=グレートブリテン島)と「アイルランド」(=北アイルランドとアイルランド共和国)という表現が出てくるので、そのまま訳しています。また、男性の神は単に「神」ということもありますが、基本的には G(g)oddess は女神、G(g)od は男神、(G)gods は両性の神々を指していれば神々、deity は神と訳しました。言語表記が示されている言葉は、日本語であっても< >内にいれました。違和感があるかもしれませんが、原著をできるだけ忠実に訳そうとした結果、こうすることにしました。
Pagans を通して、ペイガンへの関心が、日本でも高まったら嬉しいです!
河西瑛里子
国立民族学博物館 助教