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ICT サポート情報 デジタル教科書・教材を活用した授業への期待 2
サポート情報

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学習者用デジタル教科書の可能性


――最近は徐々に学習者用デジタル教科書の気運が高まってきていますが,そもそも,学習者用デジタル教科書をどのように定義していけばよいのでしょうか。


益子 私は,学習者の学習機会を設計するのは教師だと思っています。ですから,学校の中で利用するにせよ,持ち帰って利用するにせよ,使い方はいろいろあってよいと思います。 そう考えると,学習者用デジタル教科書は,学習機会を提供する教師が広がりを感じるもの,あるいは,先生方のいろいろな学習に対する考え方に適合するようなものであるべきだろうと思います。学習者の学習活動がより豊かになるように教師が工夫できるもの,これが一番重要ではないかと思います。


稲垣 指導者用デジタル教科書と比べたときに,学習者用デジタル教科書の一番大きな違いは,子どもたち一人一人が自分の画面を見て自由に操作できることですよね。要するに結果的には,一人一人みな違うものを見ている状況が生まれるわけです。そのような状況を支えられる授業の作り方,あるいはカリキュラムや時間割の組み方などをある程度保障していかない限りは,学習者用デジタル教科書を一人1台持つ意味はそれほどないだろうと考えています。自宅に持ち帰ったり,自宅から端末を持ち寄るといった姿は,その延長線上にあることなのかなと思います。今の段階で現実的に考えると,実際に学習者一人一人が自分の端末を持てる学校はまだまだごく一部だと思うんです。ほとんどの自治体では1校に数十台のところが多いですよね。その状況で教科書を丸ごとデジタルに置き換えるという発想には,ほとんど意味がないと思っています。そこで,まずは1グループ1台とか,数人で1台という状況でデジタル教材をあれこれと使ってみて,その効果の実証が積み重なっていった先に,一人1台による新しい可能性が生まれてくるのかなと思います。そこまで到達するには,まだ少し時間がかかるでしょう。


益子 学習活動の質の変化について,ある程度多くの先生方の同意を得られた後に,より広がりを持たせることになるだろうという稲垣先生の意見に私も賛成です。


稲垣 現時点で,紙ではできないデジタルの良さを引き出せるのは,多機能なシステムを高度に使いこなすことよりも,デジタルコンテンツそのものの良さを実感するところからだと考えます。




デジタル教科書と協働学習


――学習者用デジタル教科書を協働学習でどのように使うのかという質問をよくいただきます。学習者用デジタル教科書は,個別学習をイメージすることはできますが,協働学習用としてはどのようにお考えでしょうか。


益子 基本的に一緒に意見交換をしたり,自分にない意見を聞いて新しい発想を持ったりする活動の前提として,いろいろな意見がまず出る局面があり,そこで多様なものが保障されないといけないですよね。だから,逆にいうと,コラボレーションを活性化するような学習活動をしたいのであれば,個人の多様な考え方が保障されるコンテンツをつくることが必要だと思います。


稲垣 例えば社会科では,いくつかの異なる立場を示した資料やデジタルコンテンツがあり,それらをグループ別に選ばせて,それぞれの立場で意見を発表したり,議論したりといった協働学習を取り入れることができます。一方で,もっとシンプルに考えると,グループ1台でみんなで教材を見て,話し合うのも課題によっては協働になるのではないかと。


益子 そうです。そのとおりです。


稲垣 1台のデジタル教材をみんなで見ると,とりあえずみんなで話すようになりますよね。みんなで教材を見るだけなら,グループで机を寄せ合って集まって見ればよいわけです。そこでそれぞれの考えをミニホワイトボードに書いてもよい,付箋を貼ってもよい。デジタルだろうと,アナログだろうと,つくりたい学びの姿に近づけられる道具が使われるということです。だから,一人1台のデジタル端末の中で協働が起きなければいけないということにこだわりすぎてしまっているのではないかとも感じています。


益子 日ごろ行っている学習活動と,学習者用端末や学習者用デジタル教科書を別個に切り離さずに考えることが必要ですね。


稲垣 デジタルを使ったら急に協働学習ができるようになるわけではないですからね。


――コンテンツの問題というよりも,むしろ学習スタイルの問題ということでしょうか。




中学校におけるデジタル教科書


――来年度は中学校の教科書が改訂になりますが,中学校の指導者用デジタル教科書では,どのようなことが望まれているのでしょうか。


益子 小学校と違って,前提が教科担任制ですので,1週間に同じ授業を何回も行う先生がいることを前提に,デジタル教科書をつくらなければいけないですよね。そうすると,クラスごとに少しだけ雰囲気や学力の多様性などが異なるという状況が考えられます。したがって,クラス間の学習内容や進度の違いを吸収できるようなコンテンツがあるとよいと思います。もちろん,クラス内の個人差も大事ですが。それから,教科担任制ということで,小学校の先生とはやや異なる形で,さまざまな教科の教材研究をしている先生が大勢いらっしゃると思いますので,教科を担当している先生方がデジタル教科書のコンテンツを使うことで学習の幅が広がり,学びが豊かになるようなものができるとよいと思います。


稲垣 ICT環境面では,小学校に比べて中学校のほうが遅れているのが現状です。したがって,まず,どの教室でもすぐに提示できる環境を整えたうえで,指導者用デジタル教科書から導入していくべきでしょう。その意味では,デジタル機器に慣れているか,慣れていないかということを考えて,慣れていない先生でも,まず触ってみたくなるようなもの,簡単に操作できるものであってほしいと思います。もう一つは,先ほど教科担任制についてのご指摘があったように,先生が各自でつくられているさまざまな教材や深みのあるアイディアを,もっとシェアしやすくなるような仕掛けができるとおもしろいと思います。特に中学校では,教材研究のプラットフォームのような形で発展していくのがデジタル教科書の一つの理想型だと思います。さらに,デジタルだからこそできてほしいというところは,小学校課程で学んだ内容のフォローです。義務教育の完成が中学校と考えると,実際の問題として,小学校では指導しきれていない内容や,抜けてしまっている内容はどうしても出てくると思うんです。中学校と小学校の学習内容のリンクがデジタル教材でできれば,とても効果的な学び直しができる可能性があります。


――それによって中1ギャップが埋まるということですよね。


稲垣 そうですね。


――本日は,デジタル教科書についてさまざまな視点から貴重なお話をちょうだいしました。どうもありがとうございました。



※平成27年10月掲載(本対談は「教室の窓」2015.9月号に掲載の記事を一部修正のうえ再掲載したものです)
※対談者の所属や役職は掲載時のものです

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