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「リーダーシップ基礎」入門

「リーダーシップ基礎」入門
―傾聴力・対話力・交渉力・説得力を鍛える!―

田村次朗

ISBN:978-4-487-81632-3
定価1,650円(本体1,500円+税10%)
発売年月日:2023年03月08日
ページ数:216
判型:並製/四六判

解説:
「リーダー」と「リーダーシップ」は違います!
企業の不祥事やロシアのウクライナ侵略の現実から明白ですが、リーダーシップの素養が弱体なリーダーが居座る組織は、多かれ少なかれ社会に混乱をもたらします。これらの課題を解決するためには、リーダーとしてリーダーシップの意義を理解し、その素養を養うことです。
リーダーシップは、政府や企業・諸団体のリーダーに限ることなく、社会的課題に対応するうえで誰もが必要とする基本的な素養で、誰もが養える素養です。
本書では、リーダーシップとは何か、なぜ必要なのか、どのようにしたら身に付けることができるのかを、具体例を通してわかりやすく解説します。

はじめに

 リーダーシップは、学ぶことによって習得できる。
 こう書くと、少し前に生まれた人は驚き、そして「そんなことはあり得ない」と思うかもしれない。少し前までは、「リーダーシップ」とは「リーダーが持つべき資質や能力」と考えられていたからである。したがって、「リーダーシップ」という言葉は、リーダーの立場にはない人にとっては関係も関心もないものであり、せいぜいリーダーの立場にある人について論評するとき使う程度だった。例えば、「彼はリーダーシップを発揮している」 と誉めそやしたり、逆に「あいつはリーダーシップに欠ける」と言って批判したりするだけだった。
 しかし、私は、今の若者にはリーダーシップを学ぶことは「当たり前のこと」だと考えてほしいと願っている。なぜなら、今やすべての人がリーダーシップを学んだほうがいい時代になっ ているからである。つまり、多くの人がリーダーシップを発揮することが求められるようになっているということである。なぜそのようなことが起きているのだろうか。それは、戦争やパンデミック、地球温暖化など世界は混沌の度合いを深めていて、リーダーの立場にある人に任せているだけではこれらの問題や課題を解決することが難しくなっているからである。

 ハーバード大学をはじめとする海外の研究者たちは、「リーダーシップ」とは、個人が参加して行う組織の意思決定のプロセスであり、また複数人の交流によって生ずる影響力であると考えるようになっている。
 では、多くの人がリーダーシップを学ぶためにはどうしたらいいだろうか。
 1 つには、中学・高校や大学でリーダーシップを学ぶ機会をつくることである。社会人に向けた「リーダーシップ教育」を行う組織があることはインターネットで調べればわかる。しかし、私はもう少し早い段階からリーダーシップ教育を行ったほうがいいと考えている。そして、実際に大学では、リーダーシップに関するプログラムや授業を開講したり、高校生向けの講座なども展開したりしている。
 具体的には、大学では、2009 年から 2019 年にかけて、「慶應義塾創立150周年記念事業」の一環として「福澤諭吉記念文明塾」というプログラムを実施した。このプログラムは、慶應義塾の学生だけでなく、一般の社会人や他大学の学生も参加して、日本や世界の未来に貢献する人々(これを福澤は「先導者」と言っている)を育成することを目的に行われたものである。 さらに、大学での授業としては、2015 年から現在まで「リーダーシップ基礎」を開講している。これは慶應義塾のすべての学生が受講可能な授業で、文系学部の学生と医学部・理工学部などの学生が同じ場所で同じ内容で学ぶかたちの授業である。
 私が行ってきたこれらの教育は、現在でいう「多様性(ダイバーシティ)」を意識したものであり、学生たち(や社会人たち)には、その中で適切な方法で対話したり、交渉したりする力、いわば「リーダーシップ基礎力」を磨いてほしいとの思いで行ってきたものである。さらに、2022年4月には「慶應リーダーシップセンター」を創設して、リーダーシップについての研究・教育を深めるとともに、海外のリーダーシップ研究の成果なども 紹介しているので、ぜひ HP(https://keioleadershipcenter.com)を参照していただきたい。

 実は、これまで日本の教育は、知識を重視し、正しい答えを 探すという発想で行われてきた。このような教育方法を「ハードスキル重視教育」と呼ぶが、従来型の日本の教育ではリーダーシップを学ぶことは難しいかもしれない。社会に出ればすぐわかるように、「世の中には唯一の正解などない」からである。そして、リーダーシップとはより良い解決策を模索したり、解決不能と思われる問題を解決に向けたりするためのプロセスだからである。
 リーダーシップを学ぶうえで必要なことは、対話を重視した「アクティブ・ラーニング」である。教える側が一方的に講義するのではなく、学ぶ側が全員で、あるいはグループに分かれて話し合いを行いながら、さまざまな問題の解決に向けて考えることが大切である。唯一の正解などない問題への取り組みを、 学ぶ側が主体となって行うという発想で行われる教育を「ソフトスキルも重視した教育」と呼ぶ。
 多くの人がリーダーシップを学ぶために必要なもう 1 つのことは、リーダーシップについてのわかりやすい書物が存在する ことだろう。「リーダーシップ」というタイトルの書物は、汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)のごとく公刊されている。しかし、そういう中にあって、本書は大学生や高校生などの若い世代を対象にして、リーダーシップの基礎とともに最新の研究成果なども紹介してい る。その点で他の著作とは一線を画している。
 ちなみに本書は、慶應義塾大学での大学生に向けた授業「リーダーシップ基礎」をもとにつくられている。

 本書の構成は以下の通りである。
 第1章(「リーダーシップとは何か?」)では、「リーダーシップ」とは、「リーダー」が持つべき資質や能力である(「狭義のリーダーシップ」)と同時に、リーダーを含むすべての人が持つべき能力や資質であること(「広義のリーダーシップ」)を説明する。さらに、リーダーシップについての最新の研究を紹介する。 続く第2章から第6章までは、リーダーシップの4つの基礎力である「傾聴力」、「対話力」、「交渉力」、「説得力」についての解説である。
 まず第2章(「傾聴力とリーダーシップ」)では、相手の話を傾聴することが大切であること、また、傾聴するためには「質問力」と「ものごとを論理的に考える力」が重要であること、さらに「傾聴力」を生かすことによる「コーチング」がリーダーシップの基礎力として欠かせないことを解説する。
 第3章(「対話力とコミュニケーション」)では、対話はコミュニケーションの基本であり、対話力はリーダーシップの3つの 基礎力(「傾聴力」、「交渉力」、「説得力」)の基本であることを詳しく説明する。
 第4章(「対話力で集団力学を発揮する」)は、対話力の実践編である。具体的には、会議(あるいはミーティング)では、対話力を発揮することによって、より良い解決策という新しい価値創造が可能になることを「SPICE」というツールを使って説明する。SPICE とは、「状況把握・利害関係者」、「視点獲得」、「課題設定」、「創造的選択肢」、「評価・意思決定」の英語の頭文字を並べたものである。  第5章と第6章は交渉力についての実践的解説に充てられている。
 第5章(「交渉力で WIN-WIN を実現する」)は、交渉では「交渉力」を発揮することによってはじめて、双方ともに満足できる「三方よし」の結果を得ることができることを詳しく説明する。そして第6章(「交渉力とコンフリクト・マネジメント」)では、交渉で深刻な対立状況(コンフリクト)に直面したときに、どのような心構えでどのように対処したらいいかについて説明する。
 第7章(「新たなリーダーシップの時代へ」)では、リーダーシップの4つ目の基礎力である「説得力」について説明したあとで、最新の 2 つの新しいリーダーシップ論について紹介する。1 つは問題(あるいは課題)がどのようなものであるかを判別して適切に対処することを重視する「アダプティブ・リーダーシップ」であり、もう 1 つは、それに加えてステレオタイプのリーダーシップではなく自分らしさという要素が重要であることを 指摘する「オーセンティック・リーダーシップ」である。

 繰り返しになるが、リーダーシップの「4つの基礎力」の中 で、「対話力」は他の3つの基礎である。その「対話力」については、隅田浩司・東京富士大学経営学部教授との共著である『リーダーシップを鍛える「対話学」のすゝめ』(東京書籍)を読んでいただけるとよりいっそう理解が深まるはずである。

2023年2月
田村次朗

著者情報

田村次朗(タムラジロウ)
慶應義塾大学法学部教授、弁護士。1959年生まれ。1981年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1985年、ハーバード・ロースクール修士課程修了。1987年、慶應義塾大学大学院博士課程(単位取得退学)。その後、ブルッキングス研究所、アメリカ上院議員事務所客員研究員、ジョージタウン大学ロースクール兼任教授を経て、現職。ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー。ホワイト&ケース法律事務所特別顧問。
<主な著書>
『交渉の戦略』(ダイヤモンド社)、『16歳からの交渉力』(実務教育出版)、『独占禁止法』(共著、弘文堂)、『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中公新書ラクレ)、『リーダーシップを鍛える「対話学」のすゝめ』(東京書籍)ほか。

コンテンツ

はじめに 2

第1章 リーダーシップとは何か? 15

リーダーシップとは何だろうか?
[1] リーダーとリーダーシップ 18
「リーダー」という言葉の語源は「リート」/「リーダー」とは地位や立場である/リーダーとはつき従う者がいる人/狭義のリーダーシップ/狭義のリーダーシップから広義のリーダーシップへ/VUCA(ブーカ)の時代に必要なリーダーシップ/広義のリーダーシップの定義

[2] 最新のリーダーシップの研究動向 30  
人の知性や能力は一生をかけて成長する/成人の発達段階論/台頭するフォロワーと弱体化するリーダー/重要性を増すフォロワーシップ/国のトップリーダーに求められる思考とは?

第2章 傾聴力とリーダーシップ
     ―― 質問力/ロジカル・シンキング/コーチング 43

リーダーシップを発揮できる人・発揮できない人
[1] 「傾聴力」と「質問力」 45
リーダーシップに欠かせない「傾聴力」/「傾聴」と「質問」は難しいことではない/「傾聴」の3つの基本ルール……①割り込み禁止、②要約を心がけること、③反復すること/「質問」の3つの基本ルール……①『定義』を聞く、②相手の意見に興味を示す、③自分が知らないことについては、さらなる説明を求める/「閉じられた質問」と「開かれた質問」……①閉じられた質問(クローズド・クエスチョン)、②開かれた質問(オープン・クエスチョン)/どのような質問をすればいいのか/自分への質問を「内なる質問」という
[2] 傾聴力とロジカル・シンキング(Logical Thinking)………57
ロジカル・シンキングとは/「因果関係」で考える……①因果関係と相関関係、②見せかけの相関を見分けるための3つの方法 ③「交絡因子」が存在していないかどうか/演繹法で考える/帰納法で考える

[3] コーチング 66
「コーチング」で「傾聴力」を発揮する/コーチングとコンサルティングの違い/コーチングに欠かせない「ペーシング」と「質問力」

第3章 対話力とコミュニケーション 73

コミュニケーションとは
[1] コミュケーションの基本 76
「ハートランド」化したSNS/増幅する擬似コミュニケーション/すべてのコミュニケーションは自己紹介から始まる/自己紹介の仕方/論理的に話すことが重要/WILL-CAN-MUSTで考える/コミュニケーションの基本としての対話/「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」/日本もローコンテクスト社会の時代に

[2] 「対話」とは何か 90
対話についてのさまざまな定義/「三人寄れば文殊の知恵」と対話/「対話」を行う際の2つのポイント/対話の前提となる「熟慮」/「熟慮」するために必要な3つのこと/「対話」と「ブレインストーミング」/「対話」不全になるケース――パワープレイと承認欲求/「悪魔の弁護人」を使う/「対話」のある社会へ

第4章 対話力で集団力学を発揮する 107

会議・ミーティングと集団力学
[1] 会議のための基本事項 109
会議では「対話」がきわめて重要な役割を果たす/会議で重要な4つのこと/職制上の序列が持ち込まれている会議/パワープレイに気をつけよう

[2] 「対話」を最大限に活かす 114
対話による新しい価値創造のための5つの要素/ (1)状況把握・利害関係者分析(S)/(2)視点獲得能力(P) /(3)課題(I)設定と利用可能性バイアス/(4)「創造的選択肢」(C)―複数の解決策を用意……①「アンチプロブレム手法、②複数の解決策の選択肢をつくり出す際の注意事項/(5)複数の選択肢のそれぞれを評価して意思決定(E)……①熟慮・熟考し、2つ以上の選択肢を用意する、②意思決定に作用するかもしれない心理的なバイアスに気をつける、③意思決定を歪ませる思考の障害を意識する、④意思決定を精査する
*事例・事例解説「新商品エアコン開発検討会議」…132-136

第5章 交渉力でWIN-WINを実現する 137

「交渉」とは利害関係者間の話し合い
[1] 「交渉」とは何か 139
交渉ではリーダーシップ基礎力が求められる/交渉についての3つの誤解……誤解①交渉は経験が物をいう、誤解②交渉は出たとこ勝負、誤解③交渉とは勝ち負けを競うもの

[2] 交渉の事前準備 143
交渉前の準備を5つの視点で行う/(1)利害関係者(Stakeholder)の状況把握(Situation) 分析が交渉成功への道/(2)「ミッション」(Mission)を考える―合意の先の利益を考えることが重要/(3)合意できなかった場合の代替案(Alternative)を考える/(4)目標(Target)を設定する/(5) 創造的な選択肢(Option)を考える/事前準備としてのSMATOと事後分析のためのSMATO
*事例・事例解説「ダム建設をめぐる交渉」 156-159

[3] 交渉の現場での注意事項 160
留意すべき4つのこと/(1)「人」と「問題」を分離すること/(2)「立場」ではなく「利害」を考える/(3)ポジティブ・フレーミング/(4)アジェンダ(「議題」)交渉を行う

[4] 交渉の現場で陥りやすい罠に気をつけよう ……167
「衝動」的な対処ではなく、問題共有を……①二分法の罠、②アンカリングの罠、③交渉戦術の罠/「三方よし」と「賢明な合意」


第6章 交渉力とコンフリクト・マネジメント 177

コンフリクト(トラブルや対立)にどう対処するか
[1] コンフリクトとリーダーシップ 179
人間はコンフリクトにどのように反応するか/望ましいコンフリクト・マネジメントとは?/人間の核心的な欲求とコンフリクト
[2] コンフリクト・マネジメントの基礎理論 ……184
(1)コンフリクトから逃げないこと/(2)ポジティブ・フレーミングを使うこと/(3)解決を急がないこと/(4)相手に期待しないこと/(5)裏口のドアを開けておくこと/キューバ危機とケネディ大統領のコンフリクト・マネジメント

第7章 新たなリーダーシップの時代へ
      ―― 説得力とオーセンティック・リーダーシップ ……195

「ニューノーマル(新常態)」と日本の対応
[1] 説得力のリーダーシップ 197
説得とは何か/説得のための「レトリックの三原則」/バラク・オバマ氏の有名な演説
[2]説得力とリーダーシップ 203
「技術的問題」と「適応型課題」/マネジメント領域の問題とリーダーシップ領域の問題/「適応型課題」に必要なアダプティブ・リーダーシップ/オーガナイジングとアダプティブ・リーダーシップ/アダプティブ・リーダーシップ実践のためのプロセス/オーセンティック・リーダーシップの時代

おわりに 211


コラム
1 VUCAの時代の「DNA経験」 27
2 「人の発達・成長の5段階論」 34
3 米国大統領の思考レベル 41
4 「ジョハリの窓」 54
5 「コーチング」の日米比較 68
6 情報の受け手として必要な心構え 79
7 詭弁とは 83
8 システム1とシステム2 98
9 インフルエンス・ダイアグラム 122
10 オズボーンのチェックリスト 152
11 相手の価値を理解して、
相手の「利益」を探ることが重要……163
12 エスカレーション・アンド・ネゴシエーション 169
13 交渉戦術 174
14 コンフリクト・マネジメント戦略事例①
   米国と国連との対立 183
15 コンフリクト・マネジメント戦略事例②
   エジプト・イスラエル和平協定 190