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もう、あばれない、かみつかない、さけばない

もう、あばれない、かみつかない、さけばない
発達障害がある人たちのストレスを和らげ行動を改善するガイドブック

ボー・ヘイルスコフ・エルヴェン/著 宮本信也/監修 テーラー幸恵/訳

ISBN:978-4-487-81360-5
定価2,420円(本体2,200円+税10%)
発売年月日:2021年02月22日
ページ数:272
判型:並製/A5

解説:
発達障害がある人たちのストレスを和らげ、そして彼らをサポートする家族、支援スタッフなど、かかわる人すべてをより良い方向に導き、QOL(生活の質)を向上させる珠玉の書! 困難な状況の見直し方と共に、拘束や罰に頼らず望ましい反応を引き出す、効果的で取り組みやすい方法を紹介。それらはきっと、適切な対応と虐待防止にもつながる。

はじめに

挑戦的行動とは、殴る、かみつく、蹴る、さけぶなどの特定の行動 を指すことが多いのですが、他にも支援スタッフや親を非常に不快にさせるさまざまな行動が含まれます。これらの行動をどう変えるかという書籍は、主に認知行動療法に関連するものが多く出ています。しかし、本書の趣旨は異なります。あなたが今読み始めたこの本は、発達障害のある人の日常生活を改善させるために、挑戦的行動をどう理解し、どう管理していくかを記したものです。
発達障害のある子の親御さんは、よくこう言います。「最初は自分の親と同じやり方で育児やしつけをしてきたけれど、次第にそれが通用しないとわかりました」。それでも、ほとんどの親御さんは、さらにがんばってそのやり方を続けます。そして多くの場合、とうとう、これでは本当にどうにもならないと気づき、そこで初めて「もしかすると、この子はどこかおかしいのではないか」と思います。その後、 児童精神科医や学校の心理カウンセラー、かかりつけの医師に相談を します。そこで診断につながることもあります。
診断はしばしば転機となります。問題は育て方ではなく、子どもにあるのではないかという親の疑惑は確定します。ところが困ったことに、医師や心理士は診断をするだけで、子どもにどう接したらよいのかという手引きは渡してくれません。その結果、多くの親御さんは診断前とまったく同じやり方を続けます。言うまでもなく、それで問題は解決しません。親が何を勧めても、子どもは「いやだ!」と言い張ります。相変わらず、喧嘩腰になり、噛みつき、おもちゃを投げて、叫びます。子どもの行動の理由がやっとわかったという親の安堵感は間もなく消え去り、戻ってくるのは無力感です。
本書は、子どもの問題行動について「育て方が悪いのか、それともこの子には何かあるのか」と悩む親御さんのための手引きです。そして、発達障害のある人たちの支援スタッフにも役立つものです。従来の子育てのやり方は通用しないとわかっていても、他の方法を学んだ人はほとんどいないという点は親にもスタッフにも共通しています。そのため、本書では理論一辺倒ではなく、望ましい行動を促し、挑戦的な行動を管理する実践的な手法を記すことにしました。相手が納得できる方法と共に、せめぎ合いを避ける方法も紹介しています。いずれも目的は、読者の皆さんが親として、また支援スタッフとして自信と成功を感じられるようになること、そして、これが何よりも大切ですが、発達障害のある人に豊かな人生の可能性をもたらすことです。
自閉症、注意欠如多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群、トゥレット症候群といった神経発達障害がある子どもの親御さんや支援スタッフが経験している困難をまだよく知らない方には、それを理解し、心を寄せやすくなる内容になっています。本書で述べる考え方は、ダウン症や知的障害のある人たちへの対応にも適用できます。もちろん、それぞれの症状はまったく違うように見えるので、同じ考え方が使えると言うと、大風呂敷を広げたように思われるかもしれません。しかし、関連する行動障害は非常に似ていることが多いのです。
本書では、子どもに限らず、上記の診断を受けたすべての人の挑戦的行動にどう対応するかを述べています。対象は親だけではありません。施設、リハビリテーションの場、学校で仕事をしている人たち、さらにある程度までは、精神科分野で仕事をしている人たちも含まれます。
以上を踏まえて、本書では、支援を必要とする人を「サービス・ユーザ(サービス利用者)」と呼ぶことにしました。状況によって、子ども、児童生徒、クライアント(相談者)、患者、参加者、住民を意味します。本書では、対象者の年齢やその人との関係を特定しない呼び方を重視しています。「サービス・ユーザ」は、特別な教育支援を提供されているすべての人を指します。もちろん、家族のいる前でADHD の子を「サービス・ユーザ」と呼ぶのは適切ではないでしょう。それは承知していますが「サービス・ユーザ」という用語は、クライアントとか生徒という呼び名よりも、広い範囲の人を意味し、努力を注ぐべき対象は誰かということを明らかにしてくれます。支援スタッフはサービス・ユーザのためにいるのであって、その逆ではないのです。
この本は心理学の教科書や学術論文として書かれたものではありません。そのため、参考文献や科学的論点に関してはほとんど触れていません。研究に言及したときには、わかりやすいように注釈をつけました。私は臨床家であり、実際に挑戦的行動のある人たちにかかわっています。それが本書の特徴となっています。理論や参考にできる調査研究は現場でもケースに応じて使っています。心理学的かつ哲学的理論に準じた人間観が私の仕事の土台です。必要だと思われる箇所では、理論の説明を加えました。
本書で紹介する手法は複雑で、状況とサービス・ユーザに合わせた調整が要求されます。そのため、効果の有無は一概に測ることはできません。例えば、アスペルガー症候群の人と、知的障害のある自閉症の人は、どちらも自閉スペクトラム症(ASD)ですが、両者の状態像は大きく異なります。アスペルガーの人はエンジニアとして働いているかもしれません。もう一方の人は、話し言葉がなく、介護付きのグループホームで生活指導を受けているかもしれません。これから述べていく方法は理論を背景にしつつ、実際の経験と裏付けを基盤としています。もともとはイギリスで開発された方法で、特にアンディ・マクダネルがまとめたものです(Andy McDonnell 2010)。
本書は理論、研究、実例で構成されています。実例は、ほぼすべて私の臨床記録に基づいており、実在の人たちと彼らの生活上の問題や困難を取り上げています。名前は、本人の許可を得た人以外、特定できないように変えました。
第1章では、挑戦的行動の主な特性と、基本的な人間観を解説します。第2章では、挑戦的行動への対応に関して、親御さんや支援スタッフの中に時折見られる先入観や、発達障害のある人と生活を共にする際の行動指針にまつわる誤解を検証します。第3章では、挑戦的行動を管理するための方法として、要求の調整を提案します。第4章では挑戦的行動の原因に触れ、心理学の視点からストレスを考察し、どうすれば挑戦的行動の発生を避けられるかを述べていきます。第5章では、せめぎ合いが起きたときの対処の仕方と状況を落ち着かせる方法として、情動のコントロールと、注意の転換を挙げます。最後に本書のまとめと将来への希望を第6章に記しました。
本書で述べた考え方はすべてが私のアイデアではありません。セーレン・キルケゴールを始め、アーロン・アントノフスキー、アンディ・マクダネル、ロス・W・グリーンなどによるものも含まれています。第4章のストレスモデルは、トリーネ・ウースコフと共同開発しました。同僚の研究者たちとの議論では、さまざまな考えが生まれました。中でも、ハンネ・ヴァイの具体的なアプローチと鮮やかな知性は特別に大きな助けとなりました。本書で挙げた考え方と手法は、もちろんすべて実証済みです。複数の同僚が、そして、私が何年にもわたってアドバイスをしてきた関係者が実施し、結果を分かち合っています。さまざまな困難のある人たちのために、そして、彼らの生活を改善するために働いている皆さんに、私は多大な恩義を感じています。本当にありがとう。
また、執筆を励ましてくれたオーサ・ニルソン、原稿を読んで意見を聞かせてくれたソフィー・ダウ、リーフ・グリフェルド、トード・ヤフステン、そして、文章表現の面でかけがえのない力となってくれたテレサ・エルヴンにも謝意を表します。

著者情報

テーラー幸恵(てーらーゆきえ)
北海道に生まれる。フリーライターを経て、現在は翻訳に携わる。
主な訳書に、『レット症候群ハンドブック』(監共訳 2002 年)、『レット症候群ハンドブッ クII』(監共訳 2013年)(2点とも 日本レット症候群協会)、『アスペルガー症候群への支援:小 学校編』(2005 年)、『アスペルガー症候群への支援:思春期編』(2006 年)、『アプローチ &メソッド 世界の言語教授・指導法』(共訳2007年)、『自閉症の子どもの指導法- 子どもに適した教育のためのガイド』(2008年)、『眼を見なさい! アスペルガーとともに 生きる』(2009 年)、『自閉症スペクトラムの少女が大人になるまで』(2010 年)、『アスペル ガーの男性が女性について知っておきたいこと』(2013 年)、『自閉症スペクトラムへの ABA 入門 親と教師のためのガイド』(2015 年)(以上いずれも東京書籍)などがある。

著者情報

宮本信也(みやもと しんや)
青森県弘前市に生まれる。金沢大学医学部卒業。白百合女子大学副学長・人間総合 学部発達心理学科教授、小児科医、医学博士。
自治医科大学小児科入局、同助手、 講師を経て、筑波大学心身障害学系助教授、教授、附属聴覚特別支援学校校長、附 属特別支援教育研究センター長、副学長、白百合女子大学人間総合学部発達心理学 科学科長を経て、2020 年 4 月より現職。専門は、発達行動小児科学。発達障害の特性や支援についての臨床研究活動を展開。主な著書に『LD 学習症(学習障害)の本』 (2017 年 主婦の友社)、『学習障害の子どもを支援する』(2019 年 日本評論社)、『LD の 医学的診断の現在』(日本LD学会監修:LDの定義を再考する)(2019年 金子書房)、 『愛着障害とは何か』(2020 年 エンパワメント研究所)ほか多数。共著に『十人十色なカ エルの子』(弊社刊)など。

コンテンツ

はじめに

第 1章 挑戦的行動:定義と理論
1. 挑戦的行動とは?
2. それは危険な行動か、それとも単に対処が難しい行動なのか
3. 他の人のせいにする
4. 理論と治療法の歴史
5. 新たな見解
6. 概念の背景
まとめ

第2章 概念と誤解
1. セルフコントロールの重要性
2. 行動を変える方法
3. 結果思考とスケジュール
4. 行動の原因という概念
まとめ

第3章 要求の調整
1. 要求の調整方法
2. 要求に答える能力
まとめ

第4章 ストレス因子:パニックになる理由とその図式
1. ストレスの影響
2. 基本ストレス因子
3. 場面ストレス因子
4. カオス(混乱状態・パニック)の兆候
5. 混乱状態(カオス)になったときのサイン
6. 防御因子あるいは落ち着かせる因子
まとめ

第5章 対立が起きたとき:うろたえない
1. 情動・感情の伝染理論
2. 低刺激アプローチ
3. 注意をそらす
4. 衝突か介入か
5. 衝突したがるサービス・ユーザ
まとめ

第6章 未来を見つめて
1. 基本原則
2. 過去は後ろにやりましょう

訳者あとがき
参考文献
索引
著者・監修者・訳者略歴