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アンゲラ・メルケル

アンゲラ・メルケル
東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで

マリオン ヴァン・ランテルゲム/著 清水珠代/訳

ISBN:978-4-487-81469-5
定価1,980円(本体1,800円+税10%)
発売年月日:2021年08月30日
ページ数:312
判型:46

解説:
2021年9月、長きにわたりドイツならびにヨーロッパを導いてきた、ドイツ首相アンゲラ・メルケルがついに退任し、政界を引退する。
フランスの女性ジャーナリストが、メルケルの東ドイツでの生い立ちから、宗教的バックグラウンド、政党内での権力闘争、各国指導者との関係、移民問題、アメリカ大統領トランプとの確執、COVID-19への対応、そして、首相退陣までを描く本格評伝。
フランス大統領エマニュエル・マクロンへのインタビューも緊急掲載。

「あとがき」より

 16年に及んだドイツ連邦首相の座を明け渡そうとしているアンゲラ・メルケルの評伝というべき本書は、最初に Angela Merkel, I`ovini politique 〔アンゲラ・メルケル、政界に降り立ったUFO〕という題名で2017年にアレーヌ社から刊行された。訳者がこの本を読んだのは、2020年3月、新型コロナウイルス感染症が日本においても本格的な拡大を見せ始めた頃だった。その直前の2月末までは、在位14年を超えたメルケルはもやは精魂尽き果てたも同然、威信を保ちたいのであれば、2021年9月の連邦議会選挙を待たずに退陣すべきとまでメディアが書き立てた。
 2015年、100万人の難民を受け入れるためにメルケルが説いた連帯の必要性は、難民に関連する犯罪やテロの多発によって説得力を失った。ドイツは難民問題をめぐって分裂し、「私たちはやり遂げます」という威勢の良い掛け声とともに、難民を快く迎えるよう国民に求めたメルケルに非難が集中した。
 感染症拡大が進むにつれ、メルケルはヨーロッパの危機を感じた。長い間ドイツの首相として、重大な局面はいくらも乗り越えてきたが、この危機は彼女自身の「哲学の変化」を促すものだった。
 35歳のとき、不動と思い込んでいたベルリンの壁の崩壊を目の当たりにし、国家とイデオロギーがいともたやすく基盤を失うなか、政治の世界に足を踏み入れたメルケルは、EUも民主主義も無敵ではないと知っていた。有効な手を打たなければ、このたちの悪いウイルスがヨーロッパ連合という大切な共同体に致命的な打撃を与えるのではないかという危惧にメルケルは奮い立った。2020年3月18日、感染拡大を防ぐため、国民の結束を訴えた彼女のスピーチは世界中で反響を呼んだ。一人一人が制約を受け入れ、自由を犠牲にした連帯に与しなければならないとメルケルは説いた。こうした落ち着いたコロナ対策で、直前まで政治的にも肉体的にも力尽きたとさえ言われたメルケルの支持率は、この時期急激に回復し、存在感は高まった。
 牧師の父親を持ち、東ドイツに育ち、物理学者から政治家に転身して首相の座に上りつめたメルケルとはどういう人物なのか、その内面にまで迫ろうとしたのが本書である。旧版は2017年刊であったため鮮度がいまひとつの感があったが、幸いにも著者のマリオン・ヴァン・ランテルゲム氏は大幅に内容を一新し、題名も C'était Merkel 〔それはメルケルだった〕と改め、今春の刊行に漕ぎつけた。
 改訂版を一読して改めて感じたのは、フランス人ジャーナリストである著者の果敢な取材力である。しかも粘り強い働きかけが実り、ここ数年で人脈はさらに広がったらしい。旧版では、首相官邸の式典行事に潜り込み、メルケルとほんの5分間話ができたというだけで、ミーハー少女が大スターに会えたかのようなのぼせ方をした彼女が、今やメルケルの内輪の夕食会に招かれ、この4月にはパリの大統領官邸でマクロンに単独インタビューを行っているのだ。本書の魅力は、何より彼女の旺盛な好奇心が引き出した、アンゲラ・メルケルをめぐる人々の肉声が新鮮な形で集められていることだと訳者は思う。
(後略)

2021年7月 清水珠代

著者情報

マリオン ヴァン・ランテルゲム(マリオン ヴァン・ランテルゲム)