(協賛企画/東京書籍(株))
■湯浅町立湯浅中学校の防災教育・活動
毎年、1年生全員で総合的な学習を通じて実施している同校の防災教育・活動は、①湯浅町のことや過去の災害について知る②知識を身につけてから災害の初期対応、炊き出し、メンタルケアなどの体験活動を行う③学習活動を町内に伝え地域に貢献する——。これら3点を柱としている。
今回、実践している内容は、生徒と教師が対話を重ね選定した一時避難場所までのルートがわかるスライド式動画、標高図、今まで学習した防災レポートを作成し、それらの情報をARアプリケーション「マチアルキ」(東京書籍(株))を使いAR化する。加えて湯浅町の公共施設、観光地区、商店など14地区に、それらの情報が読み取れるARマーカーを表字した避難ポスターを作成、掲示し、町民だけでなく土地勘のない人にも周知してもらうことをねらいとしている。
この日の授業は、それぞれの役割に応じて、標高図班、防災レポート作成班、動画撮影編集班に分かれて行われた。校内にはiPadとタブレット端末がそれぞれ40台、学習者用PCはPC教室に40台、実物投影機は全クラスに用意され有効に活用されている。そのような中、動画撮影編集班では、ARマーカーの作成と実際の避難ルートがわかるスライド式動画作成の予行演習が行われた。
ARマーカーを読み取る
ARマーカーを作成する
ARマーカーの作成では教師が作成した見本を提示。ARコンテンツには今までの学習の振り返り情報をまとめたスライド式動画を入れておき、実際にARマーカーを生徒がiPadで読み取り、今までの学習を振り返りながらARを読み取ることを体感した。ARマーカー作成の留意点を説明した後、生徒は2人一組でパワーポイントを使い、避難ポスターが掲示される地点の特徴を考えながら、ARマーカーのデザインと作成に取り組んだ。
スライド式動画作成の予行演習では、教師が作成した見本を提示した上で、①ルートがわかるよう10メートル間隔で撮影する②どの箇所も同じ目線で撮影する③人が映らないように撮影するなどの留意点を説明。生徒は教室から別の教室までのルートを避難ルートに見立て、iPadで画像を撮影し、スライド式動画を作成した。作成した動画の発表では、わかりやすく伝えるための方策(コメントの入れ方や目印の見せ方など)を議論し改善点を考察した。
指導にあたった学年主任の丸谷健太教諭は、ARアプリケーションを学習活動に取り入れる有効性について、「『課題の設定』→『情報の収集』→『整理・分析』→『まとめ・表現』といったプロセスを踏んだ上で、子供たちが取り組んだことを情報発信していくには、人間ができることとICTができることを結びつけるツールが必要だと思う。そのような意味で、ARアプリケーションの活用は有効だと思う。この活動以外でも数学や理科の授業でも活用している」とその効果を指摘する。
最後に丸谷教諭は「湯浅町では、生徒が『地域の小さな大人』として育ってほしいという思いがある。それは、生徒が自主的に当事者意識をもって地域に参加できるようになってもらうことだ。1年生全員で防災教育・活動を実施する中で、地域の学校としてのあり方について思うことがある。それは、学校が今まで学習した成果を学校の中だけに留めておくのではなく、町内に伝える役割があるということで、学習をやってきた意義だと思う」と熱く語った。
標高図を作成する
防災レポートを作成する
■楠義隆 和歌山県湯浅町副町長(前教育長)
次代を担う中学生には、災害時に助けられる存在ではなく、逆に、助けることができる存在になってほしいと考えています。湯浅町では、「中学生は小さな『大人』」ととらえ、普段から積極的に行動し、地域に貢献できるような人材の育成を目指しています。そのため、学んだことは、自分たちで振り返りながら整理・記録・蓄積などの過程を通して深めています。さらに、蓄積したデータを町民に発信できるようにARコンテンツを作成していきます。
今後は町内の看板、商店等の店先、案内マップ、避難所備蓄庫などにARマーカーの掲載を依頼し、町内の至るところで、必要に応じ、スマホやタブレットをかざすだけで関連する説明や動画を取り出せるように整備していきます。
中学生が当事者意識をもって、ARコンテンツの作成を通して、町民の安全や町の財産を守ることについて考えていくとともに、10年後、20年後の町を担う子供たちが、これからの時代を十分生き抜くために、町としても、さらに有効な施策を講じていきたいと考えています。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです