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小学校英語の文字指導_オンデマンド版

小学校英語の文字指導_オンデマンド版
リタラシー指導の理論と実践

アレン玉井光江/著

ISBN:978-4-487-81247-9
定価2,860円(本体2,600円+税10%)
発売年月日:2019年03月31日
ページ数:208
判型:A5判

解説:
児童英語理論の第一人者が、文字の読み書き(リタラシー)指導についての理論と実践(活動)をわかりやすく紹介しています。本書で取り上げた「聞く」「読む」「話す」「書く」という4技能をスモールステップで導入する指導法は、児童にアルファベットの確実な定着を促します。文部科学省発行の『We Can!』のSounds and Lettersに取り入れられている指導理論(オンセット・ライム)についても、関連する活動とともに詳しく解説。まさにリタラシーに関する指導理論の決定版とも言える書籍です。

著者情報

アレン玉井 光江(アレンたまい みつえ)
広島県広島市生まれ。青山学院大学英米文学科及び同研究科教授。日本児童英語教育学会理事。Notre Dame De Namur UniversityでB. A. in Englishを,サンフランシスコ州立大学でM. A. in TESL/TEFLを,テンプル大学で教育学博士号(Doctor of Education)を取得。専門は幼児・児童英語教育と第二言語習得。主な著書に『ストーリーと活動を中心にした小学校英語』(小学館集英社プロダクション),『小学校英語の教育法』(大修館書店)など。

コンテンツ

【目次】
1章
21世紀のリタラシー教育

2章
アルファベット学習(1) 字形と名前
【活動】①アルファベットの形に慣れよう/②アルファベット・ソングを歌おう/③アルファベット・ジェスチャーゲーム/④文字カードを見せよう/⑤アルファベット・カルタ/⑥アルファベットの形を体で作ろう/⑦アルファベット・ビンゴ/⑧アルファベット伝言ゲーム/⑨アルファベット・ミッシングゲーム/⑩早くカードを置こう(1)/⑪早くカードを置こう(2)/⑫文字の前後は何かな?

3章
音韻認識能力を伸ばす学習
【活動】①マザーグースに親しもう/②チャンツに親しもう/③消しゴムゲーム/④始まりの音に気づこう/⑤ハイ・テンゲーム/⑥同じライムを探そう/⑦「つかまえた!」ゲーム/⑧サウンド・テニス/(附録)ローマ字から音素を学ぼう

4章
アルファベット学習(2) 字形と音(フォニックス)
【活動】①音素体操をしよう/②音素体操からフォニックスへ/③文字の名前と音を復習しよう/④オンセットの文字を考えよう/⑤ライム (rime)から単語を作ろう/⑥ダイグラフ(2字1音)を学ぼう/⑦短母音を学ぼう/⑧短母音を言ってみよう/⑨長母音を学ぼう/⑩短母音と長母音の違いを学ぼう/⑪長母音が含まれる単語を読もう

5章
話し言葉とリタラシー
【活動】歌を使った活動をしよう(1)~概説?/①物語を通して歌詞を学ぼう(1)/②動作をつけて歌おう(1)/③独自のバスの歌を作ろう/歌を使った活動をしよう(2)~概説?/④物語を通して歌詞を学ぼう(2)/⑤動作をつけて歌おう(2)/⑥淡水魚と海水魚について考えよう

6章
リーディングの学習(初期段階を終えて)
【活動】①短母音を復習しながら単語を学ぼう/②長母音を復習しながら単語を学ぼう/③サイト・ワードを学ぼう/④文を読んでみよう(中学生用)

7章
ライティングの学習
【活動】①文字を写そう/②名前を聞いて文字を書こう/③音を聞いて文字を書こう(1)/④音を聞いて文字を書こう(2)/⑤短母音が含まれる単語を書こう/⑥長母音が含まれる単語を書こう/⑦単語を挿入して文を作ろう/⑧例文を参考に文を書こう

【まえがき】
 人類はなぜ「文字」を発明したのでしょうか? 話し言葉と書き言葉の違いはどこにあるのでしょうか? そして書き言葉から人類は何を得たのでしょうか?
 書き言葉について考えるとこのような疑問が次々とわいてきます。しかし,世界のすべての言語が書き言葉を持っているわけではありません。諸説ありますが,その数は半分以下だと思われます。書き言葉を持つ言語圏においても,すべての人々が書き言葉を獲得するわけではありません。書き言葉を持たない人は「非識字者」と呼ばれますが,おそらく世界人口の10%程度はそのような人々で,書き言葉を知らないまま生活を営んでいます。
 本書では,日本人児童がどのようにすれば,外国語である英語のリタラシーを獲得できるのか,特に学校教育においてどのような指導が適切であるのかについて述べています。日本の公立小学校における英語教育への取り組みは,世界的な潮流から見るとその導入が遅く,やっと始動したばかりです。
 2020年度より公立の小学校では,初めて外国語(英語)が教科となります。これはグローバル化に対応するために行われている平成最後の英語教育大改革の一環であり,これでやっと英語の早期導入が実現するわけです。この大改革を実行するにあたり,その必要性にもかかわらず,小学校段階で最も遅れが目立っているのが,本書で取り扱っているリタラシー指導なのです。
 私が児童英語教育におけるリタラシー指導の重要性を感じたのは,大学付属の研究機関で幼児から小学校の児童に英語を教えた経験からです。リスニングを中心にした音声教育を中心に授業を行っていましたが,ある程度の学習を積んだ子どもたちの英語力を伸ばすためには,技能を統合的に教えること,また日本人児童に合ったスモールステップでシステマティックなリタラシー指導が不可欠であると感じていました。また帰国児童を教えた経験からも,英語圏での滞在期間にかかわらず,文字と音との関連を理解して読める力を持っている児童は,英語の能力をより良く保持できることを知っていました。これらの経験から,日本のように生活の中に英語がない言語環境だからこそ,学習者は音を土台にしたリタラシーを身につけることが大切だと思うようになったのです。
 中学校以降の英語教育において,授業で何度も音読をする割には,初見の英文がスムーズに読めない学習者も多くいます。意味はわかるけれど日本語的にしか英語が読めない,または発音できない学習者も多くいます。これは文字と音の理解が乖離しているからでしょう。グローバル化および内なる国際化が進む現在,日本人が使える英語を身につけるためにも,音を大切にしたリタラシー指導が大変重要であると私は確信しています。

 私たちは小学校の入学前後から仮名文字を学習し,漢字を学んでいきます。国語の授業を通して日本語のリタラシーを身につけていきます。母語である日本語のリタラシーを獲得するのも難しいのですが,外国語という英語になるとそれはさらに難しくなります。だからこそ理論とそれを基にした実践,そしてその検証が必要です。
 本書で紹介している研究は,2回の科学研究費により遂行したものです。これらの研究で,私は公立小学校での効果的なリタラシープログラムを開発するために,担任の先生方と実際にチームティーチングをしながら,現場への理論の応用とその検証を行ってきました。
 授業では毎回7~8分程度を使い,帯活動としてリタラシー指導を行いました。週1回の指導でしたが,高学年の2年間の指導の結果,児童はアルファベットの大文字,小文字とその名前を完全に習得し,文字と音の関連についても子音についてはほぼ問題なく,母音についてもかなりの理解を示しました。
 そのような児童は当然,ある程度単語を読める力も身につけます。その効果は,彼らが中学校1年生のときに受けた外部英語テストにおいて,このプログラムを受けた生徒が他の生徒よりも最低点で30点以上も上であったことで証明されました。この結果,その地域全体でこのプログラムが導入されることになりました。その後,再び中学1年生を対象とした異なる外部テストの結果でも,他地域の生徒の成績と比べて英語だけはすべての中学校で点数が高く,プログラムの有効性を改めて認めるものとなりました。
 英語に特化した私立の中学校に入学した卒業生からも「塾などでやってきた人たちもいましたが,先生の音素体操(4章で紹介)のおかげで,音と文字との関係がわかっていたので,自信を持って英語を読むことができました」とお礼を言われたことがあります。最初は難しい顔をして授業を受けていた児童が,中学生になると英語ではクラスのリーダー的な役割を果たし,外部テストを積極的に受けていると中学の先生から聞いたときはとてもうれしく思いました。
 本書では,私がそのように研究者として取り組んできた研究について報告し,また児童英語教育の実践者として試みた公立小学校での活動を紹介しています。1章では,21世紀に求められるリタラシーについて考え,小学校での英語のリタラシー教育の目標を考えます。そして英語圏でのリーディング能力の発達についての理論を概説します。2章では読み書きの基本となるアルファベットと,その文字と名前の学習について書いています。3章では,リーディング能力を高めるために不可欠な力とされる音韻認識能力(話されている言葉の音構造に気づく力)について説明し,4章では,いわゆるフォニックスについて学習します。5章では,話し言葉とリタラシーの関連について,また効果的に話し言葉を育てる方法について述べます。6章ではリーディング能力をさらに高めるための効果的な指導法を解説します。最後の7章では,小学生を対象とした英語のライティング指導として,アルファベットの学習とフォニックスにも焦点をあてています。
 本書は,現在すでに子どもたちに英語を教えている先生,もしくはこれから先生になろうとしている人たちのために書きました。私は現場を踏まえた理論構築,または理論に基づいた指導法,および教材の開発につとめており,本書もその一つとして加わることになります。皆様方の実践にお役に立てれば大きな喜びです。

 人は通常,周囲の環境から話し言葉を自然に習得していきますが,書き言葉はそうはいきません。意識的な学習が必要になり,専門的な知識を持つ人に教えてもらうという「教育」が必要になります。したがって,学校教育の大きな目標の一つが読み書き能力を育てるリタラシー教育であることは当然であり,その力が他教科学習の基礎を築きます。さらに,今やリタラシーはただ文を読み書きできるという力にとどまらず,さまざまなシンボルを含む多量のものを理解し,意味を再構築し,産出する力を意味します。学校教育においても生涯にわたり活用できる能力とすべく,リタラシー指導を進化させなければならないでしょう。