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最後の楽園の生きものたち

最後の楽園の生きものたち

NHK「ホットスポット」制作班/編

ISBN:978-4-487-80949-3
定価3,300円(本体3,000円+税10%)
発売年月日:2015年11月28日
ページ数:216頁
判型:B5判

解説:
ホットスポットとは「その地域固有の動植物が多いにも関わらず、既に原生の自然の7割以上が失われ、今すぐにでも保護の手を差し伸べるべき緊急の場所」のこと。
NHKは世界35カ所あるホットスポットから12地域を選び、2008年から6年の歳月をかけて、ホットスポットで繰り広げられる大自然のドラマと絶滅の危機に瀕した貴重な生きものたちの命のきらめきを記録し、2011年に第1シリーズ6本、2014年から2015年に第2シーズン6本を放映した。
この、世界70か国で放映された、スペシャル番組を書籍化。800点ものカラー写真とともに、絶滅の危機に瀕した生きものたちの想像を絶する進化と神秘的な生態を伝える。
太古の生命の島、謎の類人猿王国、飛ばない鳥たちの楽園、魚たちの大進化の湖など驚愕の12テーマ。

ホットスポットと進化のドラマ —まえがきにかえて—

うっそうとした森を貫くアスファルト道路のかたわら、ヤマネコの派手なイラストが描かれた「飛び出し注意」の看板が目に飛び込んでくる。
ここは沖縄県西表島の東部を南北に走る幹線道路。
近年交通事故が多発し、その存続に赤信号が灯っているイリオモテヤマネコを守ろうというものだ。
イリオモテヤマネコの個体数は推定わずか100 匹。
絶滅の危険が極めて高い「絶滅危惧種」に指定されている。
道路を横切ろうとして、毎年数匹が交通事故で死亡しているのだ。
イリオモテヤマネコの例は氷山の一角。世界には、こうした動植物の例は枚挙に暇がない。
人間の活動が全地球の隅々にまで及び、もはや秘境などないと思われる今日、一年で4万種の生物が絶滅しているとする報告もある。
我々は今、恐竜絶滅を上回るスピードで、「第6の絶滅」に直面しているとも聞く。
こうした現状に触れるたびに、私はある有名な言葉を思い出す。

―どうやって直すのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください―

1992 年6 月11 日。
ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された世界初の「環境と開発に関する国連会議(地球環境サミット)」での出来事。
当時12 歳だった日系4世のカナダ人、セヴァン・スズキという少女から発せられたこの言葉が、世界各国から集まった政府のリーダーたちに深い感動と衝撃を与えた。
その「伝説のスピーチ」の一節だ。
以来、地球環境の保全、野生生物の保護を目的とした国際会議が定期的に続けられている。
しかし状況は果たして改善されてきただろうか?
むしろ悪化の一途をたどっているのではないか。
そんな憂鬱な気分が年々増していく中、2010 年10 月、日本の名古屋で節目とも言うべき第10 回目の国際会議(生物多様性条約第10 回締約国会議)が開かれることとなった。
実は、それがシリーズNHKスペシャル「ホットスポット最後の楽園」を制作するきっかけだった。
今こそ、地球から消えようとしている生きものたちの貴重な姿を伝え、自然と人間の共存の行く末を改めて考えるべき時ではないか?そう思ったのだ。
取材地として選んだのが「ホットスポット」。
ホットスポットとは「地域固有の動植物が多いにもかかわらず、すでに原生の自然の7割以上が失われ、今すぐにでも保護の手を差し伸べるべき緊急の場所」のこと。
国際的な環境NGOコンサベーション・インターナショナルが世界から優先的に35 ヶ所を選び出し、緊急の保護を訴えている地域のことだ。
私たちは、35 ヶ所の中からさらに12 ヶ所を選んで、絶滅に瀕した貴重な生きものたちの姿を記録してきた。
目指したのは「生命の多様性の圧倒的な力を映像化する」こと。
ハイスピードカメラ、超高感度カメラ、赤外線カメラ、水中リモコンカメラ、ラジコンヘリコプター、ドローン、コマ撮り装置等、ありとあらゆる最先端の特撮技術を駆使し、見たこともないような神秘の光景や世にも不思議な動物たちの撮影に挑戦した。
暗褐色のヒョウのような姿に進化したフォッサ(マダガスカル最大の肉食獣)の貴重な繁殖行動、砂漠にミステリーサークルを描き出すと考えられる小さなシロアリ、まるでほ乳類が赤ん坊に乳を与えるように稚魚に未受精卵を与えて子育てする巨大なナマズ、フクロウのような姿の飛べないオウムの珍しい求愛行動、果実を食べる草原のオオカミ、カエルや魚を捕えるコウモリ……世界で初めて撮影されたスクープ映像の裏には取材班の苦労話もまた多い。
ナミブ砂漠でのロケ。
気温40 度を超え、強烈な日差しを遮るものが全くない中で撮影スタッフが休息をとったのは車の下にできたわずかな日陰。
ボルネオでは樹上生物の撮影のため、高さ40m の巨木の股に撮影台をつくった。
カメラマンは夜明け前に登り、日が暮れてから下りる。
その間、用足しはペットボトルで!
また、アフリカの湖で夜行性の魚の撮影に挑戦したときは、水中リモコンカメラが送ってくる映像を小舟に揺られつつ24時間体制で寝ずの番で監視……などなど、過酷なロケの連続だった。
だが、シリーズが描こうとしたのは、奇想天外な生きものたちの姿だけではない。
地球の歴史の中で起きた大地や海のダイナミックな変動。
それが彼らの誕生に深くかかわっていることは案外知られていない。
なぜ、ホットスポットには、固有で独特な生きものたちが多いのか?
そこには地球上のさまざまな奇跡と偶然が引き起こした、知られざる進化のドラマが隠されている。
例えば、今日のマダガスカルに見られる不思議な生きものの世界は「恐竜絶滅を引き起こした巨大隕石の衝突という偶然」、「アフリカ大陸との間の500 キロという絶妙な距離」、そして「キツネザルの祖先が持っていた『休眠』という特殊な能力」という3 つの要素の絶妙な組み合わせがなければ存在しえなかった可能性が高い。
すべての命が、何千万年、何億年という地球の長い歴史の中で起きた、数々の「奇跡と偶然」の連続の結果、今、私たちの目の前に存在する―そう知ったとき、私たちの自然を見る眼差しはきっと、変わってくると思うのだ。

「NHK スペシャル ホットスポット 最後の楽園」制作統括 村田真一

本書でとりあげたホットスポット

オオアリクイ

ケツアール

ジャイアントパンダ

ホソロリス

著者情報

NHKホットスポット制作班(エヌエイチケーホットスポットセイサクハン)