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生物に学ぶ ガラパゴス・イノベーション

生物に学ぶ ガラパゴス・イノベーション

稲垣栄洋/著

ISBN:978-4-487-81495-4
定価1,540円(本体1,400円+税10%)
発売年月日:2021年05月26日
ページ数:168頁
判型:四六判

解説:
島の生物には島の生物の強みがあり、島の生物には島の生物の戦い方がある。
ガラパゴスはダメなのか? ガラパゴス化はけっしてダメなことではない。
それは、「オリジナリティに満ちた進化」であり、「世界の常識を超えた進化」である。

生物にとって「競争に勝つとはどういうことか?」
「島の生き物たちの進化」を紐解きながら、
「ガラパゴスが生み出す新たな『新化』」や「ガラパゴス力を磨く」発想で、
ガラパゴスを強みに転換する「ガラパゴス・イノベーション」を説く

はじめに

1831年、1人の青年を乗せた測量船ビーグル号は、英国の港を出発した。この若き科学者こそが、後に進化論を唱えるチャールズ・ダーウィンである。
航海の途中で、彼は奇妙な島に立ち寄る。
その島の生き物は、大陸で見る生き物とはまるで違っていた。
南米大陸から900キロメートルも離れた太平洋上に浮かぶその島では、大陸と隔離されて、生き物たちがさまざまな進化を遂げていたのである。この生き物たちを観察したダーウィンは、生物は進化をするという「進化論」にたどりつくのである。
島という閉ざされた環境では、生物は独自の進化を遂げる。ガラパゴス諸島の奇妙な生態系は、こうして作られたのだ。
そして、21世紀の日本。
この島国では「ガラパゴス」というビジネス用語が存在する。
世界と閉ざされた島国では、ビジネスでも世界の潮流とは異なる進化が起こる。ダーウィンが奇異な進化を目の当たりにしたガラパゴス諸島にちなんで、この現象は「ガラパゴス」と呼ばれているのだ。
世界がグローバル化する中で、ガラパゴスはマイナスなニュアンスを持って語られることが多い。しかし、本当にそうだろうか。

結論から言おう。ガラパゴス化はけっしてダメではない。

  ガラパゴス化とは、けっして遅れた進化でも、劣った進化でもない。ガラパゴス化は、大陸の潮流とは異なる進化である。しかしそれは、別の見方をすれば、「オリジナリティに満ちた進化」であり、「世界の常識を超えた進化」である。
誰にもマネされないオリジナリティや常識を越えたイノベーションが求められる時代を生きる我々にとって、どうして、それがダメなことだと言い切れるだろうか。
もし、オリジナリティにあふれる進化で勝てないとすれば、それは戦い方が悪いだけなのではないだろうか。
それが本書の大きなテーマである。

ー想像を超えた進化ー

そもそも「ガラパゴス」の語源となったのは、ガラパゴス諸島だが、ガラパゴス諸島の「ガラパゴス」とはどういう意味なのだろうか。
皆さんは、草を食む大きな動物といえば、何を思い浮かべるだろうか。
ウシを思い浮かべるだろうか。あるいは、シカを思い浮かべる人もいるかも知れない。あるいは、サイやゾウを思い浮かべる人もいるだろう。
しかし、ガラパゴス諸島では違う。
ガラパゴスでは草を食んでいるのは、巨大なカメである。体重200キロを超えるような大きなゾウガメが、まるでウシやシカなどと同じ草食動物のように群れをなして草原で草を食んでいるのだ。
これまで発見されているガラパゴスゾウガメの最大の群れは、3000〜5000頭にもなる巨大なものだったという。
まるでウシのように群れをなして草を食む巨大なカメを、誰が想像しただろう。
誰が、そんな光景を思いつくことができるだろう。どんなに想像力を働かせても、カメがウシの代わりをしている光景を思いつくことは易しくない。しかしガラパゴス諸島では、そんな光景が、当たり前のように広がっているのだ。
ガラパゴスはもともと、スペイン語でゾウガメを意味する言葉である。
スペインの探検家たちは、ゾウガメが草を食んでいる常識外れの光景に驚愕したことだろう。そして、驚きをもってこの島を「ゾウガメの島」と呼んだのだ。ちなみに、ガラパゴス諸島は通称であり、正式にはコロン諸島という。コロン諸島は、コロンブスの名に由来している。しかし、この島々が正式名称で呼ばれることはない。「ゾウガメの島」は、それだけの強いインパクトがあったのだ。
ウシやシカが群れをなしている光景を「当たり前」だと思っている私たちからしてみれば、じつにオリジナリティにあふれた進化である。しかし、ガラパゴスにとっては、それは当たり前である。当たり前の進化が、世界に衝撃を与えているのだ。

ガラパゴスのオリジナリティあふれる進化は、これにとどまらない。
たとえば、鳥を思い浮かべてみよう。鳥は飛ぶものだと誰もが思う。
もちろん、世の中には飛べない鳥もいる。ダチョウやペンギンがそうだ。ダチョウやペンギンは、いかにも飛べなさそうな特殊な進化をしている。
しかしガラパゴスでは、いかにも飛べそうな姿をしたウが飛ばない。
もっとも、ガラパゴスのウは飛べないのではない、飛ばなくていい進化をしているのだ。飛ばないことが、このウの戦略なのである。
ペンギンは南極など寒いところにいると多くの人が思っている。しかし、赤道下に位置するガラパゴスにもペンギンはいる。ペンギンだから寒いところに棲まなければならないという決まりはないのだ。
このようにガラパゴスの生き物たちは、私たちの常識を大きく越えた進化を遂げているのである。

さて、島国である日本は、「ガラパゴス化」をしていると言われる。
大陸から離れ太平洋に浮かぶガラバゴス諸島のように、世界の潮流と離れた進化を遂げているというのである。
確かに世界の潮流からはずれれば、リスクもあるし、デメリットも大きいかも知れない。しかし、物事にはマイナスもあればプラスもある。マイナスばかりみて、嘆いているよりも、プラスの面を活かすことを考えてみても悪くはないだろう。
世界の潮流から離れた進化は、世界の常識を越え、オリジナリティに満ちた進化でもある。もし、「独創的」であることや、「革新的」であることが、求められているとするのであれば、「ガラパゴスの当たり前」ほど、強さを発揮するものはないだろう。
もう一度、言おう。
もし、オリジナリティにあふれる進化で勝てないとすれば、それは進化の仕方が間違っているのではなく、戦い方が間違っているかも知れないのだ。

ー「ガラパゴス力を磨く」ー

もしかすると、求められていることはガラパゴスから脱却することではなく、ガラパゴスを突き詰めることではないのだろうか。

しかし、現実を見れば、ガラパゴスの生物は、けっして成功しているわけではないのも、事実である。
ガラパゴスゾウガメのような特殊な進化を遂げた島の生物は、大陸からやってきた生物に追いやられて、絶滅に瀕しているのである。
だから、ガラパゴスはダメなのだ。そう思う方もいるだろう。
その通りである。ガラパゴスだけではない。現実を見れば、島で進化を遂げた島の生物たちの多くは今、絶滅の道をたどっているのだ。

ー島の生物の弱点ー

島の生き物には圧倒的にダメなところがある。それは、競争に弱いということだ。
もちろん、島の中でもまったく競争がないわけではない。しかし、群雄割拠の生き物たちがひしめきあう大陸という環境に比べると、島の競争はマイルドなのだ。
島の生物は、激しく競争することに慣れていないので、島の外から外来種がやってくると、見る見るうちに追いやられてしまう。そして、絶滅の道を歩んでしまうのだ。
まるで、グローバル企業の攻撃に、右往左往するどこかの島の企業を見るようではないか。
それでは、島の生き物はまったくダメな存在なのだろうか。
さにあらず。
競争に弱いというのは、より大きくより大きくと巨大化した体で相手を圧倒したり、巨大な力で相手をねじふせ合うような「大陸型の競争」に弱いというだけの話である。
何もまともに正面から戦う必要はない。戦い方は一つではない。さまざまな戦い方がある。それなのに、島の生物は戦い方がわからないから、まともに大陸の生物と戦ってしまう。そして、相手の土俵で、相手のルールで戦ってしまうのだ。
これでは、勝てるはずがない。
もちろん、生物の進化は時間が掛かるから、戦略を一朝一夕で変えられるはずもない。そのため、人間が持ち込んだ外来種の前に為す術もない。
しかし、私たちは知恵のある人間である。
人間は戦略を選ぶこともできるし、戦略を変えることもできる。
それなのに、どうして大陸からやってくる強大な力を前に、正面から競争しようとするのだろう。どうして、大陸に有利なルールで戦おうとするのだろう。
島には、島の生き物の戦い方があるのではないだろうか。

―ガラパゴスに学ぶ―

それでは、島の生き物の強みとは何だろう。
島の生物の進化には、大きく二つある。
一つは「正しい進化」である。
島という環境は、大陸に比べると敵も少なく、ライバルも少ない。そのため、競争相手を気にせずに、環境とまっすぐに向き合い、環境に適応した進化を遂げている。つまり、相手に勝つための進化ではなく、環境に対して「正しい進化」をしているのだ。
もう一つは、「独自の進化」である。
世界の潮流に流されることなく、独自の軸で進化が進んでいく。さらに、島という環境の持つ制約や条件が大陸の常識とは異なる常識を創り上げていくのである。
日本の「ガラパゴス」はどうだろう。ただ、嘆くべきものでしかないのだろうか。
私たちは人間である。
ビジネスは力の勝負ではなく、戦略の勝負であると知っている。
島の生物たちが滅びゆくのと同じように、自然の成りゆきに任せて滅ばなければならない道理はない。戦い方も戦う場所も、自らの頭で考えることができるはずだ。ましてや、これからは、アイデアやオリジナリティが勝負を決める時代である。まさにガラパゴスであることが、強みとなる時代なのである。
日本は島国である。どんなに努力しても、どんなに気取ってみても、日本が島国であることを変えることはできない。そうであるとすれば、背伸びをして大陸のマネをしようとしても勝ち目はないのではないだろうか。
島国は島国らしく、ガラパゴスの強みを発揮する方が、勝機が見えるようにも思える。
本書では、島の生物の進化を眺めながら、「ガラパゴスの強み」について考えてみたい。
ガラパゴス諸島の生き物の進化を目の当たりにしたダーウィンは、生物は神が創り出したものではなく、進化の結果、創り出されたものであるという進化論を導き出す。
そして、ある結論にたどりつくのである。

『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。(チャールズ・ダーウィン)』

これが、ガラパゴスから学んだダーウィンの言葉である。
はたして私たちは、ガラパゴスから、何を学ぶことができるだろう。

著者情報

稲垣栄洋(イナガキヒデヒロ)
一九六八年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、現在、静岡大学大学院教授。著書は『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)『都会の雑草、発見と楽しみ方』(朝日新書)『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書)『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など五十冊以上。

コンテンツ

はじめに ガラパゴスはダメなのか? 005
第1章  競争に勝つとはどういうことか? 017
第2章  島の生き物たちの進化 037
第3章  ガラパゴスが生み出す新たな「新化」 065
第4章  ガラパゴス力を磨く 097
第5章  ガラパゴス ・ イノベーション 119
第6章  ガラパゴスの成功者たち 131
おわりに 失われゆくもの 164