著作権ハンドブック
先生、勝手にコピーしちゃダメ
ISBN:978-4-487-81338-4
定価1,760円(本体1,600円+税10%)
発売年月日:2021年08月31日
ページ数:200
判型:A5判
著作権を制するものは、授業を制す。
改正著作権法第35条 完全対応
・保護者会でコピーしていいの?
・生徒の端末に送信していいの?
・著作権はどうしたらもらえるの?
公衆送信?
SARTRAS?
基本用語から具体的事例までQ&Aで解説
はじめに
本書は、学校の先生方や事務職の人のために、現場で混乱しがちな「著作権ルール」について平易に早わかりできることを目指しました。学校の児童や生徒、保護者が手に取ることも視野に入れました。
「スマホ脳」が取りざたされる時代、小学生がごく普通に動画や写真を発信しています。うっかりすると、誰だって他人の著作権を侵害してしまいそうです。コンテンツを作る人の権利である著作権は今や、誰もが知るべきルールとなりました。特に教育現場における、著作権のあり方については多くの人が基礎知識をもつ必要が出てきました。実際に、2017(平成29)年・2018(平成30)年改訂の学習指導要領では、教科での指導事項として著作権を学ぶようになり、今まで以上に著作権にスポットライトが当てられています。
もともと、教育現場では、先生も児童も生徒も、著作権のことをあまり気にせずに、コンテンツを自由に使える仕組みがあります(著作権法の第35条の規定です)。ところがコロナ禍の影響で、オンライン授業が一般的になりました。初めてのオンライン授業で、先生方の間で「あの動画使って良いのだろうか」「生徒はウェブやSNSから取った動画や写真を送ってきたが、著作権侵害にならないだろうか」などといった心配ごとが増えました。
本書は、このような不安や心配を軽減するために、複雑な著作権法について2つの工夫をして、平明な解説を試みました。
第1に、実践的に使えるように、Q&Aの一問一答形式で、早わかりできるようにしました。
第2に、専門用語を日常の言葉に置き換えるように努力しました。今や小学生がスマホを使う時代になったのですから、児童でも理解できるような言葉づかいが欲しいところです。本書はその試みとして、法律用語を日常的な言い回しで表すように心がけました。たとえば、著作物という言い方をあえて「コンテンツ」に置き換えています。両者は厳密には異なりますが、あえて日常語を優先しました。他に、「許諾」という言葉に替えて、「許可」に言い換えています。
私は行政書士として、著作権について小学校で授業を行うことがあります。小学生の高学年ともなれば、「著作権」という言葉を知っていますが、何を、どう伝えたらよいのかいつも悩みます。本書の執筆中も、常に小学生のことを意識していました。
GIGAスクール構想で、1人に1台のタブレットやパソコンが配備され、学校のデジタル学習の環境が整備されつつあります。教育に携わる人たちにもコンテンツに関する著作権の知識が不可欠です。児童や生徒たちが著作権を学ぶ前に、まずは大人が、著作権の基本を知る必要があります。「教育だからなんでもタダで自由」という意識から、「教材は必ず作った人がいる。作った人の権利を大切にしよう」という意識への転換が必要です。まさに、「著作権を制するものが授業を制する」のです。
本書は、東京理科大学の宮武久佳先生と東京書籍の編集者との話し合いの中で生まれました。宮武先生にお声掛けをいただき、こうした共同作業に参加する機会を得ることができました。この場を借りて改めて御礼を申し上げたいと思います。
本書が多くの教育現場にいる人の一助になればうれしいです。
大塚 大
おわりに
駅前のスクランブル交差点―――。
多くの人が行き交うのにトラブルは起きません。「赤信号で止まる」「青で進む」というルールが小さな子どものころから徹底されているか
らです。
スポーツ競技のサッカーはどうでしょうか。皆さんはルールブックを見なくても「11人で」「キーパー以外は手でボールに触らない」を知っていますよね。では「オフサイド」のルールはどうでしょう? 教わらないと分かりません。
著作権はこれに似ていると思います。
「他人が作ったコンテンツを無断で使い回してはいけない」が、著作権の基本です。多くの人が知っています。
ところが、「著作物とは何か」「演奏権とは何か」「無断コピーして良い場合とは」になると、著作権はたちまち、やっかいなものにみえてしまいます。サッカーの「オフサイド」を言葉で説明されてもピンとこないのと同じです。
著作権の基本的な考え方を知り、「やって良いこととダメなこと」「自由に使える場面」「補償金のメカニズム」などを学べば、複雑に見える著作権ルールも筋が通った存在に見えるかもしれません。
このハンドブックは、教育現場での先生や子どもたちの混乱を少しでも取り除くことを目的に作られました。
学校や校外学習、自宅学習の場で起こりそうな場面を想定し、なるべく「Yes」「No」を言い切るよう心がけました。同時に、専門用語を日常語に置き換えるように努力をしました。
私は10年ほど前まで、四半世紀にわたり共同通信社の記者をしていました。ジャーナリストは現場で見たり聞いたり、感じたりしたことを、読者に伝えるのが仕事です。
記者の悩みはいつも、言葉の選び方にあります。「分かりやすさ」と「厳密さ」を両立させることは難しい。「断定していいか」「誤解を生まないか」。最後まで気になります。
本ハンドブックの執筆で、この悩みを私は、共著者の大塚大さんと共有しました。幸い、著作権を専門にする大塚さんは行政書士として日常語と専門用語とを往復しています。安心して一緒に仕事をすることができました。【中略】
新型コロナ感染拡大の中、全国でオンライン授業が一般的になり、教育現場でのコンテンツの、より自由な運用を認めた「著作権法35条の改正」が施行されました。各学校で、子どもに電子タブレットやパソコンを1人1台配備する時代の流れに沿うためです。
もっとも、スマホ時代だからこそ「もっと『紙の』書籍に注目しよう」「教室の黒板こそが教育の原点だ」という声も根強くあります。
現実には、人工知能の急進もあり、著作権の世界にも新たな混乱が出始めています。情報技術はいつもコンテンツに関わる著作権の制度を揺さぶります。
未来の著作権のあり方について、若い人、とりわけオンライン授業で育つ子どもたちが知恵を出してほしいのです。本書がそのためのきっかけになればと願います。
宮武久佳