■試行錯誤して思考を深める
3年生9人が集まった教室で,生徒らは学習者用デジタル教材(東京書籍(株))を起動させた。タブレットパソコンは1人1台。野村教諭と電子黒板を囲むように,扇形に机が並ぶ。同教諭は,授業内容に合わせて席の配置を変えている。
授業は数学で,「四角形の各辺の中点を結んでできる四角形について,デジタル教材を用いて頂点を自ら動かし,複数の場合を考える活動を通して,ひし形になる条件について考える」のが狙い。
同教諭はまず,前時に学んだ中点連結定理を想起させた後,「図形を動かすデジタル教科書の機能を使い,頂点を動かして,『この条件では必ずひし形になる』『この条件なしではひし形にはならない』という条件を見つけてみよう」と課題を出した。
生徒らはタブレットの画面を集中した面持ちで見ながら,四角形の形をさまざまに変え,ひし形を作ると,十字線を引いたクリアシートを画面に当てて対角線を確認し,ひし形になっているかを確認。10分ほどの間に,いくつかのひし形を試行錯誤しながら作り,気付いた条件を書き出した。
■考えをグループで共有
続いて,生徒3人1組で,各自が導き出した条件が正しいかを検証させた。これは,「たかもり学習」と名付けられた,同校独自の授業の流れ。授業開始時に,まずは個人で集中して思考し,その後はグループでアイデアを共有して,考えを深め合う。この一連の流れが,生徒の主体的な学習意欲と協働的な探究姿勢を培っていき,学びを深めていく。
生徒らは机を三角形に向かい合わせると,自分のデジタル教材の画面を仲間に見せながら,見つけた条件を説明。タブレットを使ってのプレゼンテーションなので,発見やアイデアの伝達がスムーズにできていた。
同教諭は,グループ間を回りながら議論をサポート。生徒らのデジタル教材の画面を指差しながら,「こうすると,この条件でなくても,ひし形が出来るんじゃないかな」「この場合,さらにこういう条件も考えられるのでは」などと,生徒らに,別の見方や反例などを示し,思考をより深める示唆を与えた。
グループでの探究と共有化を20分ほど行った後,練り上げた考えを各グループがミニホワイトボードに書き上げ,各代表者がそれを持って教室前方に出た。電子黒板も使い,発見した条件を説明。熱のこもった発表に拍手がわき起こった。
授業の終末で同教諭は「今日学んだことを書き出してみよう」と振り返らせた。さらに「今日はひし形だったけれど,長方形や正方形になる条件だとどうだろうか」と考えさせ,次時への意欲を高めた。
熱のこもった発表に拍手が起こった
■生徒の理解力が上がった
この授業展開について同教諭は,「図形を視覚的に捉え,一人ひとりが自ら操作し,図形を変化させられる学習者用デジタル教材だからこそ,生徒は自分で気付き,発見できた。もし学習者用デジタル教材がなかったら,この授業は行わなかった」と強調する。
また「デジタル教材の使用で,生徒の図形の理解力が上がっている。例年と比較して,そう感じる」と,手応えを語った。
タブレットの画面を見せ合い,考えを共有して練り上げる
■無線環境なしでデジタル教科書を提示
古庄泰則 校長
教えられてやるのではなく,生徒が課題を自ら見つけ,自ら解決するのが,本校の「たかもり学習」。より良い授業を提供するためには,ツールもより良いほうがいい。
数学の授業でいえば,▽抽象的概念を具体的に確認できる▽操作して試行錯誤できる▽1人で考える場面を大切にしながら考えた中身をグループで話し合う▽その中で学習内容の理解を広げたり深めたりする——。そういうツールとして,学習者用デジタル教材はとても役立っている。
そんな学習者用デジタル教材を使いながら,「あ,そうか」というつぶやきが生徒から出る。これも,学習者用デジタル教材の力が大きくあらわれている瞬間だと思う。
また特別支援学級でも大変役立っている。本校には2クラスあって,学習者用デジタル教材を使っているが,試行錯誤できるので,特別支援学級では非常に有効だ。
21世紀型学力や「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)が求められている。そのための道具として,学習者用デジタル教材は欠かせない。教員には,ICTをどんどん活用してほしいと言っている。
ICTだからこそできることを,大事にしてやっていきたい。生徒が豊かな心と確かな学力を身に付けるのが目的。本校の教員は全員がこれを理解していて,ICTならではの授業を構築している。
これからも目的をきちんと見据え,活用していきたいと考えている。
※執筆者の所属や役職は執筆時のものです