
新井紀子の読解力トレーニング
ISBN:978-4-487-81662-0
定価1,870円(本体1,700円+税10%)
発売年月日:2025年02月10日
ページ数:272
判型:B5変型
小学生のうちに身につけたい、文章を「正確に」読む技術
〈教科書、ちゃんと読めていますか?〉
毎日の自学自習で実践できる! 全12回のトレーニング
・1けたどうしのかけ算を、さっと答えられますか?
・「いくつかの」「さまざまな」など、ふだんの生活で使わない言葉でつまずいていませんか?
・文章を書き写すとき、ノートに1字ずつ写していませんか?
文章を「正しく」読むって、どういうことでしょうか。
この本では、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの過程で開発された、
読解力を測るテスト「リーディングスキルテスト(RST)」の受検者50万人以上のデータをもとに、
「文章を正しく読めているか」「文章を読むための準備はできているか」をチェックしながら、
きょうから自学自習でできることを紹介していきます。
はじめに
学校は楽しいですか?
私はぜんぜん楽しくありませんでした。
「なぜ学校がきらいなの?」とお母さんに聞かれても、小学生の私はうまく言葉にできませんでした。おとなになった今もやっぱりうまく言葉にできません。時間がたちすぎて、よく覚えていないからです。ただ、朝目覚めたとき、「今日も学校がある」と考えるだけでゆううつになるあの気分は忘れられません。
まず、登校班がいやでした。男子や上級生がいばるのです。それに、通学路できれいな花やふしぎな虫を見つけても立ち止まってはいけないのです。学校の帰りは、登校班はないので、よりみちができてずっと楽しかったです。
学校には時間割があって、次から次へとちがう勉強をしなければならないのもいやでした。国語の本をもっとずっと読んでいたいのに、「はい、教科書を閉じましょう。次は体育です」と言われるのはいやでした。
忘れ物が多い私は、よく先生にしかられました。特に、音楽や図工など、いつもと持ち物がちがうと覚えていられないのです。リコーダーを忘れて音楽の時間中、ろうかに立たされたこともありました。
特にきらいだったのが、体育と算数と給食です。体育も算数も、上手にできないとみんなに笑われます。やりたくないのに「あきらめずにもう一回やってごらん」と先生に言われます。きらいなメニューの給食のときは、「農家の人や、作ってくれた給食のおばさんに感謝して、全部食べましょう」と言われます。みんながそうじを始めても、私だけが給食を食べ続けなければなりません。そうじのせいでほこりが出ます。その中で、きらいな「パイナップル入り酢豚」を前に座っていなければなりません。「おい、そうじのじゃまだ。早く食えよ」と男子に責められます。涙が出てきます。
子どものころ、よくこんな夢を見ました。学校が火事になる夢です。炎につつまれる学校を見上げて、私は「もう学校に行かなくていい!」と叫ぶのです。そして、泣きじゃくりながら目を覚ましました。
私はおとなになって、大学の先生になりました。数学の先生です。
学校がきらいなのに、先生になったのです。しかも算数が大きらいだったのに数学の先生になりました。ふしぎですね。でも、「一度何かに集中したら他のことは考えたくないし、考えられない」という私の性質は学問に向いていることがわかりました。私以外にも「学校は好きじゃなかった」という大学の先生はたくさんいます。「内容がやさしすぎてつまらなかった」、という人もいますし、「がやがやした環境ではそもそも勉強に集中できない」という人もいます。
学校に向いている人が、勉強や研究に向いているとはかぎらないんですね。
昔とちがって、今の先生は、忘れ物をした子をろうかに立たせたりはしません。法律で禁止されたからです。それでも、「学校はいやだなあ」と思う人はいるでしょう。「学校は楽しいこともたくさんあるけど、いやなこともある」と思う人はもっとたくさんいるでしょう。
私は学校がなくなればいい、とは決して思いません。私には学校は向いていなかったけれど、多くの人にとって、学校はなくてはならない場所だからです。
では、学校がきらいな人、学校にいやなところがある人はどうしたらよいでしょうか。
学校が火事になる夢ばかり見ていた中学2年生の私は、ある日こう思いました。
自分で学校を卒業すればいいんだ、と。
「自分で卒業するって、どうやって?」「卒業式の日がこないと、学校は卒業できないでしょう?」とあなたは思うかもしれません。
でも、私は、学校に行く必要がなくなること=卒業であると考えています。
では、どんな状態になれたら、あなたは学校に行く「必要」がなくなるのでしょう。
学校で何をするか、ということは、担任の先生や校長先生が決めるわけではありません。
国には「文部科学省」という役所があり、そこで、小学校・中学校・高等学校で、どんな教科で何を学ぶかを決めています。文部科学省もその内容を勝手に決めているのではなく、「中央教育審議会」というところで、多くの有識者(学問や知識を身につけ、すぐれた考えをもっている人)が議論をして、十年に一度意見をとりまとめて「答申」します。
それを受けて、文部科学省が「学習指導要領」というものをまとめます。この学習指導要領の中に、各教科を学ぶ目的や、各学年で達成すべき目標などが書かれているのです。そして、学習指導要領の内容を反映して「教科書」が書かれます。
つまり、教科書に、「日本の子どもが学校で身につけて卒業すべき内容」はすべて書かれているのです。しかも、高校入試は中学卒業までの指導要領の中から、大学入試は高校卒業の指導要領の中から出題され、受験者の能力が問われます。日本で最も難しいといわれる、東京大学の入学試験でも、指導要領から外れた難問は出せないのです。
だったら、教科書に書かれた内容を理解できるようになれば卒業してもいいんじゃないの? と私は思うのです。
「教科書? ……学校でもほとんど使わないし、教科書だけじゃ受験勉強にならないよ。塾に行ったり、いっぱいドリルやプリントをしたりしなくちゃいけないんだよ」と思うかもしれません。
あなたが、そう思うのは、たぶん、あなたが教科書を「きちんと読めていない」からだと思います。
ためしに、次の文章を読んでください。小学5年生の算数に出てくる内容です。
2でわりきれる整数を偶数といいます。そうでない整数を奇数といいます。
「これくらい、もちろん読める」と思ったことでしょう。では、質問です。
次のうち、偶数はどれでしょう? 8 110 65 0
さあ、どうかな。8は偶数ですね。110は?
110÷2=55
わりきれました。65はどうでしょう。
65÷2=32あまり1
と計算して「奇数」だとわかった人もいれば、「1の位をチェックすればわかるんだよ。1の位が奇数なら、奇数。だから65は奇数だし、110は偶数」とすぐにわかった人もいるでしょう。そうです。65は奇数で、110は偶数です。では、0はどうでしょう。
コンカワ「0は整数かな・・・・・・整数って、1、2、3、・・・のような数のことでしょ?」
コアラダ「0は整数でも、少数でも、分数でもなくて、特別な数」
クマヤマ「0は「何もない」ということだよね。何もなかったら、2人で分けれられないよ!」
まず、0が整数か「特別な数」か調べてみましょう。
小学3年生の教科書を開いてみると、こんなふうに書いてあります。
0.3や0.8のような数を小数といい、「 . 」を小数点といいます。
また、0、1、2、3、・・・のような数を整数といいます。(東京書籍「新編 新しい算数3下」17ページ)
0は整数だと書いてありますね。ここが教科書の良いところです。「整数」のことがわからなくなっても、前の学年の教科書の「さくいん」を調べると、「整数」が初めて出てきたページがちゃんと書いてあるのです。そのページを開けば、整数の説明が書いてあります。
0が整数であることがわかりました。さて、0は偶数、奇数どっちでしょう。
ウサギノ「うーん・・・・・・。やっぱりどっちでもない。0 は2でわれないし、1あまることもないから」
いいえ、その答えはありえません。なぜかわかりますか? もう一度、最初の文章を読んでみましょう。
2でわりきれる整数を偶数といいます。そうでない整数を奇数といいます。
この文章は、整数は「2でわりきれる」か「そうでないか」のどちらかだと言っています。「2でわりきれなかったら、奇数」といいます。整数は偶数か奇数のどちらかなのです。
それに、さっき「1の位が偶数か奇数かをチェックすれば、どちらかわかる」と言っていましたよね。110の1の位は「0」です。110が偶数だということは0が偶数だということではありませんか?
ウサギノ「え? うーん・・・・・・」
なやむ前に、2でわりきれるか式を立てて試してみましょう。
0÷2=0
これでよいのではありませんか? 何もない0を2でわってもやっぱり何もないので、0のままでしょう。少なくとも「1あまる」ということはありえません。
0は偶数です。
どうでしたか?
「教科書を読んで、その内容がわかる」のは意外に大変でしたね。たった34文字の文章なのに、読み解けた人は少ないのではないでしょうか。だから、その「読み解き方」を先生から教わったり、友達と意見を交換したりしながら、「ああ、なるほど、わかったぞ」となるために学校に行くんですね。
え? 学校に行っているのに、この問題が解けなかった、ですって!?
それはこまりましたね。
この本では、そんなあなたに、「教科書の読み方」を伝授します。基礎から発展まで、全部で12回です。4人の「クラスメート」といっしょに読み進んでいきましょう。
コンカワ「基礎くらいはわかってると思うんだけど」
そういう人は、途中から始めてもかまいません。
コアラダ「どこまでわかっているかが、わからない・・・・・・」
それぞれの回の最初に質問します。その質問にしっかり答えられれば、その回はとばしてもかまいません。
クマヤマ「教科書かあ・・・・・・重いから学校に置きっぱなし」
教科書、たしかに重いですよね。本当は全部の教科書を持ち帰って、予習・復習したほうがいいんですよ。でも、どうしても教科書を持って帰りたくない人は、算数(数学)・理科・社会の3教科だけは必ず毎日持ち帰ることにしましょう。
ウサギノ「・・・・・・学校行けてないんですけど、参加してもいいですか?」
もちろんです。学校に行かなくても教科書はただでもらえます。小中学生には、教科書を「無償(ただ)」で提供しなければならない、という法律があります。ですから、学校に行けていなくても、教科書はちゃんともらえます。
教科書を自力で読み解けるようになったら、いつ学校を卒業するかは、あなたの自由です。
ただ、教科書を自力で読めるようになったら、ぐんぐん成績がのび、勉強するのが楽しくなるので、もっと勉強したくなるにちがいありません。
コンテンツ
〈基礎編〉
1回目 教科書をさっと開けるかな?
トレーニングページ1 教科書や辞書をさっと開いてみよう
コラム トレーニングはほどほどに
2回目 筆記用具をチェックしよう
コラム 学年ごと平均の文字数の目安(1分)
トレーニングページ2 視写ノートの作り方
3回目 自学自習で視写しよう
トレーニングページ3 視写ノートを活用しよう!
コラム みんなの視写ノート
4回目 文を言い換えてみよう
トレーニングページ4 言い換えのトレーニング
5回目 3分で復習と予習をしよう
トレーニングページ5 自習できたかどうか、リストでチェックしよう
6回目 答え合わせをしよう
トレーニングページ6 答え合わせの仕方
7回目 自学自習の積み重ねで、毎日はどう変わる?
トレーニングページ7 今の自分の確認リスト
コラム 計算が「つらい」?
〈発展編〉
8回目 得意な教科と苦手な教科は何かな?
トレーニングページ8 自分の得意と苦手を知ろう
9回目 算数の言葉づかいに慣れよう
トレーニングページ9 「定義」を読むトレーニング
10回目 算数の言葉でまとめてみよう
トレーニングページ10 「算数の作文=証明」の論理を組み立てるトレーニング
11回目 社会のグラフの特ちょうをまとめよう
資料 いろいろなグラフ
トレーニングページ11 グラフの特ちょうをまとめよう
12回目 理科のまとめを書いてみよう
トレーニングページ12 実験のまとめの書き方