東京書籍

すべての人々に健やかな知的生活を

商品

評価関連商品 一般書籍

お客様

児童・生徒・保護者の皆さま 塾の皆さま 一般の皆さま

東京書籍

教科書・教材 特集

座談会 学校教育と働き方改革

学校現場での働き方の現状

髙岡 本日は小学校,中学校の現場の先生がいらっしゃるので,まずは学校での働き方について,日頃の様子なども含めてお話しいただきたいと思います。
片原 学校での働き方として,「時間」と「内容」について,日々感じている部分があります。 まず「時間」に関しては,朝7時半ごろに出勤して夜7時半ぐらいに退勤するという形で,毎日12時間ぐらい学校にいます。体力的にはいっぱいいっぱいで,どうやって1週間もたせるかというところです。私よりももっと早く来て,もっと遅くまで仕事をされている先生もいますが,子育てをしている方は1時間早く来て1時間早く帰る日があるなど,弾力的ではあります。新学期や評価の時期,大きな行事や研究発表の時期は,休日出勤で自分の授業の準備をする頻度も増えます。
「内容」に関しては,「まずは学校全体の仕事,その次に学年の仕事,最後に自分の仕事をやらないと学校が組織として回っていかないから,この順序はすごく大事だ」と,初任のときに教えられたことがあります。組織ですのでそのとおりなのですが,結局,一番やりたい授業の準備が最後に残ってしまいますね。
相馬 本校は,「担任の先生の取り組みやすいやり方で働きましょう」という雰囲気があります。各自の考えでかなり自由度があるので,定時に出退勤する先生方もいますし,かなり遅くまで毎日残っている先生方もいます。特に若い先生方は遅くまで残りがちで,抱えきれない量の仕事があるのかなと思います。
私は普段,吹奏楽部の朝練習をやっているので,朝6時半に出勤して夜7時ぐらいに帰ります。帰りはできるだけ遅くならないようにしていますが,中学校では生活指導がありますので,帰り際に電話がかかってきて,対応が必要なときには理想どおりに帰れない日もあります。
髙岡 お二人ともほぼ12時間勤務ですね。自分の感覚として,絶対評価が一般的になったころから忙しくなったような気がします。当然のことながら,適正な評価をしていくために,評価資料を集めて見なければいけなくなりましたので,それも一因のように感じています。
片原 今後も,小学校で英語や道徳が教科化されると,所見を書くにも言葉一つ選ぶことに腐心することになりますし,評価をするにしても,資料を集めて子どもをどう見取るかなど,非常に繊細な作業になると思います。授業の内容自体の見直しはもちろんのこと,それに伴って評価ということも関わってくるので,非常に気を遣ってやっていく部分が増えていくだろうという実感があります。
髙岡 本校では,毎年新規採用の先生が入り,たいへんですが皆頑張っています。先の見通しが立たないので,教材研究に追われる毎日です。また,分掌の仕事も一人で抱えてしまう傾向もあります。周りの先生方が声をかけてはいますが,心配な状況も見られます。
片原 小学校では,一緒に学年を組んでいる先生が新規採用の先生をフォローしています。私が働き始めたときも,例えば学年だよりのつくり方や保護者会での話し方,電話対応の仕方など,一緒に学年を組んでいた指導教官の先生に教えていただきました。
私自身が学生だったころには,「まずは自分で考えて,どうしてもわからなかったら聞きに来なさい」という教えを受けることが多かったので,最初はそのような感覚で臨んでいました。しかし,現場では「わからなかったらすぐに聞きなさい」と言われ,それを自分の中で受け入れるのにすごく時間がかかりました。ほかの先生方も仕事があって非常に忙しいのに,質問で仕事を中断させてしまってはいけないという迷いがあったのです。
髙岡 管理職としては,聞いてもらったほうがいいと思っています。そこで抱えてしまうと組織全体がストップしてしまいますし,聞いてくれることによってこちらもアドバイスができます。そのようなギャップがあるということは,新たな気付きです。
相馬 私が1年目のときに,同じ学年の担任だった主幹教諭の先生は,部活が終わったら必ずすぐに帰っていました。「そうしないと若い先生は帰れないでしょう。だから,できるだけ仕事を終わらせて帰るんだよ。そうなれるように頑張りなさい」と言われたのをすごく覚えています。それで私も,早く帰るようにしています。残っていると,若い先生のプレッシャーになるんですよね。
髙岡 働き方の範を示していくことが必要ということですね。こういった学校での働き方の様子を,齋藤さんはどう見ていらっしゃいますか。
齋藤 今,働き方改革は非常に注目されています。それは企業だから,学校だからということではなくて,日本全体の課題になっています。海外と比べると日本は極めて長時間労働で,その中でも学校は突出しています。学校の先生になる方は教育に対してのモチベーションがもともと高いので,それが逆に長時間労働を招いてしまう結果になっているのではないかと感じます。 1日12時間労働とのことでしたが,平成28年度の教員勤務実態調査では10年前より労働時間は増えています。当然,週60時間を超えていて,しかもデータに出ている数字に持ち帰りの時間は含まれませんから,ほとんどプライベートがないような先生もいるでしょう。学校周辺の仕事に全ての時間をかけている状況は,変えていかなければいけない時期だと思います。 また,学校教育に携わる人にとっては,時間の効率化だけが目的ではないと思います。例えば子どもたちに向き合う時間がより豊かになるとか,自分の教材がより充実して学習意欲が高まるとか,そのようなことが求められるのではないでしょうか。単に「統計が出ていて10年前に比べて忙しいから,一律に時間を週何時間削減しましょう」というのは,違うように思います。

働き方をめぐる最近の動き

髙岡 かつてに比べると開かれた学校づくりは進んでいると思います。私が勤務する府中市では地域コーディネーターという制度があり,本校では,その方々が,校内環境整備として飾り付けや,花を植えてくださったり,子どもたちにあいさつ運動をしてくださったり,側面から生徒指導を助けていただいています。それを働き方改革というと話が大きくなってしまうのですが,それにつながるような地域の応援団のお話などはありますでしょうか。
相馬 この間,運動会があったのですが,PTAの方々が皆さん本当に快く手伝ってくださいました。先生たちと一緒になって連携してくださったので本当に助かりました。
片原 本校はコミュニティ・スクールで,学校支援本部の方がいろいろな場面で助けてくださることが多いのですが,毎月,土曜の授業日は学校公開になっています。地域との関わりが持てるような授業や,何か特別な体験学習ができるような授業などをできる限り入れながら,地域と密に学習を展開していこうとしています。外部の方との連携などに関しても,学校支援本部の方が間に入り,授業がつくりやすいような状況をつくってくださっています。ほかにも「朝先生」という取り組みがあります。週2回程度,地域の方々が各クラスを見てくださっているので,教室を空けることの心配がすごく減ります。地域の中で子どもたちを育ててもらっているということを感じます。
齋藤 今年から文部科学省が始めた学校業務改善アドバイザーでも,地域連携の話がよく出てきます。アドバイザーには弁護士など,専門家も加わり,新しいナレッジが入ることで学校現場から新しい働き方が生まれることが期待されています。
髙岡 専門的な,教育以外の方のアドバイスをいただくことはすごくありがたいと思います。一方で,校長としては,どのような方に来ていただくかというのはすごく重要で,コーディネートにはたいへん気を遣います。 部活動についても,外部指導員を探す場合,誰でもいいわけではなく,顧問と指導方針が一致した人が望ましいです。そのような人たちをどのように探すのか,管理職として非常に難しいと思うところです。ちなみに,部活動の話は今一番話題になっていますが,吹奏楽部を担当されている相馬先生,最近の動きをどうお考えでしょうか。
相馬 私は土日も10~12時間ぐらい,夜6時までやっています。それは頼まれてやっているのではなく,自分がやりたいという思いがすごく強いからです。ただ,時間については,子どもたちと相談しながら決めています。
先日,ほかの学校の先生方とお話しした際に,学校によっては「『土日は何時間までしかやらないようにしましょう』のような方針があり,今までやっていたことができなくなってしまったのでちょっとたいへんだ」というお話も伺いました。「一律に部活動はこれだけにしましょう」ということになってくると,今の自分が目指しているものややりがいがとても中途半端なものになるので,私としては部活動をやる意味を見失ってしまうのではないかという怖さはありますね。
髙岡 部活動で居場所を確保している子どもたちもいますし,中学校にとっては大事な健全育成の一つの方法ではありますよね。ただその一方で,自分の専門外で顧問をやっている先生もいますので,そのような先生にとってはすごく負担があるかもしれませんし,非常に難しい問題だと思います。

働き方における課題と対処

相馬 本校では音楽の担当が今,私一人なので,合唱コンクールや文化行事委員会は私が担当しています。幸いなことに,私が今の学校に赴任したときにはすでに「できるだけ一人で抱えないようにして,事務的な作業はほかの人に手伝ってもらう」といった風潮がありましたので,できるだけ分担することを心掛けています。ただ,自分でやったほうが早いように思う部分もあるので,判断の難しさをすごく感じています。
片原 土曜授業や宿泊学習,特別な課外活動などが週休日に割り当てられていることがありますよね。これらは別の日に休めるように調整が割り当てられますが,もともとの年次有給休暇を使いこなせていないので,調整になっていないように感じます。これに関しては,働き方として解決していくべき課題だと思っています。
課題に対して私が自分としてできることとして行っているのは,小さい努力ですけれども,事前にやるべきことを確認して,事務作業で終わるものなのか,自分の中で考えてから取り組まなければいけないことなのかを選別しています。事務作業については効率的に終わらせる工夫をしてきて,少しずつですが時間の短縮につながっているのかなと感じています。じっくり考えてから取り組まなければいけない研究授業の内容などは,通勤時間の間に考えたり,頭の片隅に入れておきアイデアが浮かべば心の中にとめておいたり,といったやり方を試しています。プライベートの時間も常に考えていることになりますが精神的に苦しいものではないので,自分の中で見通しを持って仕事が進められそうだと思っています。
また,校務分掌ごとの会議や打ち合わせなどでは,自分が提案をするときには一つか二つ,結論を持っている状態で会議に臨むことを心掛けてきました。そうすることで,何もない段階から話し合うのではなく一歩進んだ段階から話し合えるので,実際に会議の時間が短くなるというメリットがあると感じています。
齋藤 意識をして取り組まれているのはすばらしいことですね。会議のやり方一つをとっても,民間企業のやり方と学校の現場のやり方とが大きく異なるわけではありません。議題やテーマがあって,解決策やどのような結果を出したいかを考えるという点については一緒です。
ある小学校の働き方改革のプロジェクトで,会議のやり方を変えたいと相談を受け,会議を全部見せてもらったことがあります。委員会ごと,校務分掌ごとに会議があるので,組織体イコール会議になっており,目的が明確化されていないこともあるように感じて驚きました。
民間企業だと,会議で1時間拘束すると人件費はいくらになるという話になります。従って会議ごとに意思決定なのか,問題解決なのか,アイデアを出したいのか,それともただの通達や連絡なのかを見極めて,適したやり方を選びます。事前に議題をチェックしたり,Web会議で済ませることもあります。
そのような考えを先生方はあまり持っていらっしゃらないような印象でした。忙しいために会議時間は30分ぐらいしかとれない状況で,毎回同じような議論を繰り返しているケースもありました。ですので,思い切って会議をやめてしまうとか,掲示板にみんながアイデアを書き合うとか,そういうことをやってもいいのではないかと思いました。
先生方はさまざまなアイデアを持っているのですが,会議の棚卸しということになると,考え方がバラバラなんですよね。年代や背景も違いますし,異動される方も多く流動的な組織なので,「そもそも何のためにやるのか」について話し合う機会を持つのも重要かなと思いました。学校の先生だったら考えが多様であるのはいいことなのかもしれませんし,専門性が違えば意見が異なるのは当然のことですが,こと働き方ということを考えると,共通の認識をつくっていったほうが抜本的な改革ができます。先生方もそういうものを学ばなければいけない時期に来ているということではないでしょうか。正解があるわけではないので,楽しみながら,学びながらやっていけたらいいのではないかと思います。
相馬 アドバイザーの方に入っていただき,そのような新しい風が吹くことで変わるのかもしれませんね。
齋藤 おそらく先生方は,新しい風が吹いてほしいと思っているんですよね。現場の先生は忙しいので,動くのはなかなか難しい。ただその一方で,事務職員の方の中には,今までの事務業務だけではなく学校マネジメントもサポートしたいと考えている若い方がたくさんいます。そのような方と学校の管理職の方が「どうしたら先生方がもっと働きやすくなるのだろう」と考えて動き,型をつくっていくことが重要だと思います。
髙岡 ある学校では,今年度から月1回,強制的にノー残業デーをつくったという話を聞きました。難しいように感じたのですが,「その日は無理に帰らせる」ようにしているそうです。型をつくるというのは確かに大事なのかなと思います。
齋藤 あとは,旗振り役の先生がいるといいですね。トップの号令は必須ですが,日々の働き方の中でおもしろさを発見する先生がいると,ほかの先生もみんな乗ってくる。子どもたちに教えるときも,子どもたちは楽しさがないと長続きしないでしょう。ですから,働き方改革も楽しさがないと続かないように思います。

魅力ある働き方に向けて

片原 働き方改革ということで何かをやろうとすると,時間をつくって取り組むことになり,どんどんやることが増えていくことになりかねません。ですから,何かを「やる」のではなくて「なくす」ことを意識することが必要だと思っています。
会議の時間は勤務時間内に確保されます。次の日の授業準備時間というような枠組みの確保が一番大事だと私は思いますが,なされてないという現実があると感じています。これでは,児童にとっても,保護者にとっても,教員にとっても最も優先すべき授業の準備にかける時間が最後になってしまいます。本日のお話で,会議をなくすということはできないにしても,目的を明確にすれば時間短縮はかなりできるのではないかと思いました。
相馬 例えばスポーツですと,昨今では代表の選手であっても1日中の練習は絶対にしませんよね。数時間練習してあとは自分で調整したほうが効率がいいといった話を聞きます。私のいる学校ではいわゆる外部クラブ化していないので,決められた時間でしかやっていないのですが,いわゆる部活動ではない形でもっと長時間にわたってやっている学校もあるでしょう。どうやって効率化できるのか私自身は常に考えていますし,それを多くの方と話し合ったり,一緒に取り組んだりする機会をもちたいと思っています。部活動だけでなく,それぞれの専門分野でさまざまな知識やノウハウを共有できれば,働き方の改革につながってくるのではないかと思います。
髙岡 先生の忙しさに,ようやくスポットライトが当たるようになりました。学校を取り巻く課題が多様化・複雑化している現在,いろいろな方面で注目されるようになったのは,教員の意識改革を進めるうえでも,開かれた学校づくりのうえでも,すごくいいことだと思っています。
齋藤 今,世の中では長時間労働は悪であるとされています。そのような企業にはみんな,若い人たちも入りたくないと思っている。だから,ひょっとすると先生になりたいと思っている人も,長時間労働だから嫌だというような,表面的な話をしている気がしています。 確かに長時間労働は持続可能性からいうと,克服すべき課題です。しかし一方で,働いている中での,例えば子どもたちの笑顔や子どもたちの成長,地域の人との関係など,労働時間だけでは計れない効果というか質のようなものが,もっと世の中の目に見えるようになったらいいなと思っています。それは民間企業もそうですが,学校では特に量的な計り方だけではない働き方改革,質の部分をもっと議論できる場をつくっていったらいいのではないでしょうか。