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はじめてのデザイン思考 基本BOOK&実践CARDs

はじめてのデザイン思考 基本BOOK&実践CARDs

伊豆 裕一/著

ISBN:978-4-487-81519-7
定価1,980円(本体1,800円+税10%)
発売年月日:2021年08月25日
ページ数:216
判型:A5

解説:
デザインはデザイナーのものだけじゃない。

製品、システム、サービス、組織を革新する「デザイン思考」。
日本企業でも注目されるこの世界標準の課題解決手法を、
デザイン思考の黎明期から、企業・教育現場で、試行錯誤と実践を重ねてきた伊豆裕一・静岡文化芸術大学教授が、その成果をあますところなく1冊に集約し、基礎から説き起こす。
付随する実践CARDs(無料アプリ&ダウンロード及び本書の実践CARDsページにも掲載)とインストラクションweb動画付きで平易に解説。

知識ゼロからすいすいわかる。
企業セミナーやワークショップでも使える本。

『はじめてのデザイン思考 基本BOOK&実践CARDs』紹介動画

はじめに

 デザイン思考(Design Thinking)は、1990年代に、アメリカのデザイン事務所により、 デザイナーの思考方法を用いた課題解決手法として紹介され、実践されてきたものです。そこでは、「ユーザーの気持ちに共感しながらデザインを考える」、「頭に浮かんだアイディアを絵に描いて確認してみる」といった、デザイナーならではの思考方法が多く用いられます。
 近年、日本でもゲームメーカーや電機メーカーなどが積極的にデザイン思考を取り入れることで開発した、先進的な製品も多く知られるようになってきました。しかし、アメリカではデザイン思考は小学校の授業でも取り入れられるなど、日常生活における身近な課題解決に対しても、有効なツールと考えられています。

 デザイン思考には、フォーマットに沿って記述を行うことで、キーワードの関係性などをわかりやすく可視化できる手法(ツール)が多く使用され、それらの活用方法を学ぶことで、一定のレベルでの実践も可能になります。しかし、デザイン思考を理解するうえで、デザイン実務のプロセスやデザイナーがどのようにアイディアを発想するのかを理解することは大切です。
 本書は、筆者が、デザインを学ぶ大学生に向けた基礎科目として開講している「デザイン思考」の講義内容をベースに、これまでデザインにはあまり関わったことがない人達に向けた「入門書」として書き直したものです。そのため、デザイン思考のプロセスを実際のデザインワークと照らし合わせて紹介するとともに、授業で用いる実践CARDsに従って、代表的な手法を学べるようにしました。
 デザイナーの思考方法の特徴の1つとして、スケッチやモデル制作といった表現スキルを用いて、頭の中で発想したイメージを表現するプロセスがあげられます。一見難しそうですが、目的を理解することで、上手・下手といったスキルにとらわれずに活用できるようになります。

 私は、 1980年にデザイナーとして電機メーカーに入社しました。デザイナーになって、はじめて担当した商品はアメリカのシアーズ・ローバックという量販店向けの専用モデルとなるテレビでした。最近、日本の量販店でも、アジアの各国で作られた専用モデルが多く見られるようになりましたが、アメリカにおける当時の日本製品も、自社ブランドではなかなか店頭には置いてもらえない時代でした。
 しかし、やがて日米製品のブランドイメージは逆転し、アメリカの店頭から自国ブランドの商品が減っていく頃に登場したのがデザイン思考です。産業構造が製造業からサービス産業へと変化するなか、サービス産業強化のための手法としてもデザイン思考は活用されてきました。近年、日本市場でも、いつの間にか自国ブランドの製品は減少し、アジアの各国で製造された製品が多くを占めるようになりました。まさに今、日本にもデザイン思考が求められるのではないでしょうか。

 デザイン思考では、“ユーザー目線の発想”、“協力して課題を進めるチームワーク”、“ 手を動かしながら考える思考” の3点が重視されますが、これらはいずれも、日本人が得意とするものです。
 たとえば、“ユーザー目線の発想”は、相手の立場に立ってサービスを考える、おもてなしの精神に通じるものですが、デザイン思考では、観察手法、インタビュー手法、およびそれらの結果に対する分析手法をとおして、ユーザーの気持ちに共感します。
 また、“協力して課題を進めるチームワーク”も日本人が得意とするものといえます。しかし実際には、一緒にプロジェクトを進めるメンバー全員の発言が求められる場面にあっても、遠慮して発言しない人は大勢います。また、せっかく全員が意見を述べたものの、今度はお互いに気を使ってしまい、意見を収束させることができないということもあります。

 これに対して、デザイン思考では、ブレインストーミングでメンバー全員のアイディアを集めたのち、ポジショニングマップといわれる手法でそれらを分類し、関係性を可視化しながら、メンバーの立場に関係なく合理的(クール)に方向づけを行うことができます。
 一方、“手を動かしながら考える思考”は、考えたことを言葉にする以外に、簡単なイラストやモデルにすることで、確認したり、イメージを共有するために用いられます。これに関しては、物心がついた時から、日本を代表する文化となったマンガを見て育った若い人たちの表現能力は、世界的にも抜きんでているのではないでしょうか。
 これはマンガに限ったことではありません。海外で暮らしたことがある人であれば経験があると思いますが、知らない人に道を教える時、多くの日本人は紙と鉛筆があれば、ごく自然に簡単な地図を描いて教えることができます。しかし、欧米人の多くはめったに地図は描きません。××アベニューに入ったら、2つ目の××ストリートを右に曲がって、××番地といったように言葉での説明にこだわる傾向があります。

 しかし、このように絵で表現することが得意な日本人ですが、デザイン思考の研修会などを覗いてみると、多くの人は「私は絵が下手だから」と誰もスケッチを描こうとはしません。
 研修会の多くが、あまり絵は描かない講師により行われている、といったところにも問題があるのかもしれませんが、相対的に下手なものは人前で披露してはいけないといった、日本人ならではの奥ゆかしさも影響しているのかもしれません。
 しかし、私のこれまでの経験では、文字だけでなく、必ずイラストでも表現することを義務づけると、自分もまんざらではないことに気づく人も多いようです。

 ちなみに、日本でデザイン思考の研究や実践が進んでいる大学はどこだと思われますか? デザインという名前がついていることから、美術系やデザイン系の大学と考える人も多いのではないかと思います。しかし、マスコミで取り上げられる事例や学会での発表などから、東京大学、京都大学、慶應義塾大学といった名前があがってきます。
 試しにネットで、東京大学 i.schoolと検索をしてみてください。2009 年にイノベーション教育プログラムとして開始されたi-schoolでは、人間中心イノベーションとして、多くのプロジェクトが実施され、日本を代表する多くの企業がスポンサーについています。また、ホームページ内の、ARCHIVESと書かれた過去のワークショップの紹介ページを見ると、デザインコースは持たない東京大学の学生達が、一生懸命にスケッチを描きながらデザイン思考のプロセスに沿ったプログラムに参加する様子を見ることができます。

   実はアメリカでもスタンフォード大学やハーバード大学といった、トップクラスの大学で、デザイン思考教育は進んでいるともいわれます。このように、一見デザインとは関係ない総合大学がデザイン思考を取り入れる理由として、社会から求められる課題解決力の育成があげられます。
 デザイン思考のプロセスを用いることで、人々が自分でも気づかないようなニーズを課題として発見し、アイディアを可視化することで検証を繰り返しながら解決策を考えることが可能となります。そして、そのようなプロセスを、ユーザー視点の発想方法として取り入れることで、ビジネスにおけるイノベーションに繋げることが期待されています。
 アメリカで実践されてきたデザイン思考ですが、多くの日本人にとって得意とするところをさらに伸ばす一方、苦手とするところをカバーする、大変に取り組みやすい課題解決手法といえます。
まずは本書がきっかけとなり、この世界標準の課題解決手法を知っていただき、「面白そうだ!」、「やってみようか!」と感じていただければと思います。

伊豆裕一

ハンドミキサーのデザインをテーマとしたの授業のプロセス

本書(基本BOOK)の使い方

 第1~2章では、デザイン思考の背景とともに、デザイナーがデザインを行う際の思考方法について解説します。デザイン思考を実践するうえで、デザイナーの思考方法を理解することは大切です。デザイナーはなぜ消費者のことを第一に考えるのか? デザイナーはなぜスケッチを描くのか? といったことについて、事例を交えて紹介します。
 3章では、デザイン思考の基本的なプロセスと、そこで使われる代表的な18の手法を紹介します。各プロセスの目的とそこで用いられる各手法の使用方法について、それぞれ3ステップで学べるようにしました。
 4~5章では、デザイン思考の特徴となる、スケッチを始めとする表現技法と、経験のデザインに向けた手法を再度取り上げ、具体的な練習方法やフォーマットの活用方法などを説明します。よろしければ、紙と筆記具を準備してスケッチ技法にもチャレンジしてみてください。
 6章では、学生達による、デザイン思考の実践例を紹介します。
 デザイン思考の考え方や、各ツールの使い方を理解したら、日常生活での身近な課題解決や、仲間内でのイベント企画などに活用してみてはいかがでしょうか。たとえば、町内会のイベントで手作りクッキーの販売を行う時、デザイン思考を活用することで、出店計画や販売計画について、具体的なシミュレーションを行いながら計画を立てることができます。
 なお、本書ではデザイン思考で活用される手法のうち、基礎的な18の手法について、それぞれ3ステップによる活用方法を紹介しますが、以下のURLとQRコードから、カード形式にしたデータのダウンロードが可能です。また、本書の183〜209ページにも、54枚の実践CARDsを掲載しました。
 スマートフォンなどにダウンロードした画面を参照しながら、デザイン思考の各手法にチャレンジいただければと思います。

https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/downloadpage/designthinking/

デザイン思考:3つの要素

デザイン思考の流れ

実践CARDs

著者情報

伊豆裕一(いずゆういち)