■動かし、重ねあわせ図形に対する感覚を養う
同校では2018年度から、算数で指導者用デジタル教科書・教材の活用を開始、試行錯誤しながらも効果的な実践の算数の授業を見学させてもらった。
単元は「拡大図と縮図」。東京書籍(株)の指導者用デジタル教科書・教材(以下デジタル教科書・教材)を活用し、大久保紀一朗教諭が指導した。
単元の狙いは、「拡大図や縮図の観察や書くことを通して、それぞれの意味や性質について理解し図形の理解を深め、図形に対する感覚を豊かにする」こと。
まず、身近な事例から授業の単元を児童に理解してもらうため、縦寸や横寸の比率、大きさを変えた修学旅行での同じ記念写真を映し出し、「形は同じだけど大きさが違う」ということの意識付けからスタートした。次いで、大きさの異なる三角定規の画像を映し出し、それぞれを動かして重ね合わせ、「形は同じだけど大きさが違う」という事例を視覚化して見せた。
角度と辺の長さを記入し比較
次は、図形の観察と比較。教科書とデジタル教科書・教材に示されている方眼を用いて作った数例の図形を示し、この中で「形は同じだけど大きさが違う図形」を児童に観察させた上で選別させていく。
デジタル教科書・教材上の図形を映し出し、大きさの異なる図形を、動かし、重ね合わせながら予測をたてる。「形は同じだけど大きさが違う図形」と予測した図形の角度を分度器で、辺を定規で児童たちに測らせ、図形に数字を書き込んでいく。その結果、それらの図形が「対応する角度が同じである」「対応する辺の長さの比が等しい」ことが確認できた。そこで、「拡大図」と「縮図」について説明し、その意味と性質を理解させたのである。
■視覚化と動きで重要ポイントを共通理解
授業後、大久保教諭にデジタル教科書・教材の有用性について聞いた。
「『視覚化できること』『動きがあること』が大きな利点。『動き』があることは、子供たちに刺激を与え、集中力を高められる。図形の認知が苦手な児童にとっては、視覚的な支援が大きな手助けになっている。視覚化により、図形の学習ではどこが重要なポイントなのか共通理解を得られた状態で学習が始められる」と分析する。
その上で、「デジタル教科書・教材には多様な機能がある。その機能を把握した上で、活用シーンをイメージし教材準備をすることが有効である」と活用上の留意点を指摘した。
図形を動かし重ね合わせる
今後の展開については、「デジタルの活用で、多くの情報を素早く処理して、多様な視点を獲得するような授業を実践して行きたい。単純に『デジタルが導入されれば全てよし』ではない。デジタルを活用する上で土台となる『情報活用能力』が教師にも児童にもしっかりと身に付いていることが重要である」と述べた。
■ICTの効果が発揮されるのは授業づくりありき
大島悟 校長
大島校長はICT導入の効果について「ICT活用は思考の可視化、子供の学習の動機付けに最適である。授業にICTを融合すると、従来よりもずっと優れた授業が実践でき、子供の思考の深化を促すのに大きな効果が期待できる。プレゼンテーションやリーフレットの作成など目的や相手意識を持たせた取り組みも多くなり、授業の可能性が広がっている。また、児童が使えるICT機器が増えたことで、機器の起動、終了、撮影、入力、検索といった基本的な技能を習得しやすくなった」と語る。
だが、その基本となる「授業づくり」の重要性も忘れない。
「ICTの有る無しに関わらず、基本は『授業づくり(授業がきちんとできること)』である。ICTは魔法みたいなものではない。基本がきちんとしているからこそ、ICTの活用で授業が優れたものになる。基本の『授業づくり』を念頭に、授業の実態や学習状況に応じた、ICTも含めたツールの使い分けがポイント。教師の情報活用能力が試されていると言える」とICTの授業活用における原則を示した。
今後は、情報モラル、情報活用能力を含めた系統的なICTカリキュラムを編成していく予定だという。実践のさらなる充実に期待したい。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです