図鑑 古代ギリシア

図鑑 古代ギリシア

エマ・スタッフォード/監修 橋場 弦/日本語版監修

ISBN:978-4-487-81898-3
定価7,370円(本体6,700円+税10%)
発売年月日:2026年08月31日
ページ数:400
判型:A4変形

解説:
多様で豊かな古代ギリシア世界の興亡の歴史を読み解く1冊。
ミノア・ミケーネ文明の黎明期から、民主政の萌芽、アテネとスパルタが迎えた黄金期、マケドニアの台頭、そしてアレクサンドロス大王の急逝――。古代ギリシアの壮大な歴史をたどりながら、哲学、科学、芸術、建築、神話などについて、豊富なビジュアルで多面的に解説。最新のCGI技術でよみがえる、遺跡や当時の生活風景も必見である。

序文─日本語版監修者より

 このたびDK社のThe Definitive Visual Historyシリーズから、『図鑑 古代ギリシア』邦訳版を日本の読者にお届けできることは、日本語版監修者にとって大きな喜びです。
 古代ギリシア文明は、西欧近代文明の源流とよく言われます。しかし、古代ギリシア人が残した文化遺産は、欧米の人びとのみならず、全世界の人びとをひとしく魅了する普遍的な力を秘めています。ギリシア神話に登場する神々は、神様であるにもかかわらず、なぜあのように人間くさいのでしょう。
 ギリシア悲劇はなぜ私たちの魂を揺さぶり、喜劇はなぜ心の底から私たちの笑いを誘うのでしょう。ギリシア人はなぜ2500年も昔に、民主政治を実現できたのでしょう。本書はこうしたさまざまな疑問に、美しいビジュアル資料をふんだんに用いながら、しかも学問的な正確さをもって、答えてくれます。
 古代ギリシア史のビジュアル版概説書は、邦訳に限っても、とくにめずらしいものではありません。しかし本書は、時代の流れを縦糸として叙述するだけでなく、文学・芸術・建築・思想・科学などのテーマや、人びとの出生から死までのライフサイクル、そして文字・言語・奴隷といった具体的なトピックを、横糸としてきわめて豊富に織り込んでいることが大きな特色です。「パルテノン神殿」「アクロポリス」といったテーマの見開きページには、時系列の本筋を忘れて、思わず読みふけってしまう魅力があります。読者は必ずしも本書の冒頭からページをめくる必要はなく、目にとまるテーマをあちこち拾いながら読み進めてもいいでしょう。むしろその方が楽しいかもしれません。
 さらに目新しい特徴は、本書が旧来の概説書よりも、はるかに長い時代を扱っていることです。アレクサンドロス大王の東征と死をもってギリシア史の終焉と見なす19世紀以来の歴史観は、すでに過去のものとなりました。ヘレニズム時代やローマ時代になっても、ギリシア人は自分たちが共同生活を営む都市を、依然として「ポリス」と呼んでいたのです。ポリスの生命力は、かつて考えられていたよりも、強靱で永続的でした。時代を「区分する」よりも、「つなげる」ことの方に、現在の学者たちは関心を向けるようになっています。本書が、ミケーネ文明からビザンツ帝国の滅亡までを、ひとつながりの「長いギリシア史」として描いていることは、今日の歴史学の到達点を反映していると言えるでしょう。
 はるか時空を隔てた現代の日本に暮らす私たちにさえ、古代ギリシア文明は光を放ってやみません。本書が読者をその魅力ある世界にいざなってくれるよう、心から願っています。

日本語版監修者
橋場 弦
(はしば・ゆづる 東京大学名誉教授)

ゼウス神殿

ミノア美術

はじめに

 本書では、約40万年前にギリシアで初期人類が出現してから、15世紀にビザンツ帝国が滅亡するまでのギリシアの歴史を紐解いていく。ここで言う「ギリシア」とは、現在のギリシャが保有する領土だけでなく、ギリシア文化が花開いたすべての地域を指している。ギリシアの勢力が最大となったヘレニズム時代には、その影響力は、西は南イタリアやシチリアの植民市から、東はインドの国境にまで及び、南はエジプトにまで広がっていた。初期ビザンツ帝国の時代には、東方の地域はもはやギリシアの支配下にはなかったが、北アフリカや南スペインの一部もこの影響圏に加わった。
 ギリシアの歴史は、争いの歴史である。ギリシア世界を構成していた個々の都市国家同士の衝突は日常茶飯事だった。アテネとスパルタによるペロポネソス戦争は、常態化していた、資源や覇権をめぐる争いの中で、最も規模の大きかった例に過ぎない。それでも前5世紀初頭には、都市国家は団結し、壮大な規模の戦いでペルシアの脅威を撃退した。前4世紀もまた紛争の時代だった。アレクサンドロス大王がアケメネス朝ペルシアを滅ぼして領土を征服すると、前3世紀から前1世紀にかけて、大王の後継者たちは分割された領土の確立と維持をめぐって戦いを続けた。しかし最終的には、台頭するローマの勢力によってすべてが一掃された。

色彩豊かな世界

 古代ギリシアはその黎明期から、非常に視覚的な世界だった。青銅器時代には、キクラデス文明、ミノア文明、ミケーネ文明において、彫刻や彩文土器、壁画、貴金属を用いた精巧な工芸品が数多く生み出された。その後、初期鉄器時代に登場した文化では、初期の作品には幾何学模様が用いられたが、エジプトや東地中海から取り入れた彫刻や絵画の技術を急速に発展させたことで、人物造形の表現手法が確立された。この推進力となったのは、ギリシア人の物語への愛だった。それはまずトロイア戦争について語るホメロスの叙事詩に始まり、神や女神、英雄、人間たちの物語が、のちに詩や演劇、散文の中で、繰り返し語り継がれることからも、その愛の深さはうかがえる。視覚的な物語表現では、壺絵や壁画に描かれた特定の人物を識別しやすくするために、人物の傍らにはしばしば名前が書き添えられた。また、服装や持ち物に基づく図像言語も発達した。それにより、たとえば、三叉の矛を持っていればポセイドン神、獅子の毛皮をまとい棍棒を持っていれば英雄ヘラクレスであると識別できるのだ。
 時代が進むにつれ、アルカイック期から古典期にかけて、建築技術も発展した。その結果、石造りの神殿やギュムナシオン(体育場)、劇場、公共建造物、柱廊といった建造物が、日常生活の壮大な背景を形づくるようになった。これらの建造物によって、宗教儀礼や、演劇や運動競技、政治討論、商業活動、そして社交の場としての空間は、明確な形を持つようになった。ヘレニズム期および初期ローマ期には、地中海各地の様式的影響がギリシアの芸術家たちに取り入れられ、彫刻や壁画において風景描写や写実性への関心が高まるとともに、モザイク画のような新たな芸術形式も発展した。
 現存する豊かな物質文化に加え、文学や碑文などによって、私たちは古代ギリシアの物語をかなりの程度まで復元することができる。さらに、新たな発見や解釈により、ギリシア文学では十分に語られてこなかった、女性や子ども、障がいのある人々などについての知識も深まっている。

永続する遺産

 古代ギリシアの遺産は、現代の政治思想(とりわけ民主主義の理想)や、ギリシア哲学を源流とする現代科学、文学や演劇、視覚芸術、そして現代の大衆文化においてさまざまな形で語り継がれる物語の中に見て取ることができる。古代ギリシアを理解することは、私たちが生きる現代の世界を理解するための基礎となるのだ。

オリンピアの聖域

宝飾品

アレクサンドロス・モザイク(イッソスの戦い)

ヒュパティア

著者情報

エマ・スタッフォード(エマスタッフォード)
リーズ大学教授。専門はギリシア文化。

著者情報

橋場弦(はしばゆずる)
東京大学名誉教授。博士(文学)。専門は古代ギリシア史。
1961年、札幌市生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院人文科学研究科博士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科教授を経て、現在に至る。著書に『アテナイ公職者弾劾制度の研究』(東京大学出版会、1993年)、『民主主義の源流 古代アテネの実験』(講談社学術文庫、2016年)、『古代ギリシアの民主政』(岩波新書、2022年)、『賄賂と民主政 古代ギリシアの美徳と犯罪』(講談社学術文庫、2024年)、『探究する古代ギリシア・ローマ史』(共著、山川出版社、2026年)ほかがある。

コンテンツ

序文――日本語版監修者より

はじめに



1.幕開け 先史時代~前900年

ギリシア最古の文明/先史時代のギリシア/キクラデス文明/ファイストスの円盤/ミノア文明期のクレタ島/クノッソス宮殿/ミノア美術/ミケーネ人の台頭/ミノアの海上交易者/ヴァフィオの金杯/神々の夜明け/オリュンポスの神々/ギリシアの英雄たち/トロイア戦争/ミケーネ文明の終焉/レフカンディ

2.都市国家の台頭 前900~前600年

「暗黒時代」からの脱却/鉄器時代のギリシア/農業/言語と文字/イリアスとオデュッセイア/ポリス/アルゴス/幾何学様式の墓標/ギリシアの戦争/神話の生き物/ギリシアの統治/リュクルゴス/ギリシアの植民活動/健康と余暇/イオニア同盟/古代ミレトス/ギリシアの聖域/オリンピアの聖域/ゼウス神殿

3.後期アルカイック期 前600~前500年

文化の目覚め/哲学者/抒情詩/サッフォー/聖域の復元/スパルタの勃興/スパルタの社会/若者の記念碑/初期のアテネ/サモスのピタゴラス/民主革命/アテネ民主政/アテネのアゴラ/ギリシアの陶器/大ギリシア?/飛び込む男の墓/シラクサの勃興/旅行と移動手段/海戦/奴隷制/芸術家と職人

4.古典期のアテネとスパルタ 前500~前400年

対立の世紀/イオニア反乱/ダレイオスの侵略/歴史書と歴史家/ヘロドトス/クセルクセスの侵略/神託を仰ぐ/宗教的な祭儀/アテネ帝国/ギリシアの家/女性の生活/愛、性、結婚/リアーチェのブロンズ像/ペリクレス/ペリクレス時代のアテネ/アクロポリス/パルテノン神殿/古代ギリシアの劇場/戯曲と劇作家/第二次ペロポネソス戦争/ソクラテス/アテネの恐怖政治

5.不和と秩序 前400~前323年

新たな勢力の台頭/スパルタの覇権/刻まれた記録/アテネの外国人/ネアイラ/子ども時代/優位に立つテーバイ/死をめぐる流儀/ハリカルナッソスのマウソロス霊廟/死後の世界/ギリシアの医術/硬貨/ギリシアの経済/デルヴェニのクラテル/食べて飲んで/マケドニアの台頭/マケドニアの戦闘/アレクサンドロスの征服/自然科学

6.ヘレニズム時代のギリシア 前323~前31年

アレクサンドロスの後継者/プトレマイオス朝エジプト/プトレマイオス朝の勅令/アレクサンドリア/ファロスの大灯台/セレウコス朝の帝国/アンティゴノス朝/障がいと差異/牧歌/エペイロスの王ピュロス/同盟の時代/呪術と魔術/ペルガモンとポントス/ヘレニズム美術/休憩する拳闘士/ギリシアの数学/アルキメデス/テクノロジー/音楽/脅かされるギリシア/宝飾品/ローマによる征服/ミトリダテス6世

7.文化の存続 前31年~

ギリシアの再生/ローマ統治下で/世界を地図に/キリスト教の広がり/ビザンツ帝国の時代/ヒュパティア/後期ビザンツ帝国/オシオス・ルカス修道院のモザイク/ギリシアの遺産

8.要覧

都市国家/思想家と著作家/神と女神/神話/遺跡

用語集/索引