中学校 EduTown SDGs 2年
茨城県茨城大学教育学部附属中学校
■茨城大学教育学部附属中学校 先生インタビュー1(2024年3月19日)
2024年2月28日に茨城大学教育学部附属中学校を訪問し、東京書籍株式会社のWebサイト「EduTown SDGs」と「SDGsスタートブック」を活用した2年4組のグローバル市民科(「総合的な学習の時間」に相当)の授業を参観させていただいた後、授業者である奥谷大樹 先生と茨城大学教育学部 附属学校園 統括長である毛利靖 先生インタビューをさせていただきました。
Q 今日の授業のめあてやねらいについて教えて下さい。
今日の授業は、この1年間のWebサイト「EduTown SDGs」と「SDGsスタートブック」を使って行ったグローバル市民科の学びをふりかえって、来年度どういったスタートを切れるか、そのための準備の授業として設計しました。
ねらいとして、グローバル市民科で生徒たちが学んできたこと、他の教科で学んできたこと、日常生活で見知ったことをふりかえって、来年度どういったテーマで探究を進めていきたいか、その種を自分でまければいいなと思いました。
17個あるSDGsの目標に、生徒たちがまんべんなく取り組んではいるわけではありません。クラス内で自分たちがやった取り組みを紹介し合うなかで、どういう問題があるか、どういう取り組みがあるかが知れればいいと思いました。また、自分で気づけなかった目標については、SDGsスタートブックを使って気づいてほしいと思いました。
授業の最後で、生徒たちにどういったことを探究したいのか、それがSDGsの17個ある目標のどれに関連しているのかを発表してもらいましたが、自分で夏休みに実践してみた目標とは違う目標を選んでいる生徒が多かったなと思っています。それは今日の授業で、自分が目を向けてこられなかった課題に、改めて気づけたということかなと思います。
Q SDGsを授業で扱ううえで、難しいと感じる点や課題などあれば教えて下さい。
クラスによっても違いますが、身近なSDGsに取り組もうとするときに偏りが出てしまいます。重すぎるテーマはあまり選ばれません。生徒たちに「自分ごと」だと捉えてもらうことが課題だと思います。私の担当教科である社会科だと、自分と離れたものに対して真剣に考えられるか、というのは大事だと思っています。
「アクションを起こしづらい」という生徒の声については、十分に理解できていない部分があったかもしれないな、と思います。日本国内でこの問題に直面しているというリアリティがあまりないかもしれません。それはこちら側から何か教材化して提示しないと、選ばれない目標は生徒たちから遠いままになってしまいます。
生徒たちからの「取り組み方がわからない」「取り組むイメージがわかない」という声は、中学生の目線から見るとあると思います。そこで「自分がどんなことができるのか」「どんなことをやっている人がいるのか」を考えられるように、SDGsの目標と自分自身をつなぐ回路を我々が作らなければならないし、生徒たちも自分で作れるように支援や教材開発をしていく必要があると思いました。
茨城大学教育学部附属中学校では、「総合的な学習の時間」を「グローバル市民科」として教科開発研究に取り組んでいます。何でも組み合わせられるからこそ難しい。どれを探究したいと生徒が言うかわからないので、蓋を開けてみないとわからない。そういう状況に我々教員がどう対応していくのかが求められていると思っています。教える側がいろいろレールを敷きすぎてしまっている感があったので、先生方には「あまり準備をしないでほしい」「生徒たちに失敗させてください」というのをテーマとして伝えています。でも、生徒たちは失敗したがらないし、大人も失敗させたがらないし、そこは難しいですね。
Q SDGsスタートブックをどのように使っていますか?
SDGsスタートブックは、「どういった問題があるのか」「どういった活動がされているのか」に触れる、SDGsへの入口として使いました。「調べたいな」と思ったことを調べる辞書的な使い方をしています。17の目標を1つずつ丁寧にやっていたら時間が足りなくなってしまうけれど、丁寧にやりたいと思わせるコンテンツです。今回の授業で生徒たちは、ふりかえりながらあらためて読むことで原点回帰もできたし、1年間学んできたからこそ新たな気づきを得られたと思います。
SDGsスタートブックは、「目標解説編」で各目標につき1ページでこういう問題があるのだということを説明してくれているのがわかりやすいです。QRコードでEduTown SDGsのWebサイトへ行けるのもいいです。
企業の取り組みを紹介している「事例編」も、1つの目標についてこれをやっています、というのではなくて、いくつかの目標に該当する取り組みをやっています、という事例が載っているので、自分が何か実践するときに、目標1つに絞ってやるのではなく、この目標にもこの目標にも関係する取り組みがあるんだな、という気づきがあると思います。
また、スタートブックには入口で得た情報を自分の中で整理するときに使うツールとして「SDGsワークシート」も入っています。SDGsワークシートを使って、自分がどんな問題意識をもっているかを考える活動もしました。茨城大学の先生の講話を混ぜたりしながら、自分が地球市民として何ができるかを考えてもらいました。
Q SDGsスタートブックとWebサイト「EduTown SDGs」の使い分けは?
Webサイト「EduTown SDGs」の良いところは、動画が載っているので視覚的にわかりやすいところです。ただ、生徒たちがじっくり読むのはSDGsスタートブックかな、という印象があります。インターネットで調べ物をするとほしいものをザッピングして取りに行ってしまいがちなので、情報にしっかり触れてほしいときには、SDGsスタートブックの方が使いやすいかと思いました。
自分が深く知りたい、追究したいというときには、Webサイトでどんなに文章が長くても1行1行読むと思います。でも興味があるものを探そうというときに、何回もスクロールもして読まなければいけないのは、生徒たちには大変かもしれません。スワイプ一つで情報を切り替えていく世代なので、そういう感覚がタブレットの画面を通したときに生徒たちに生まれたりするのかも知れないなと思います。
SDGsスタートブックでは情報が1ページにまとめられている分、生徒たちが扱いやすい文量・難易度になっているように思います。
最初に何もないところから情報を取りに行くときには、ある程度まとまった短い文章がある方が、入口のハードルが下がると思います。膨大な情報を目にしてしまうと、それをどこに位置づけるか整理するのが難しい生徒もいます。簡潔にまとまった文章に最初に出会って、そこから生徒によってはQRコードでEduTown SDGsのWebサイトを見たり、参考文献を図書室で借りたり…というふうに学びが多様になっていくといいと思います。
他にも入口としている教材として、いちばん大きいと思っているのは、当事者である人に来てもらって話してもらうことです。そうした時間、社会との接点をもちたいなと思っていて、本校では大事に進めていっているところです。
本校にはスクールボランティア制度があって、登録しているOB・OGの方や保護者の方にお願いすると、その人材を見つけてきてくれる仕組みがあります。先生によっては、スクールボランティアの方に「こういう人材いませんか」と訊いたりしています。できれば生徒たちから、「こういう人と話したい」「こういう人から話を聴きたい」という声が出てきてほしいし、出てこないといけないと思っています。
ジェンダー関係の団体の方を教室に呼んだクラスもありました。実際に活動をされている方から、「中学生の皆さんにこういうことをしてほしい」という声を聞くこともできました。アクションに繋げられなかった目標については、社会との繋がりについて学校がデザインしていかなくてはいけないと思いました。
Q EduTown SDGs(スタートブック)の内容の難しさや分量は、中学生にとって適切ですか?
スタートブックの文量はこれでOKだと思います。ワークシートの部分で、気になるSDGsを考えられるようになっていますが、その先にどうやって接続するかを考える学校、先生が多いと思うんです。だから、自分が問題意識を持っているSDGsの目標について知って取り組みを考えてみましょう、友達の意見を聞いてみましょう、という活動の先にもう一歩行くためのワークシートや指針があると助かる、という先生はいらっしゃるかもしれないですね。ワークシートはSDGsスタートブックだけでなくて、EduTown SDGsのWebサイトの方でPDFで公開されていてもいいかもしれないですね。
Q より扱いやすくするためのご意見やご要望等あれば教えて下さい。
SDGsの17の目標を媒介にして、生徒と社会、生徒と人が繋がることが大事なのかなと私は思っているので、この目標についてはこういう人に話を聴いてみるといいですよね、というリストがあると、「この人に話を聴いてみたい」「この団体の人と話をしてみたい」というような会話も生まれるかもしれないと思います。事例の企業は大企業が多い印象なので、そういったところ以外の、NPOなどの人と人が繋がるようなヒントになるようなページがあると助かるかもしれないと思いました。
自分がイメージしやすい問題もあれば、「これって実際に何が問題なの?」「日本では何が問題なの?」「日本の人はそれに対して何をしているの?」というのが見えにくい問題もあります。でも、そうした問題も地球上にはあって、自分たちも関わっている。そのことにリアルな解像度で気づくためには、誰かの本当の話、オーセンティックな資料としての当事者の話が聴けたりするのがすごく説得力があるのかなと思いますし、その方々から、「実は中学生にこういうことをしてほしいんだ」というのが出てくるといいと思います。
EduTown SDGsを使っている学校をオンライン上で繋いで、学校の枠を超えて意見を共有することもできたらおもしろいと思います。教室の中では1人しかこの目標に興味をもっていないけど、水戸市内だったら、茨城県内だったら、同じことを考えている中学生がいるかもしれません。
中学生ってここに関心があるんだな、という傾向もわかると思うし、逆に、自分たちが関心をもてていないのはなんでなんだろう?という切り口から、もっと知る必要があるなと広げていくこともできます。どうしてこの地域はこれに関心を持っているんだろう、というのもわかることで、新しい探究の入口になるかもしれないなと思います。
本校には水戸市外から通学している生徒もいます。海が観光資源になっている、大洗町から通っている生徒もいます。その生徒が話す「海を守ろう」という言葉の切実さやリアリティは、水戸市内に住む人とは違う文脈、違う言葉を生むのかな、と思います。さまざまな地域から生徒が通ってくる附属中学校ならではの地域性がビッグデータ的に可視化されるのも大事かもしれないなと思いました。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです